テキスト | ナノ
※青峰が好きな黄瀬のクラスの女子の視点


何も用がないのに思わず携帯を鞄から出して眺めてしまう。携帯の横で揺れるのは、学校帰りに寄り道したら見つけた、オープンしたばかりの店で買ったキーホルダー。革の帯状なものと小さなガラス玉が紐に通されているやつだ。
自分でも気に入っていてにやつきながら見ていると、隣の席の友人も新しいキーホルダーに気づいたらしく近寄ってきて「それ新しいキーホルダー、かわいいね」と言って褒めてくれた。お世辞だってなんだっていい、自分が気に入っているからとりあえず「うん、かわいくて思わず買っちゃった」と笑顔で返事をした。

「それ、良いッスね。どこで買ったんッスか?」

後ろの方から声が聞こえてきた、その声は振り向かなくても分かる。同じクラスで、モデルの黄瀬くんだ。みんな好き好きかっこいいと言っているけれど、私はそこまで熱心なファンでもなく、男子とはあまり絡んだりすることは少ないので黄瀬くんとは滅多に話さない。
それでも、モデルから声をかけられるということは恋心を抜きにしても緊張する。「あ、えっと、駅裏の店」と淡泊な返事しかできなかった。気を悪くさせたかも、と心配したが黄瀬くんはいつもの笑顔で、これ見せてもらってもいい、とキーホルダーを指さしながら聞いてきた。別に断る理由もないので頷いて彼に携帯を手渡した。
黄瀬くんはちょっとの間、キーホルダーを見てから「店の地図描いてもらっても良いッスか?」と言って、自分の席に一回戻ってからルーズリーフを一枚手渡してきた。おおざっぱだけれど、おそらくわかるであろう範疇で地図を描くと、黄瀬くんはありがとうとお礼を言ってから自分の席にまた戻っていった。
そんなことがあったのが昨日だった。私は黄瀬くんが今日キーホルダーをつけているのを確認した、私のとは帯の絵柄が少し違い、ガラス玉の色は青色だった。そこまでは予想の範疇だったが、予想外だったのは私の好きな青峰くんも同じキーホルダーを筆箱につけていることだった。昨日見たときは青峰くんはキーホルダーなんかつけていなかった。

「その、キーホルダーどうしたの?」

思わず廊下ですれ違う時に聞いてしまった。他のクラスで全然話したことなんかないから、青峰くんは私の顔なんかしらないはずだが、聞かずにはいられなかった。青峰くんは声をかけられてから一瞬きょとんとしていたが、あー、とめんどくさそうな声を出してから話してくれた。

「部活帰りに黄瀬のやつの買い物に付き合ったら、おそろで買わされた」
「そうなんだ、あ、ありがとう」

いろんな意味で言葉が続かなくて、さっさと場を去ろうとしたら、後ろから「青峰っち」と黄瀬くんの声がして思わず立ち止まってしまった。振り返れば、嬉々とした表情で青峰くんに話しかける黄瀬くんの姿が見えた。「さっそくつけてくれたんッスね」「付けろてお前がうるさいからな」「だってせっかくお揃いでかわいいの買ったんだし、つけて欲しいッスから」と二人の会話が聞こえた。その会話になんだか違和感を感じて、思わず二人の方向を見たまま立ち止まってしまっていた。
ふと、黄瀬くんと目が合う。一瞬目が細められて笑いかけられる、だけどその笑顔はいつもみたいな明るい笑顔でも、雑誌に載っている時の綺麗な笑顔でもなくて、何かを自慢して見せびらかして見せつけて、そして私を見下しているような笑顔に見えた。その笑顔を見た瞬間に私はすべてを理解した。



なんにも悪いことなんてしてないのに
title by ごめんねママ
しふぉんさんリクエスト:青黄で第三者視点
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