テキスト | ナノ
名前を呼ばれたかと思えば、頭に大きな掌を添えられて思いっきり引き寄せられる。何があったのか氷室が理解できない間に、紫原の氷室の唇に自分も同じものを押し当てた。それはあまりにたどたどしくキスというよりかは、本当に押し当てられたような感じだった。慌てて身体を引いて、身体を氷室は引き離そうとしたが、紫原はそれをさせないで抱きしめてからまた唇を押し当てようとする。掌で紫原の口元を覆ってから、氷室は彼を静止させた。覆われていない目で熱っぽい視線で自分の顔を見てくる紫原に、氷室は思わず息を飲む。

「ストップ、アツシ。どうしたんだ急に」
「んん、なんだか室ちん見てたらむらむらしちゃった?」

何故だか疑問形の語尾で紫原は答える。声は、手で口元を覆っているからか少しくぐもっていて聞き取りにくい。
紫原は、氷室を拘束していた腕を解いて、氷室の首筋を撫で上げた。「キスは、好きな人とするものだよ、アツシ」と言いながら、笑って窘めるが紫原は氷室の首筋や喉元をゆっくりと上下に撫で上げながら「じゃあ、俺、室ちんのことが好きなの?」とまたもや疑問形で応答する。
このままでは埒が明かないので、氷室は苦笑しながら喉元を触る紫原の手を外した。少しだけその時に二人の目線が交差したが、紫原の瞳はいまだに熱っぽさを保っていた。

「何で毎回疑問形なんだ?」
「だって、俺誰かを好きになったこととかないし、チューしたこともないし」

そう言ってから、紫原は今更、あれファーストキスじゃん、と自分で驚いたように呟いた。それから、あー、とか、うーん、とか唸りだして、会話は一時止まってしまう。紫原が気まぐれでマイペースなのはいつものことで氷室は仕方なしに「アツシ」と名前を呼んだ。
どこかを向いていた紫原の視線がまた氷室を捕らえた。自分がどうして彼にキスをしたのかもわからないが、彼を好きかと言われたらまぁ好きなんだろうし、けどいまいち自分の気持ちが分からずに紫原は「好きなの、かなぁ」と歯切れ悪く言葉を口から零した。
「結局どっちなんだよ」と苦笑気味に言っているけれど、氷室の表情はあまり嫌そうではない。綺麗に笑っている唇に、やっぱりキスしたいなぁ、と思うのはやっぱり室ちんのことが好きなんだろうな、と紫原は一人納得して、腕を伸ばし氷室の唇を指先でなぞる。その手に氷室は逆らわない。

「室ちんはさー、俺のこと好きなの?」
「好きだよ、じゃなかったらアツシのこと殴ってる」
「あー、室ちんだったら本当にしそうだね」

頬を撫でる掌は思っていたよりかは高い。室ちん、と呼ぶ声がいつもよりか優しいと思うのは欲目だからか。「これってさー、一応両想い?」と紫原が尋ねれば、氷室は薄く微笑んで頷いた。


いとしい気持ちの育て方
title by ごめんねママ
リクエスト/Eさん
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