テキスト | ナノ
※秀/良/子さんの「宇/田/川/町/で/待/っ/て/て/よ」パロ
※テキスト化に伴い話の流れが変わっていたり改編があります


一週間前、紫原は宇田川町でチームメイトを見た。正しくは、見たかもしれない、だ。なぜならば、その時のチームメイト、氷ちん、の服装は女の子が着るふわふわひらひらとしたもので頭にも茶髪の長いウイッグをかぶっている恰好だった。最初は女の子にしては広く骨ばった肩とかで男だと思って、顔を見たら、おそらく氷ちんだった。それからずっと紫原は氷室のことを考える、学業はいつものことだったがさらに手が付かず、一緒にバスケをしているときでさえどこか上の空になって彼のことを見てしまっていた。

「あれは、どうしたアル?」
「さあ、どうしたんですかね。アツシ、そんなに見てるとホモだって思われるぞ」

ホモはそっちじゃん、って言葉には出さなかったが紫原は思ってしまう。女装しているってだけで男が好きとも限らないんだっけな。そっち方面に疎い紫原はインターネットを使って検索してみるもどれもいまいち当てはまらないような気がして、結局その謎は直接本人に聞いてみるしかない。だったら一か八かで会いに行くしかない、確証がなければ失礼も甚だしいだろうし面倒なことになる。
そんな一か八かの末に、一週間後紫原は宇田川町で、あの女の服装をした氷室らしき人物を発見する。これまた前回に負けず劣らずひらひらとした淡い色のスカートをはいて、上の服も薄手でひらひらとしていた。この前逢った時はしっかりと見ていたわけじゃなかったから、メイクすればいいのに、と思っていたが、その顔を見れば、薄くであったがメイクが頬や目、口を中心に施されていた。
歩み寄っていくと氷室も気が付いたのか、少し慌てたようすで後ろを向いて背を向けて逃げようとしていたが、紫原はその手を急いでつかんだ。

「すみません、おひまですか。暇だったらお茶しませんか、俺奢るからさ」
「・・・・」
「って言われたらどうするつもりだったの、室ちん」

違う、これは罰ゲームで、となんとかごまかそうとする氷室に、どうして誰としてんの先週もだったの、そうやって言えば、氷室は頬を真っ赤に染めて少し泣きそうになりながら、なんだよぉ、何が目的なんだ、と下を向きながら言ってくる。目的、と言われて紫原は一瞬思考が停止したが、じゃあ付き合ってよ、と口からすんなりと言葉が出てきた。しかし、言った後に自分でも困惑して、え、となってしまったが、氷室はその倍くらい困惑していて、え、え、え、と母音ばかりを発音していた。暫くして落ち着いたのか、それ以外の言葉を発する。

「アツシはホモだったのか?」
「いや、違うけど」
「じゃあなんで?」
「えー、可愛かったから?」

彼女、基、彼こと室ちんがホモであるとか女装が好きなだけなのかはどうでもよくなっていた。服かわいい、他にもあるわけ、と手を握っていない方とは逆の手で彼の着ている服を摘まんで聞いてみたけれど、氷室はそんなこと頭に入ってきていないのか、お前なんなんだよ、離してくれ、と力なくつぶやくだけだった。






きっかけは、まだ半年前、アメリカにいたときの彼女だった。明るくてジョークが好きな彼女に言われて、女物の服を着せられた。日本人では高い方の身長だったが、彼女の服はギリギリ着ることができて、そのまま慣れない靴で外に引っ張られた。
もう疲れた、帰ろうと提案しても彼女はもうちょっとだけ歩こうよと言って手をひっぱてた。ちょっと声が大きかったのか少し離れたところから男たちが歩いて近寄ってくる。

「なになに、喧嘩?」
「ちがうしー」

そんな会話を彼女は楽しそうに男たちとしていて、俺は少し離れたところから見ていてた。そんな俺に一人の男が近寄ってきて、一緒に遊ばない、と提案してきた。少し驚いて黙ったまま彼を見ていたら、無口系なんだ、それにしても『かわいいーね』と言った。どうする一緒に遊んじゃう、とか愉快そうに笑いながら聞いてくる彼女の言葉なんてどうでもよかった、ただ、その言葉が頭から離れない。
彼女と別れて、日本に来ても、どうしてか女装だけはやめられなかった。ついついかわいい服を着ている女子の姿を氷室は追ってしまっていた。今だってそうだった、近くの女子高の制服を無意識に目で追っていた。あの制服プリーツがやわらかくてかわいいな、なんて思ってしまっている。後ろから声をかけられる。

「ねえ、制服とか着ないの?」
「うわあああ」

思わず少し叫んで逃げてしまった。
アツシのことはよくしらない、一応チームメイトだけれど、いつもぼんやりとしていてお菓子を食べている、それだけしか知らない。
それからもずっと見られていて、怖い。げんなりとしていたらクラスメイトから、来週の合コン、桐皇は無理だったけど誠凛だったら紹介できるって、来る、と聞かれて、じゃあ良い、と氷室は返した。なんで、誠凛もかわいいじゃん、そんなふうにいうクラスメイトに「桐皇の方が好きだから」と氷室はまた返す。制服が、とは心の中で呟いた。
その日、部活の後体育館裏に来て、と紫原に言われたけれど、氷室は逃げた。正直に言えば怖いにつきる。何考えてるんだ、ってか本気なのか、とか考えながら帰宅している人でごった返す街を歩いていたら、後ろから衝撃が走る。振り返れば何か入った紙袋が投げつけられていて怒った様子の紫原が立っていた。何か氷室が言う前に、紫原が口を開いた。

「逃げんじゃねえよ、お前のしてることばらされてーの!」

待ちゆく人々がこちらを見て騒いでいるが正直いって紫原が怖すぎて、氷室はそれに気が回らなかった。
氷室の足元には先ほど投げた紙袋が転がっている。それに氷室は視線を移す。見えたのは桐皇の女子の制服。「着てよ、それ。あ、これ命令だから」と言った紫原に言われて、近くの建物のトイレに連れて行かれる。男子トイレの個室で、氷室は服を着替えた。思ったように、桐皇の制服はかわいくて仕立ても綺麗だった。いーな、と思ったのと、どこから持ってきたんだ、という疑問を持ちながらも制服を着替えた。まだ、と扉をたたかれてびくっとしながらも氷室は扉を開けた。

「ほら、やっぱり、似合うじゃん」

満面の笑顔で氷室はそういわれた。それに柄にもなく照れて、氷室は紫原から視線を反らした。変態なんだな、と氷室が言えば、あんたでしょ、と言われて、思わず、俺、と思ってしまう。女装してるからそうなんだろうか、とか思っていたら急に腕を握られた。どうしたんだと思って視線を戻せば、赤面した紫原がいて「き、キスしても良い?」と聞いてきて、いろいろと抵抗したけれど、結局流されるようにキスをした。
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