森の中で1 | ナノ


一か月働き続けたライルと刹那は、宿の持ち主から感謝の言葉を貰い、再びニールのいる中央本部へと目指すことにした。
この港町から行くには、森を突っ切るか回り道をして行くかどちらかしかない。
どちらがいいか…と考えていた時に宿の娘から訊いたことを思い出した。


「森は止めた方がいいよ。今、騎士団が調査中なの」


何の調査かよく分からなかったが、本部には術士とは別に騎士養成の学校もある。そこで試験に合格した者が騎士となれる。術士とプログラムは変わらない。
しかし、術士も騎士もプライドが高く相容れない存在と言った方がいい。水と油のようなものだ。
ライルは召喚士ではないし学校もやめて久しいが、刹那を連れていればいやでも術士に関わりがあると思われる。
あることないこと言われる可能性は高い。実際に海の魔物が出た時に術士が到着するのが遅いもう一つの理由のようだった。


「けど、どうすっかな…」


回り道をすれば森を抜けた時よりもかなり時間がかかるし、その間に街はなく食糧も薬も…とにかく諸々に不安が残る。
それならば、騎士の的外れな愚痴を聞いていった方がはるかに安全である。


「どうした?」
「んー、刹那。お前森と回り道どっちから行きたい?」
「……どちらでも構わない」


一瞬考える素振りを見せたが、どうでもよくなったのだろう。
それでも早く兄さんに逢わせた方がいいのかと思い、ライルは森から行くルートを選んだ。
この後宿の娘の忠告を聞いておけば良かった、と後悔することになる。






森の中はとても静かだった。
騎士団の連中が中にいる筈なのだが、数が少ないのか退去したのか…そんな風に思えるぐらいだった。
草木を手入れをする人間はいないらしく、雑草だらけであり舗装された道はほとんどないので獣道を歩いた。


「大丈夫か?鞄の中に入るか?」


肩に乗る刹那に声をかけると「大丈夫だ」と返ってくる。
人の身の丈ほどある雑草や木もあるので、引っかけてしまわないか心配だった。
鞄は肩に掛けられるので良かったと思う。万が一引っかけてしまっても分かる。


「あー、くっそ。こんな場所じゃ野宿も出来ねー」
「…野宿はやめた方がいい。この森には魔物がいる」
「…まじで?」


だから騎士団が調査しに来ていたのか。
刹那は敏感に気配を察知しているようだった。


「あと、人間の気配が3、4。…一般人ではないな」
「騎士団つってたのに、少ないな」
「…そもそも…魔術を使うことを諦めたお前が、何故危険な道を選んだ?」


刹那の言葉は自分の心にぐさりと刺さる。
この一ヵ月、給仕の仕事をしながら外で魔術の練習も重ねていたが、まるでだめだった。オン/オフなのだ。スカす時と、やりすぎてしまう時。
どうやら使いこなす才能がないらしい。刹那は嘘を吐かない。彼の美徳ではあったが、その時だけは辛辣に思えた。
だが刹那を連れていることから、召喚士には向いているのでは?と慰めなのか分からない言葉が返ってきた。
今は召喚士見習い的な存在となっているが、誰かを使役したいとは思わない。人間も、幻獣も同じだ。


「…早く兄さんのところに連れてきたいと思ったから、だろうな」
「それで主に危険が及んだら意味がない。俺の魔力が戻ればまだいいが…」


ぶつぶつと文句を言う刹那にライルは苦笑を浮かべる。
人間嫌いと言っていたのに、随分慣れたものだ。


「ナイフと銃で魔物を撃退したこともある。多分大丈夫だって」
「……」


刹那はライルの楽観思考に懸念を抱く様子を見せたが、本人は気付かなかった。
そのまま進もうとしたところで、ライルも刹那も気配を察知し、身を屈めた。
そう遠くないところに騎士たちの姿が見えた。見るからに金のかかった鎧を纏い、刹那が言ったように3人で行動しているらしい。


「…何故、隠れる必要がある?」
「黙ってろ」


刹那を一言で黙らせて、ライルは騎士たちの様子を覗いた。
騎士たちは魔物退治のための罠を仕掛けているらしい。魔物の好きな果物や生物の死体を袋に詰めている。
罠を仕掛けてさっさと退散してほしいところが本音である。
ライルは騎士の方に囚われていたため、背後から迫っている魔物に気付かなかった。
刹那はいち早く気付き、ライルに耳打ちする。


「…後ろから魔物が来る」
「本気か?」
「ああ。餌はおそらくお前だ。魔物はあんな餌よりも生きている獲物の方が興味があるからな」


刹那の言葉に思いきり後ろを振り向く。
草に触れてしまい、騎士たちに自分たちの場所を知られてしまった。
騎士たちは一斉にライルたちのいるところに駆け寄ろうとする。


「貴様、何者だ!?」
「あとで言ってやるよ。さっさと剣でも構えてな、騎士様」


ライルは腰につけていた護身の銃を取り出し、安全装置を外す。
その間に魔物は姿を現した。海の魔物程大きくはないが、人間よりは数倍大きい、トカゲのような魔物だった。


『エサ…エサ…』
「そんなに喰いたきゃ喰ってろよ!」


騎士のひとりが罠用の袋を魔物に向かって投げる。
その袋を舌で取り、そのまま草むらに放った。
トカゲのような魔物は、ライルを見て舌舐めずりをする。


『コンナモノ…マリョクノ……ニンゲン…二、クラベレバ…』
「うっ…魔物のハーレムはいやだな」


ライルは魔物の顔に向かって銃を二発撃つ。
その弾により緑の血を流していたが、本能のまま動く魔物を止められるものではなかった。
騎士たちもその気迫に怖気づいたのか、逃げるように後ずさる。
あいつら本当に騎士かよ…と思いながら、ライルはもう二発撃った。
しかし、状況は変わらず魔物はこちらに向かっている。


『クワセロ…クワセロォォォォ!!』
「さすがにやべえかな、刹那」
「…安心しろ。俺がいる」


魔物の舌がライルの身体を捕えようとしたその時、刹那が張った結界によって焼かれた。
絶叫が森中に響き渡り、魔物が後ずさる。
そのところをライルが撃とうとしたが、魔物の背後にいた騎士が真っ二つに斬り裂いた。
その騎士が魔物が絶命したと確認をして、ライルや騎士たちの方に近付いてくる。
剣の血も拭かずに、だ。


「お前たち、何をしているんだ……ん、君は…?」
「隊長、こいつ術士です!」
「こんなところで何をしていたのか分かりませんが、一度捕えた方がいいかと…」
「はあ?俺は術士じゃ…」


ライルは何故そうなると言いたかったが、多勢に無勢…刹那も魔力を使ったので、10センチの子どもの姿で疲れて眠っている。
捕まっても殺されるわけではないので、ライルはとりあえず捕まってやることにした。
これもまた、後悔することになる。

****
言語能力の高い魔物とそうでない魔物がいます。
今回は後者。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -