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同棲パロ/社会人


靴を履いて靴ひもを締める。立ち上がってから、いってくるわ、と言えば、いってらっしゃい、とだけ奥の部屋から返ってくる。鞄を持ってドアを開けようとして手をドアノブに置いたところで、青峰はふと急に考えることがあった。それが当たり前なのだろうけれども、最近それだけしか言われてないことに気が付いた。昔はどこに行くのか、何時に帰ってくるのか、誰に会うのか、しつこく黄瀬は聞いてきていたのに、質問がいつの間にかひとつ消え二つ消えしまいには、いってらっしゃい、しか返ってこなくなている。ついでに言えば、言ってきますのキスも時たましかしなくなっている。
黄瀬、と青峰が名前を呼べば、何ッスか、と言って黄瀬が足音をさせながら玄関に来る。

「お前さ、簡単に俺を送りだすけど、疑わないわけ?」
「何を?」
「浮気とか、さ」

そこまで言えば黄瀬は、不快感を顔に露わにしてから演技みたいにわざとらしく肩を落とした。それからゆっくりと落としていた顔を持ち上げると苦虫を噛み潰したような表情になっていて、そのままの表情で「また、してんのかよ」といつもよりワントーン低い声色で青峰に告げた。

「いや、例えばの話だかんな、今はしてねぇよ」
「どーッスかねぇ、前科があるから信用できねぇだろ」

青峰の弁解はさらに黄瀬の疑いを深くさせてしまうだけだ。青峰は過去に黄瀬が知っているだけで3回は浮気をしていた、それから別れ話に3回なった、それで3回別れた。
疑いのまなざしで見てくる黄瀬に、青峰は更に黄瀬を怒らせる前に話を先に進めた。「いや、だから俺が出かける時、お前何も聞かなくなっただろ、だから浮気とか心配じゃねぇのかなって・・・俺、前科あるし」という最後の方で青峰は黄瀬の視線に耐えられずに声が小さくなり、視線も黄瀬からそれさせた。そんな青峰の様子を疑い深い目線で観察しながら黄瀬は腕を組んだ。見てる限り、今は、浮気してないだろうと分かって、黄瀬は口角をわずかにあげた。それから悪戯に「それは俺も言えることッスよ」と言う。

「青峰っちがどっかで浮気している、かも、しれないとき、俺だって男とか女とか連れ込んで浮気している、かも、しれないッスよ」
「してんのか、よ」
「だから、例えばの話だってば」

驚いたように顔を再び黄瀬に向けてきた青峰に、さっき青峰が黄瀬に言った言葉を意地悪く黄瀬は引用して答える。青峰は何も言えずに黙り込んでいて、それを黄瀬はざまあみろ、と内心思いながらほくそ笑んだ。
それから一歩近寄って、玄関の段差で自分よりも少し身長が小さくなっている青峰の首に腕を回すと、首元に唇と這わせる。されるがままになっていた青峰もさすがに少し驚いて、おい、と静止の声をかけるが黄瀬はそんなの知ったことかと青峰の首元を吸った。唇を離せば、浅黒い青峰の肌では分かりにくいが赤い鬱血痕が一つできている。

「まぁ、浮気してないだろうけど一応ね、付けといたから」
「だから、してねぇって言ってるだろ。まだ疑ってるのかよ」
「前科持ちだから疑ってるに決まってんだろ」

首に腕を回したまま、黄瀬は青峰から目線を離さずに言って、だけど、と黄瀬は言葉をつないだ。「今までに、あんたの浮気で3回も分かれたけどさ、その癖一週間から一か月以内には俺により戻そうってあんた言ってきたから、どうせ浮気しても俺が一番なんだってわかったから、もう何も言わないで送りだしてんだよ」そう言って、黄瀬は笑みを浮かべて青峰の首に回していた腕を解いて、青峰から距離を取った。
今、黄瀬が言った通り今まで3回浮気して、3回別れたけれど、こうしてまたよりを戻した。別に好きな奴ができたから別れてくれ、と言ったかと思うと、一週間たって、悪ぃ、とか言って平気で戻ってくる。自分は青峰だけしかいないと思っていたが、青峰もいつのまにか同じような状態になっていた。

「浮気をしても、あんたはまた戻ってくるよ。あんたのことは俺が一番知っているから俺には分かる」
「自意識過剰だな、否定はできねぇけどな」
「けど、俺は浮気してるかもしれないし、放っておいたら俺が出て行ってしまうかもしれないッスよ」

だから、早く帰ってこいよ。そう黄瀬は言って、久しぶりに青峰にってらっしゃいのキスを、額にした。何で額なんだ、と不満そうな青峰をしり目に黄瀬は「いってらっしゃい」と手を振って送りだした。青峰も、いってくる、と言ってやっとドアに手を置いてから出て行った。見栄を張っているけれど、やはり送りだすのは不安だとは言わない。



お終いを描くことでしか未来を語れない不自由な僕等
title by 花畑心中
全く話に出てないけどデルモとプロ選手って設定でした
リクエスト:もちこさん(めんどくさいと思いながらも一緒にいる二人)
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