テキスト | ナノ
※中学卒業の前


言葉を聞いて、青峰は少しの間身体が自由に動かなかった。その言葉は、相談があるから昼、屋上で一緒に食べてほしいッス、と言っていた黄瀬が言ったものだ、ということは青峰にも理解できた。誰かから伝えておいてくれ、なんて頼まれたから言った言葉でもなく、間違いなく黄瀬自身の言葉だった。
黄瀬は黄瀬で、まっすぐに青峰を見ていた。1on1をする時みたいな、マジの目。嘘でもないってことまでわかってしまった。せめて、恥ずかしがって下を向いていてくれたら冗談として聞き流して笑えたんだろうけど、黄瀬は青峰から視線を反らすことをしていないで、視線は互いに互いを瞳の中に入れたまま、
告白って一生に何回するんだろうなって思ったら、多分両の手では余る、片手で足りるか足りないかくらいが平均なんだろう。されたことは自慢じゃないが、両の手では数え足りないくらいある。だけど、どっちも多分同じ性別ってことになったら、平均で指一本も使わないんだろうな、で俺も告るにしてもされるにしても多分指1本も使わねーな、って思ってた。

「そっか」

いろいろと考えていた思考回路で必死にひねり出した青峰の言葉はそっけないものだった。予期していた、といえば嘘でも本当でもなかった。やけに視線が合うな、とは結構前から思っていた。だから、もっと何か気の利いた言葉を言えばよかったとも思ったが、そんな器用なことができる頭ではないことは自分が一番わかっている。
視線を反らすことなく黄瀬は「それだけっスか」と張りつめた声で言ってきた。なぜだか、青峰はその声が居た堪れなくて、思わず目を背けてしまっていた。手に持っていた昼食の時のごみ袋の口を縛った。プラスチックの乾いたかすれる音が、今は嫌に大きく聞こえる。

「んだよ、他になんて言えば良いんだよ」
「フツー、オッケーかダメなのかくらい言うだろ」

そんなことはわかってる。だけど言ってしまったらお終いだ。
好きか、と言われたら好きだ。勿論、恋愛感情的意味合いで。好きだ、と言ってしまえば楽になれるが、そしたらこれからはどうなる。そもそも黄瀬をそういう対象で見たことはない、だからそれは嫌いということでもない。「男同士で付き合うってことはフツーじゃないんだからな」と言えば「それは、オッケーってことッスか」とまだ青峰を見たまま聞いてくる。青峰は視線を合わすのが嫌で、座ったまま下のコンクリートを見ていた。

「んで、そうなるんだよ」
「だったら、ダメってことッスか」
「そーだろ、フツー。男同士とか、フツーはありえねーだろ」

そういう声は、自分に言い聞かせてるみたいだ。アホくさ、そう思ってもそうとしか言いようがなかった。
黄瀬が何も言わないな、と思ってから少し経ってから「さっきから、フツーとかばっかッスね」そう言った黄瀬の声は少し弱弱しかった。泣いているのかと思って、黄瀬を思わず青峰は見たが、その表情は泣きそうと表現するよ起こっているや呆れているという表現を当てるほうが適当だった。

「だったら、さっさと嫌いとかキモイとか言って、いつも女の子振ってるみたいに振れよ」

期待した自分が馬鹿だった、この感情は好きでもなんでもない感情だったのだ、と早く割り切ってしまいたい。泣きそうなのか、怒っているのか、呆れているのか、最早黄瀬自身にも気持ちは不明だった、
「好きだ」と目の前の男は自分に向かって、今のさっきでそんな言葉を言えるんだ。なんで、青峰っちは俺をさっさと切り離してくれないんだろうな。「意味わかんないッスよ」と青峰に黄瀬が問い詰めるように言えば、青峰はもごつきながら「だって、さっきも言ったけど、フツーじゃねんだよ、ってか好きとかよくわかんねぇし」と何かに縋るような声で言った。ここで無理矢理キスでも奪ってしまえ、とも思ったが身体はそこまでは動いてくれはしなかった。泣かなかっただけ自分を褒めたい。


もう言わないから消しといて
title by ごめんねママ
青峰は黄瀬を好きではない
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