テキスト | ナノ
箱の中に駒が入ったまま、こぼれないように盤の上に箱を押し付ける。それからそっと箱を持ち上げると、箱の形のまま駒が出てくる。だけど、それもすぐに半分くらい形がなくなるくらいに崩壊する。からんからんっと、木と木がぶつかる音はきれいだと、紫原は初めてこの音を聞いた時に思った。
紫原はそっと落ちかけた駒の一つに大きな人差し指を添えた。ゆっくりゆっくり駒を自分のほうへ導いていく。カタッと小さく、どこかが駒同士が接触した音が聞こえたかと思えば、また少し箱の形だった駒たちが崩れた。

「紫原、交代だ」
「えー、あれくらい見逃してよー」
「ルールはルールだ」

そういって、赤司は紫原が触れていた駒に同じように指を添えた。それから、時間をかけて、駒の群集の中からその一つの駒を取り出した。
少し前に紫原が将棋をしたいと言ったことが、こうやって山崩しをやりはじめたきっかけだった。「みどちんばっか狡い、俺も将棋がしたい」と言って紫原が言ってきかなかったが、将棋のルールを一つ一つ説明するのも大変でそれでいて分かり易い山崩しを始めた。将棋じゃない、と言って拗ねた紫原に「山崩しも立派な将棋だよ。駒のコンディションと場所を確認して、力の入れ具合、指先の間隔。いろいろと頭を使う」そう赤司は説明して丸め込んだ。
赤司はまた駒の全体を見回して、別の駒にまた指を添えた。彼は山崩しでも負けたことがなかった。お遊びをしているようには見えないなー、と思いながら駒を黙々と奪っていく赤司を紫原は観察する。そんな視線に気づいていないのか無視をしているのか、紫原を一度も見ることなく4、5個駒を取ってやっとカタッと音を鳴らせる。

「赤ちん、長いよ」
「時間をかけて取るのが一番だよ。時と場合による時もあるけどな」

紫原は一つの駒に指を置いた。固まりから少し外れた場所にある駒。時間をかけて、と赤司が言ったことを思い出し意識してゆっくりと指に力を入れて引いていく。視線を感じた、それは赤司からだ。自分が見ていたように彼も自分を見ていた、だけど気づいてしまったら集中していたものが切れてしまって、指先にかける力が大きくなる。指先の駒は少し傾いて、そのせいで外の駒がずれた、カタッと音がする。

「赤ちん、そんなに見ないでよー集中できないじゃん」
「これくらいで切れる集中なら、まだ集中できてないってことだ」

そういいながらも既に赤司の指は一つの駒に狙いをつけていて、ゆっくりゆっくり駒を抜き出す。「ねー、赤ちん」邪魔をするというわけではないけれど、赤司が駒を取っている間は暇な時間が長い。会話するくらいだったら赤司は何ともないだろうと思って、紫原は声をかけたの。「何だ?」と赤司も会話をしながらもゆっくりと駒を取っていた。一つの駒が彼の手の中に吸い込まれていく。

「王将あるけど、取らなくていいの、取れそうだけど」
「あれは簡単に取れそうで、難しいんだよ」
「じゃー俺が王将貰うから」

赤司が一つの駒を抜いたときに、大きく形が崩れた。さっき言っていた王将も、群集の中から転がり落ちていた。紫原はすぐに王将に指を置いた。王将は運よく、斜めになっているわけでもなく床に平らになって落ちていた、少しほかの駒と重なっているが気にすることではないと思った。躊躇することなく、紫原は王将を引き寄せる、それと同時にカタッと音がした。

「欲張るからだ、油断せずにゆっくりと引き抜けば紫原が王将をとれたのに」
「もうちょっとで取れた」
「そうだな、けど、取れなかった」

赤司は余裕なのか微笑みながら王将を引き抜いた。「目の前に欲しいものがあっても焦らずに冷静にならないと、いつまでも欲しいものは取れないぞ」王将を紫原に見せつけるように赤司は摘みあげた。紫原は不満そうに頬を少し膨らませて王将を見ていた。欲しがって欲張るのはいいが、早く俺を取ってくれないだろうか、待ちきれないな。王将を指で弄ってから持ち直し、赤司は将棋の山の中に軽く投げつけた。


お手を拝借
title by ごめんねママ
山崩しのルールは我が家参照なので違うところあるかもしれません
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