テキスト | ナノ
中学時代


数枚の、赤司からスタメンに配るように渡されたプリントを持って、黒子は青峰と緑間のいるクラスに向かっていく。手元で手を動かすたびに、紙がひらめいてがさがさという音が聞こえた。
クラスの扉の前に立つと、笑い声がより一層大きく聞こえる。その笑い声の中には青峰の声も聞こえた。扉に手を置いて、がらりと開けたが、自分たちのおしゃべりに夢中になっていてそのことに気づく人は少ない。しかし、青峰だけは黒子の存在に気づき「テツ」と名前を呼んで手を振って自分の方に来るように合図を送ってきた。
青峰は複数の男子や女子のクラスメイトに囲まれていた。それは黒子の知らない人ばかりで、その場にいるだけで自分が邪魔な存在に見えて、とても居心地が悪い。明るく、人柄のいい彼だから、友達も多いのは当たり前だろうが、黒子はのけ者にされた気分だった。

「テツがクラスに来るなんて珍しいな、どうした?」
「赤司くんからプリントを渡すように言われまして、あ、これ緑間くんにも渡しておいてください」

持っていたプリントの束から2枚だけプリントを抜き取って、黒子は青峰に手渡した。受け取ったプリントを青峰はざっと目を通すと「勉強会とかいらないだろ」とぼやいた。
隣の友人らしきクラスメイトの男子が青峰の手からプリントを奪い取って目を通してから「お前バカだから要るだろ」と言って青峰を見て笑った。クラスメイトからプリントからプリントを奪い取ると、うっせぇよ、と言って男子の頭を軽く叩いた。その一連の様子を見ていた女子が「え〜勉強だったら、私が教えてあげようかぁ?」と、甘たるい女子の声を出して提案する。黒子は思わずその女子を見たが、とても可愛かった。茶色く長い髪に、大きな目、甘い香り、自分にはないものばかりだった。そして、その彼女の大きな目の視線から、彼女が青峰に好意を抱いていることが分かった。

「別に良いって、必要ねぇよ」
「とか言って、前回も赤点ギリギリだったじゃん」
「前回大丈夫だったんだし、今回も大丈夫だっての」
「赤点とっても知らないからね」

そう言って、青峰と彼女は楽しそうに会話をしていた。その間、黒子は蚊帳の外。人にいないように思われるのはいつものことだけれど、今日はとても薄暗い気持ちになる。
彼女の手が青峰の腕に触れる。媚を売るように下から上目使い気味に青峰を見ながら話しかけていた。黒子は、立ち去ろうと背を向けようとする。
「別に、わかんなかったらテツに聞くから平気だって」と唐突に青峰の口から自分の名前が出てきて、驚いた。なぁ、と念を押すように青峰に言われて、はい、と黒子も短く返事をした。

「なんだぁ、私のけ者みたいじゃん」

不満そうな彼女の声が聞こえた。それはこちらの台詞です、と黒子は心の中で反論した。
あなただったら他にも素敵な人がいるでしょう、何で青峰くんなんですか、僕から彼を奪うようなことはしないでください、彼は特別なんです、価値のなかった僕に初めて価値をつけてくれた人なんです。言いたい台詞は山ほどもあるが、そんなことを言えるわけもない。
赤点を取らないように僕も全力で青峰くんに教えます、とだけ言って黒子は、では、そろそろチャイムが鳴るだろうと思い、「また部活で」と青峰の方をしっかりと見て言い、背中を向けてクラスから出た。
また彼の笑い声が後ろから聞こえた。その中に彼女の声も交じっていて、黒子は自分の中の薄暗い気持ちを追い出そうとするように、柄にもなく長い溜息を吐いた。






きみを知らない部位から死んでゆく
title by  ごめんねママ
リクエスト:桜子さん
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