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※赤司の能力ネタバレあり


女の子に軽くキスをして、手を振ってから部活に向かう。部活に向かおうと振り返ると、少し離れたところから赤司が見ていたのを発見する。別に隠すこともないし、黄瀬に彼女がいることは周知の事実なので赤司も知るところだろう。赤司だって、見ようと思って見ていたわけではなく、たまたま見てしまっただけだ。
見られちゃったスね、と気まずさを誤魔化すように薄く笑って赤司に言えば赤司は表情を変えることなく言い放った。

「黄瀬は恋愛ということをしたことがないだろう?」
「は、え、普通に今も彼女もいるッスよ、今の見てたッスよね」
「お前のそれは恋愛ごっこだ、恋愛ではないよ」

この人じゃなきゃダメだ、って思うくらいの人に会えなければそれは恋ではないんだよ。そういいながら、赤司は黄瀬に近寄り、人差し指で黄瀬の心臓を服と皮膚とその他いろいろな物の上から指さした。指先から伝わる心拍数は一定で、だけど顔を上げて赤司が黄瀬を見つめれば少しずつ早くなっていく。
「女の子と一緒にいる黄瀬の脈拍、吐息、体温は今となんら変わりないよ。恋をしていれば、脈拍は早く体温は少し上がる、だが違うということはこれは君が恋をしていない証拠だ」そう言い放つと赤司は黄瀬の心臓から指をどけた。黄瀬の表情はこわばったまま。実際には何もされていないはずだが、黄瀬は自分の心臓が赤司の手中にすっぽりと収まっていていつでも彼が気が向けば握りつぶされるような錯覚にも似た感覚でいた。赤く脈打つ心臓を赤司は楽しそうに弄べる、そんな感じ。
「赤司っち、は、何でも見抜いちゃうッスね」と黄瀬が発した声は、淡かった。「僕はすべて正しいからな」という赤司の声は弾んでいた。

「だけどな、黄瀬、お前は俺といると少しだけ声が上ずる、脈拍も早くなる。これはどういうことか説明しなくてもお前が一番わかるだろう?」
「そんなことはないッスよ」
「俺が間違うはずがないだろ、絶対にそうなんだ」

言い切るということは確証があるということだ。赤司が黄瀬の変化に気づいたのは一度ばかりではなかった、誤魔化そうともしないし出来ないことだから見ればわかる。白を切ることは容易ではなく、赤司から鋭い目で見られれば黄瀬は自分でも脈拍が上がってそれに伴って体温が上がり体が火照っていることがわかった。

「ポーカーフェイスは得意なはずなんスけど」
「表情はうまく隠せていたよ、問題は他だ」

黄瀬、と赤司が名前を呼ぶ。「ちゃんと、言葉で言ってみろ」と悪戯に微笑を浮かべながら赤司は言葉を続けた。その笑みがとても綺麗だと思ったけれど、要求されている言葉を言えば終わってしまう。まるで甘い香りと美しい花びらで虫を引き寄せて食べてしまう食虫植物。黄瀬は操られるように口を開いた。


ゆるやかに忘れさせていく息の仕方
title by ごめんねママ
夕霧さんリクエスト/赤黄
赤司さんは何でも見えているし知っているよ、って話でした
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