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紫原:パティシュエ(FB)


ドアについた小さなガラス窓越しに、紫原は店内を眺めた。店にはちらほらとお客が入って、ショーケースを指さしながらケーキを見ては選んでいる様子がうかがえた。生クリームを掻き混ぜる手を止めて、紫原はしばらくその様子を見た。選んでいた女の子が買い終わってどこかに行ってしまうと黒髪の男の人がレジの前に移動してきた。
最近、よく店に来てくれるお客さんが気になる。言わずもがな、今レジに並んでいる人だ。一週間に一度くらいの頻度で来て、一つだけケーキを買っていく。たまたまなのか、買っていくそれは紫原の作っているケーキだ。

「おい、手止まってんぞ」
「ごめんごめん」

先輩に言われてまた手を動かし始めるけれど、やはり意識はドアの向こうに行ってしまう。悩んでいるのか男の人はレジの前で屈みこんだまま停止している。どれとどれで悩んでいるのか、俺以外のだったら嫌だなぁ、なんて考えていたらまた手が止まっていたのか、紫原と名前を呼ばれた。これは怒られる、と思って先輩の方に顔を向ければ呆れた顔で「そんなに気になるなら接客行って来い」と言われる。

「いいの?」
「なにもせんでここにいられるよりかはマシだ」

愛想とか振りまくのは苦手だと先輩も分かっているし、紫原も分かっている。それでもどうしようもないと思ったのか、先輩はそういってくれた。なんだか柄にもなくちょっと感謝していると、さっさと行け、とキツメの口調で言われて、少しの感謝はどっかに捨てた。
ボールとかを先輩に押し付けて、急いでドアを開けてカウンターに回る。屈んでいた男の人は少し驚いたような表情で顔を上げる。「それよりこれとこれとこれとこっちがおススメ、俺が作ったの」と、何を声かけようとか少しも考えないで出てきたかた、とっさに紫原が言ったのがそれだった。

「君が作っていたのか、いつも美味しいから買ってるよ」
「うん、知ってる」

そういえば、また少し彼は驚いたような顔をした。そりゃそうか、カウンターに出てなくて一度もあったことが無いのに何で知っているんだろうって思うのが当たり前だな、と紫原は思って失敗したかなと先ほど言った言葉を後悔した。
「あのね、俺、あんたのことが気になってるんだけど」うじうじするのも面倒で、どうせ今回ダメだったらまた店の奥に引っ込んでしまえば会うことも無くなるし、もしかしたら彼の方が2度と店に来ないかもしれないので気に病むことはないと、紫原は直球的に言葉を言う。

「お店の迷惑になるから、お店が終わった後にまた会おう」
「それって」
「勿論、OKってことだよ」

優しく笑って氷室は、何時に店は終わるんだ、と聞いてきた。8時には終わることを告げれば、氷室は後でねと言ってからケーキを4つ買って出て行った。彼が指さした4つのケーキはどれも紫原が作ったケーキだった。箱に詰めている途中で「実は俺も君のこと知ってたんだよ、朝この店に入っていくのを見てね、いつかまた会えないかと思って通っていたんだ」と照れくさそうにはにかみながら氷室はそう言った。








麒麟とケーキ
title by ごめんねママ
なんか、迷走した。自分で読んで超恥ずかしいです。
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