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これの後の話/WCで青峰が負けた後



携帯に表示された文字を見て黄瀬は慌てて家から飛び出した。全然心の準備なんてしていなかったから、服だって適当なジーンズとTシャツだ。服と同じように、玄関に転がっている黒いスニーカーに適当に足を黄瀬は突っ込んだ。しっかりと靴は穿けていなくてかかとを踏んでいる。それを綺麗にはきなおす時間すらも黄瀬には惜しまれた。
慌てて玄関のドアを開ければ、青峰が寒そうに上着のポケットに手を入れたまま立っていた。よう、とその立ったままの恰好で青峰は挨拶というには短すぎる言葉を発した。外はすでに暗くなっていて、ただでさえ12月で冷え切っている気温だ。青峰は薄着の黄瀬の様子に顔をしかめて、上着を一枚脱いで突き出した。

「良いッスよ、取ってくるから」
「良いから、」

何に焦っているのか分からないが、青峰は黄瀬の手を引っ張って玄関から出すと後ろから上着を羽織らせた。そのまま腕を引いて、歩き出す。羽織らされた上着がずり落ちないように手で抑えながら黄瀬も連れて行かれるままに足を進めた。しっかりと履けていないスニーカーが脚をうまく動かしてくれなくて、青峰の歩く速さに黄瀬はついていけなかった。そんな黄瀬に合わせるように青峰は歩く速度を落とす。

「どうしたんスか、急に会いたいって?」
「あー、とりあえず、今まで悪かったな。それから、昔の話なんだけどよ」
「あれのこと言ってんの、あんた?」

あれ、とは中学卒業間近の黄瀬からの告白だった。突然で、青峰は何も言えなかく、それから卒業するまで会話という会話もなく、高校になってあったのはインターハイの時ぐらいだ。
「あんときのお前の告白の返事、今でも良いか?」と、青峰は黄瀬を見ることなく聞いてきた。吐き出した息は白く染まったが、すぐに周りの空気と同じようになって消える。周りはクリスマスのイルミネーションで彩られた家や店ばかり。赤と黄色と青とイルミネーションの光が消えては点いてを繰り返す。「なんで、今更、マジ遅せえ」と黄瀬は小さくつぶやいた。

「あんときさ、突然で何も考えらんねかったけど、やっぱりお前が好きなんだと思う。荒れてた俺とお前ずっと一緒にいてくれたの、思い返せばすげえありがてーことだった」
「まあ、傍にいたのは下心があったッスからね」
「下心があってもよかったんだよ。なんてんだろな、俺バカだからうまく言葉で言えねえなあ」

頭を青峰はがしがしとかいた。言いたいことはあったはずなのにうまく言葉が浮かばない。「とりあえず、お前が大切だって思った、それから好きだと思った。言いたいことはそれだけだ」と言い切ると、青峰は歩く足を止めて黄瀬を見た。もう俺のことどうでもいいか、と青峰は聞いた、その表情は彼には珍しく不安そうに見えたのがこの雰囲気で思うこととは違うのだろうけれども、黄瀬には面白く思える。笑えるのを我慢して、何でそう思ったんスか、と逆に聞き返した。

「お前、俺のこと憧れるの止めるとか言うし、俺試合で負けたし」
「憧れるのは辞めた、うん、辞めたッスね。けど嫌いじゃない。告白の返事は曖昧ってかビビってちゃんとしてくんない意気地無しでも、負けたって俺のヒーローはあんただし、ひねくれ者だって根は優しいこと知ってた、だから、いつも後にいたけどホントはずっと隣にいたいって思うくらいには」

今でも好きッスよ、と微笑みながら言えば青峰は黄瀬の手を引いた。体重移動がうまくできなくて、倒れそうになる黄瀬を青峰が抱きしめるようにして受け止めた。人が見てるからやめろ、と黄瀬が言っても青峰はそのままの体制を辞めない。悪かった、好きだ。そんな言葉を耳元でささやいて、一層強く抱きしめる。黄瀬は青峰の肩に手を置いて「人が見ってるって」と言いながら青峰を押しかえそうとしていたがその力は弱く形だけのもので、されるがままに抱きしめられていた。ずっと好きだった、どんな彼でも傍に居たくて下心で傍にいた。
告白されて長い時間かかって分かったけれど、ずっと支えてくれていた、そばにいてくれた。そのことに気づいたとき、幼心でその時の気持ちが理解できなかった。今ならば、その気持ちの全てを受け入れて大切だということが分かる。青峰は、キスしてえ、と呟けば、早過ぎだろ、と抱きしめられたままの黄瀬が笑った声がして、こうしてまた笑えることができてよかった、と青峰は目を閉じて黄瀬の言葉に耳を澄ました。




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