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※灰崎に殴られた後



どっかに居なくなったな、とは思っていたけど帰ってきたときにまさか額に傷を作っているとは思わなかった。「え、どしたの、それ」と紫原は少しだけ声をしどろもどろにして、人指し指で氷室の傷口を指さす。驚きのあまりか、持っていた御菓子が大きな腕の中からこぼれ落ちて、地面に小さな音をさせて落下した。ああ、これね、ちょっとね。と、誤魔化すように氷室は笑って額の手当てされている部分を指でさすった。

「誰にやられたの?」
「アツシには言わない、ひねりつぶすって言うだろ」
「あったりまえじゃん、室ちんに怪我させた奴許せるわけねーし」

思った通りの反応を示してくれる紫原に氷室は苦笑しつつも、宥めるように「大丈夫だ、掠り傷だから」と言って、落ちた御菓子を拾い集めて紫原の腕の中に戻してやる。かさっとプラスチックの袋同士の摩擦音が聞こえた。今度は落ちないようにしっかりと御菓子を片手で抱きしめて、紫原はもう一方の手で氷室を引き寄せた。長い腕、大きな手で試合中は力強いイメージだが、今は小動物をこわごわと触るような優しい力で触れられた。

「痛くない?」
「大丈夫」
「傷は、傷は、残らないよね、室ちん」
「少しは残るかも知れないけど、殆ど見えなくなるって言ってた」

傷をガーゼの上から撫でる。少しだけ氷室が表情を曇らせたのを見て、直ぐに手をどけた。「傷残るんだ、室ちんの綺麗な顔」と紫原は呟いてから紫原は氷室を両手でデキ閉める。片手に持っていた御菓子が全部地面に散らばってしまった。
距離が近づいたせいか、消毒液の匂いが鼻孔をかすめる。「オレは男だから、顔の傷くらい気にならないよ」と氷室は言って、紫原の背中を泣いた子供をあやすようにとんとんと数回軽く叩いてからさすった。

「室ちんが気にしなくても、オレが気にするの」
「そっか、そっか、ありがとうアツシ」

暫く黙ったままだったけど、どうした急に紫原は氷室から身体を引いた。「キス、たくさんしたら痛くないかな。知ってる?キスにはモルヒネの何十倍もの鎮痛作用があるらしーよ」と、紫原は言って氷室の頭に大きな手を添えた。



くちびるを添えて
title by ごめんねママ
紫氷好きです、和む
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