テキスト | ナノ
部屋に向かって歩いていると、後ろから視線を感じて紫原は振り返った。他人と比べたことはないからあまり視野は広いというのか分からないが、視野が狭くてもとある人からの視線は、脳に直接見られているという信号が届くくらいに敏感だ。気づいてしまうのは紫原の方も、あまり意識していないがとある人のことを目で追っていることも否定できない。
そこにはやはり氷室が経っていて、紫原は「なーに、何か用?」と声をかける。いつもとかわらないポーカーフェイスで静かに氷室は横に首を振った。

「室ちんってさー、たまにってかよく俺の方を見てるよね」
「そうかな?」
「そうだよ、殺してやるっていうくらいなんか怖い視線感じるし、室ちん、俺のこと嫌いでしょ」

そう紫原がそういえば、氷室は無表情を少し崩して笑うと、違うよ、と否定した。だけど、すぐにちょっと嫌いだけど、と肯定も表した。
離れていた距離を詰めるように歩いてきて氷室は横に並んだ。自分よりも20センチも大柄である紫原の顔は氷室から見えなくなるが、紫原からも氷室の顔は見難くなる。それでも隣に並ぶ。
「アツシが、もしも才能だけでバスケをしていたら大嫌いだったけど、ちゃんと練習するし大嫌いになんかなれなかったよ。むしろ、かっこいいいなって思ってさ」と言ったかと思うと、紫原の方に体を向けて腕を伸ばして紫原を引き寄せた。それから少し長いキスをした。

「好きになったよ」
「室ちんって、やっぱりアメリカ帰りだね、キザー」

今度は紫原の方から腕を伸ばして、氷室の顔を方に向けさせて今度は軽い触れるだけのキスをした。
俺はアツシに嘘をつく。彼を愛してはいるし嫌いではないけれど、それでも時たまに彼がうらやましく自分が惨めで、それを自覚してしまい更に惨めになるという悪循環の渦に巻き込まれてしまうときがある。
人目も気にせずにキスした後、抱き合っていたら「けど、やっぱり室ちんは俺のことが嫌いでしょ」と紫原の声が聞こえた。「俺のことが羨ましいでしょ」とも言葉を続けた、それから氷室の表情をうかがうように抱きしめていた身体を離した。思わず氷室は息を止めたが、苦笑して誤魔化して「そんなことないよ、お前がバスケが好きなのはウィンターカップで分かってるから」と言葉でも誤魔化す。

「別に良いよ、誤魔化さなくても。俺はそんな室ちんごと愛してあげるから」
「それを言われたら弱いなぁ、思わず大嫌いだって言いたくなるだろ」
「ほら、やっぱり嫌いだった」
「違うよ、大嫌いだアツシのことなんて。けど、そんなことを思う自分が嫌いだから、アツシのことは好きだよ」

なにそれ、嫌いって言ったら可愛そうだから俺と付き合ってるの?とあからさまに不機嫌が混じった声で紫原が言う。「違うよ、敵の敵は味方って言うだろ」と説明を氷室はしたけれど、「難しいこと俺わかんないってば」と言って、紫原は唇を尖らせた。


なんだかんだゆって隣
title by ごめんねママ
こんがらがったらすみません。
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