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※青峰が死んでます/成長



リビングに入ってから、黄瀬はテーブルの上に置かれた白い紙に気が付いた。どこかに行ってくるとかそんな伝言が書いてあるメモだと思って、近寄ってから手に取ろうとする。テーブルに置かれていた紙はメモ紙なんかではなくて、きちんとした封筒だった。メモではなく誰かからの手紙かと思ったが、封筒には汚い青峰の文字で黄瀬へとだけ書いてある。黄瀬は何か変だと思いながら、上の方をびりびりと細く千切って封筒の封を切り、中の紙を出す。
1枚目の1行目に目を通した途端に、黄瀬は携帯を取り出して青峰に急いで電話をかける。コール音が嫌に長く聞こえるが、結局青峰は電話に出なかった。
青峰と黄瀬が再会できたのは、そのあと2時間後だった。病院で横たわる青峰は、ただ眠っているだけのようだった。黄瀬はそっと横に座って、青峰の足に触れた。

「やっぱり、俺よりバスケッスか」

封筒に入っていたものは遺書だった。それも昔、お互い悪ふざけで書いたもの。子供ができないんだから遺産とか遺品とか書いておいた方が良いんじゃねえの、そんな悪ふざけで2人で書いて引き出しの中にしまっていた物だ。
青峰が脚を故障したのは1年ほど前、もうリハビリをしても元のようにバスケはできないだろう、そういう宣告を医者からはされた。黄瀬も青峰も諦めずにリハビリをしたが、よくなる経口は見えなく、青峰は荒れた。青峰は物心つく前からバスケをしているような男だから、バスケは生活の一部のようなもので、それができなくなることがどれほど辛いかは黄瀬にはわかっていた。

「俺だけじゃあやっぱりダメだったッスか」

動かない青峰の脚を、薄い毛布の上からさすった。当たり前だったが、反応はない。けがをしてから何度もマッサージをした、それをまた意味がないと分かっていても同じように黄瀬は動かない青峰の足にする。
バスケができなくても黄瀬と一緒に生きていてえな、そうやって笑ってくれるのを待っていたのに、そうなる日は来なかった。脚に触れる手の動きを、黄瀬はやめた。その手を今度は青峰の顔に近づけて、頬に触れた。「せめて、俺も一緒に死にたかったんスけど」そういって、冷たくなった唇に黄瀬は指先を触れさせる。指先には幾度も味わったぬくもりもなく、心なしか固くなっている気がした。

「俺のこと、ちょっとは考えてくれたんスかねぇ。あんたがバスケが無いとダメなのと同じで、俺はあんたがいないとダメなんスけど」

それなのに柄にもなく、俺が死んでもちゃんと生きて幸せになれよ、なんて手紙に書くな。そういって叫んでやりたかったのに、今では叫ぶ相手もいないのではこの気持ちの行先はどうしたらいい。「死にたくても死ねえじゃん、アホ峰」そういって、黄瀬は固くなった青峰の頬に指先を当てて軽く突く。「あんた抜きで、幸せになる方法なんて俺は知らねえっての」また一突き。あんたが幸せを俺に教えてくれたから、俺の幸せってあんたなんだよ、知ってんだろ。
頬をつついていた手を辞めて、ベットに置かれている青峰の手に重ねた。それから指にあったお揃いのペアリングを外す。それを自分の指にある指輪の上に嵌めなおす。黄瀬の指に同じ指輪が縦に二つ並んだ。

「ちょっと遅くなるかもしれないけど、待っててよ。またすぐ隣に行くから」

置いて行かれるのはもう勘弁だ。黄瀬はポケットから1つの白の封筒を出した。



それだけのはなし/自慰
黄瀬が亡くなりました
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