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※黄瀬が死んでます

ピンポーンとチャイムがなって、慌てて青峰は玄関に向かう。扉を開ければあれは嘘で戻ってきたんじゃないだろうかと思って帰りを期待していた人物はいなく、帽子をかぶって縞々のシャツを着た宅配便を届けに来た業者がいた。「ハンコとサインお願いします」そう言って、手渡したのは白い封筒だった。送り主の名前を見て、青峰は急いでサインを書きハンコを押した。
受け取った封筒を見れば真っ白い封筒に宛先だけが書いてあった。本当は下手なくせに意地を張って綺麗に整えようとした黄瀬の文字。
青峰は他の手紙を投げ捨てた、すべての封筒や紙は手から滑り落ちて床に散らばった。青峰は鋏を探す時間も惜しんで、封を乱暴にだが中身の手紙まで切らないように慎重に封筒の上を千切った。中には2枚の便箋が入っていた。一枚は昔悪ふざけで書いたいもので、子供が生まれないなら遺産とかちゃんとしとこうぜ、そんな悪ふざけで書いた遺書だった。もう一枚はつい最近書いたであろう便箋だった。

「捨てられるくらいなら死ぬ、なんて、冗談だって言ってっただろ」

便箋に書かれた文字列の一行目、真っ白な便箋にボールペンで書いてある。あんたに捨てられるくらいなら死ぬ、昔そう言って黄瀬は笑っていた。冗談だって思っていたのに、黄瀬は本当に死んだ。お互いのことを考えたら別れた方が良い、そう言った青峰に黄瀬は見たこともないくらいに怒った。久々に殴りあった、ぼろぼろになって怒りながら泣いた黄瀬は「ぜってぇ、別れないからな」そう言って一昨日家を出て言って昨日自殺して今日手紙が届いた。
青峰は手紙の続きを読みたくなかった。黄瀬が死んだ、それが自分のせいだと、黄瀬自身から言われるような気がした、黄瀬が死んだという事実を受け入れなくてはならないそんな気がした。それでも続きの文字に目を落とした。好きだった、愛していた、子供もいらないし家族を捨てても良い、仕事だって名誉だってなんだって、大輝と一緒に居れれば要らなかった。一緒にいてくれてありがとう、そんな感謝の言葉しか書いてなかった。それが逆に辛い。

「俺だって、そうだったのに勝手に死にやがって・・・」

奥歯をきつく噛み締める。手放さなければよかったのか、という後悔をしても遅い。最後の方に何度も書き直した後の上に、他の文字よりも薄い文字で「おじいちゃんになってもバスケをしてる大輝でいて、子供や孫も見たい、一年に一度はお墓参りに来てくれたらうれしい、我儘ばかりでごめん」そんな言葉が書かれていた。泣いているのか水滴が落ちて渇いた、変色した小さな丸い後が一つ二つ便箋についていた。

「泣くぐらいなら書くなよ」

手紙を綺麗に畳んで封筒に入れた。一生忘れないで俺以外を見るな、そんな我儘を描けばいいのに、我儘で自己中心的に見えていざとなったら身を引く。もっとぼろぼろになるくらいに喧嘩して、嫌だと駄々をこねて俺を説得させればよかったのに、馬鹿だ。
ロッカーに向かうと黒い喪服を取り出して、慣れない手つきで青峰は喪服に袖を通した。黄瀬から届いた手紙を二つ折りにしてしわにならないように胸ポケットに仕舞う。家を出て近所の花屋で青峰は花束を作った、黄瀬の好きだった黄色と青色の花ばかりの花で作った花束。「誰か恋人とかいい人に渡すの?」店員は大きな花束を青峰に手渡しながらそう聞いた。おそらくスーツというかっちりとした姿と大きな花束を注文したからだろう。

「恋人に会いに行って謝りに行ってくるんで」

花束を受け取って青峰は、そういってから静かに笑った。




それだけのはなし/自慰
青峰が亡くなりました
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