テキスト | ナノ
チャイムが鳴るのと同時に、高尾は鞄を持って椅子から立ち上がった。鞄にはもとより筆箱と弁当箱くらいしか入ってない、教科書は全部学校。そんな薄っぺらい鞄一つを持ってクラスを出ていこうとしたときに、後ろから名前を呼ばれる。「高尾、」と、そして高尾は振り返った。読んだのはクラスの友人たちで早速漫画やゲームや携帯を鞄や机の中から引っ張り出していた。「これからゲーセン行くんだけど来るだろ?」さも、それが当たり前のような口ぶりで友人の一人が聞いてきた。かつての自分だったら確かに、いくいく、と言って笑顔を振りまきながら答えていただろうな、と高尾は思いながら口の形を作った。

「わりぃ、先約があるんだわ、また今度な」

そうやって作り笑いと本当の笑顔の中間の笑みで高尾は笑った。別に、この友人たちのことが嫌いではなかったが、一番大切な友人たちというわけではない。優先すべき人物は、高尾の中では緑間だ。別に頼まれたわけでもないが、傍にいたいと思ってる。「真ちゃん、帰ろーぜ」と言ってから、ちょうど帰り支度が終わった緑間に高尾は声をかけた。あぁ、と短く緑間は答えて鞄を持って立ち上がる。
クラスを出る時に「高尾、何か最近付き合い悪ぃな」とか言っている友人たちの声が高尾の耳にも届いた。別に高尾は気にはならない、1分もすれば、彼らの話題がすぐにそれることを知っている。

「良かったのか?」
「ん、何が?」
「誘いを断ったことだ、俺は別に一緒に帰る約束などしてないのだよ」

その言葉を聞いて、高尾は思わず緑間を凝視してしまった。あの緑間がそういうことを気にするとは思ってもいなかったから、思わず。、え、という声を出してしまっていた。緑間はそれで高尾の方を向いた。「なんだ、そのアホ面は」と呆れた口調で高尾を見た。え、だってあの真ちゃんが、この俺のことを心配するなんて誰も思わねーだろ、という言葉を胸の中に高尾は仕舞い込んだ。

「ちょっと驚いただけ。それから、あいつ等のことは気にしなくていーの」

欲しいものは大体の物は手に入るご時世だ。漫画もゲームも恋愛も友達も、全部全部手中にあっという間に収まっていた。だけど、それが全部が全部純度100パーセントかと言われたら、高尾はイエスとは言えない。目の前の人間が初めての純度100パーセント、本当に欲しいもの。添加物も着色料も要らない。
「真ちゃんが思っている以上に、俺は真ちゃんが好きなんだって」と言って、高尾は笑った。緑間はその言葉を聞いても表情は買えなかった。代わりに口を開いて「重いのだよ」とだけ言った。

「ひっど」
「だが、」
「だが?」
「悪い気はしないな」

そういうことを、このタイミングに言ってくれるか。嘘は言わない、表裏も作れないこの人だからこそ、高尾はこんなにも単純な言葉が愛おしくてたまらない。真ちゃん、チューしたい、と言って横に並んで歩いていた距離を近づけて高尾が言えば、嫌なのだよ、と言って緑間は一歩離れた。


愛のゆくさき
title by ごめんねママ
匿名さんリクエスト:高緑
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