テキスト | ナノ
※帝光時代



バスケをしているとは思えない綺麗な手が、五角形の駒を摘み取ってから1つ右斜めに移動させる。パチッと木と木が触れ合う心地よい音がして「王手」と言う声は平淡だ。その駒を動かした指で顎や頬を軽く撫でながら赤司は目の前で必死に盤を眺めている黄瀬を鼻で笑った。将棋が出来ないことをバカにしている訳でもなく、必死に考えている様子を微笑ましいと思って笑ったのだ。

「涼太はバスケの飲み込みは良いけど、将棋やチェスはからっきしだね」
「身体能力と頭脳は違うッスよ」

未だに盤を見つめてうんうん唸りながら黄瀬が言ったその声は小さくて自信なんか少しも感じさせない。指である駒に触れて動かそうとしては引っ込めて、また他の駒に指を置いてはコレも駄目だ、などと小さく呟いてはまた指を引っ込めた。
その様子を赤司は黄瀬から奪った駒を弄くりながら眺める。「時間は気にしなくて良いよ」と言えば「もう無理っス。負けました」と溜息を吐きながら黄瀬がやっと盤から顔を上げた。
盤の上に黄瀬の駒は圧倒的に少なく、王将をどう動かしても赤司側の駒が周りを囲んでいる。これ以上どう駒を動かそうと黄瀬の負けは決まっている。

「これで13勝0敗。けど少しずつ上手くなっていると思うよ、多分な」
「多分って酷くないッスか。まあ、やっと駒の動きが分かってきたッスけど、俺じゃあ赤司っちの相手にならないッスよ。緑間っちとかの方が良いんじゃないッスか?」

盤の上の駒を片づけながら会話をする。箱の中に駒を落とすと木と木が触れ合う音がしたが、先程とは音質が違った。からから、と小刻みな柔らかい音。
黄瀬に言われたことを聞いて赤司は笑いながら「まあ、そうだね。真太郎はみんなの中で一番賢いから」と言った。緑間は確かに良い相手にはなりそうだけれども、それでも赤司は黄瀬をよく対戦相手に呼ぶ。それを黄瀬は不思議に思っていて今聞いた。どうして俺なんッスか、ともう一度黄瀬が聞けば赤司は箱から1つの駒を取り出した。

「涼太だから面白いんだよ。苛め甲斐があるからな」

そう言って、取り出した駒を何も置かれていない盤の上に立てて置いた。「必死に考える涼太は可愛いよ」と言ってから、立てて置いた駒を人指し指で軽く押した。駒はあっけなくぱたっと前に倒れる。
「可愛いって190近い男にいう台詞じゃないッスよ」と黄瀬は苦笑していたけれど、赤司は余裕の表情で笑って「好きな子だったらどんな子でも可愛い物だよ、涼太」と言って、赤司は黄瀬の方に駒を進めた。まだ黄瀬は赤司の真意に気付いていないのか軽く頭の中でクエスチョンマークを浮かべているようだった。「好きだよ」ともう一度言って、王手、と頭の中で赤司は呟いた。



彼という人
タイトル ごめんねママ
赤司の口調が不明
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