テキスト | ナノ
トレーにハンバーガーを4つとシェイクを乗せて、青峰は黄瀬の座っているテーブルに歩いてきた。青峰が遅刻することは黄瀬は慣れていたし、待っている時間が楽しいとさえ思えるようになっていた。「わりぃ、遅れた」と申し訳なさそうに言っているけれど、また今度も遅刻するんだろうな、と思いながらも黄瀬は笑いながら「良いっスよ、俺も今来たところッスから」と言って笑った。
認めたくないというわけでも認めているわけでもないけれど、多分俺はこの人に惹かれている。俺より身長も高いし筋肉も俺よりもある、バスケも俺より上手い、この人が好き。
マジバーガーの包みをゆっくりと開いて、見えたパンに噛り付く。部活後だから、空腹な体にはありがたい栄養分。ゆっくりと黄瀬がハンバーガーを咀嚼していると青峰も同じように食べながら黄瀬のことを見ている。

「どうしたんッスか?」
「あー、いや、何かお前が食べる姿ってエロいなって思っただけ」

無自覚だから仕方ない。きっと彼は自分のことを好きではないはず、そう言い聞かせながら「やだなぁ、俺男ッスよ」と黄瀬は笑って誤魔化した。女の子の気持ちが今ではわかる気がする、何気ない一言でも凄く嬉しくなったり、悲しくなったり、期待したり。分かったから、だから俺は何も期待しない。捻くれてるなぁ、と自分に思いながらも黄瀬はフェイクを飲み込んだ。
またハンバーガーを一口齧って、口の中で咀嚼するけれど、正直味なんかわからなかった。黄瀬は味のないものをひたすら噛んでいるような気分だった。固形から液体になって面影がなくなったハンバーガーを飲み込んだ。

「でさ、それでよ黒子がなパスミスして」
「黒子っちでもパスミスするんスね」

俺が知らない間の話、黒子っちと青峰っちは相棒で、俺が知らない間に仲良くて、青峰っちから黒子っちの話題が出てくるたびにイラつく。これが嫉妬か、初めてした。やっぱり青峰のことが好きなんだ、と黄瀬は自覚せざるを得ない。
青峰は話しながらすでに4つめのハンバーガーに手を伸ばしていた。食べ終わった包み紙がぐしゃぐしゃに丸められてトレーの上に3つ。4つ目の包み紙をがさがさと開いて、ハンバーガーにかぶりつく。大きな口を開いて、パンも肉も野菜も一口で噛み千切って、ぱくっと口の中に仕舞い込んでしまう。その様子を黄瀬は眺めた。

「青峰っちの食べ方もエロいッスよ」
「はぁ、俺は無いだろ」
「そんなことないッスよ。なんか男らしいってか、かっこいいッス」

「女と一緒に飯食べっと汚いとか言われんだけどな」っといいながら青峰は笑った。黄瀬は綺麗に一口一口食べているからお高く止まっているいるかと思ったら、自分の食べ方を見てそんなことを言ってくる辺りがえげつない。女みたいだけどやっぱり男で、取っ付きにくいと思ったら犬みたいで、好きか嫌いかって言われたら好き。変なこと考えていたら、ハンバーガーの味なんて感じることはできなかった。そりゃあないだろ、相手は黄瀬だし、男だし、そう思ってハンバーガーを食べながら見つめていたら黄瀬は視線に気づいたのか薄く笑顔を作った。

「好きな人だと、全部よく見えちゃうもんスねぇ」
「ん、なんか言ったか?」

薄い笑顔のまま黄瀬の口が小さく開閉して何かを言った。その言葉は青峰には届かなく、聞き返しても黄瀬は、何も、とだけいってまた笑う。



はじまりはこれからだ
title by 自慰
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