足止め編2 | ナノ




刹那がそのまま少年の大きさ、姿のままでライルのいる宿屋に帰ると、宿の娘がライルは部屋にいるよと教えてくれた。
軽く礼を述べて上に行こうとすると、彼女の視線を感じて振り向く。


「どうかしたか?」
「ううん。本当に幻獣なんだなって」


10センチの姿を見ていて人間でないことは分かっているだろうに。
どうやら宿の主もそうだが幻獣を直接見たことはないらしい。人間界に幻獣は意外といるのだが、召喚獣となっているものが少ないからだろう。彼らは普段は隠れて暮らしている。
彼女の視線に好奇心のようなものを感じて、刹那は心の中で溜息を吐いた。


「…違いに驚いたか?」
「うん。でもあんまり怖くないの。二人で話しているのを見ていると、面白いよ?」
「……」


何だか会話のペースが掴めない。
悪い人間ではないので、そのまま適当に相槌を打って部屋に上がった。
ライルは身支度を整えていて、どうやら刹那を探しに行こうとしていたらしい。
ドアの開閉の音で振り返ったライルは、刹那を見て肩の力を抜いた。


「…心配させんなよ」
「出掛けてくると言った筈だが」
「そうだけど。お前は見た目未成年だし、誘拐されそうじゃん」
「その場合は返り討ちだな」
「それもそっか」


ライルはやっと安堵したという表情を見せた。
そのままやはりペットか子どもを見るような優しい表情で刹那を見て、頭を撫でる。
悪くないと思った。刹那の方が歳はかなり上だが、甘やかされるのも悪くない。


「知り合いでもいたのか?」
「腐れ縁の奴がいたから、話をした」
「そいつも召喚獣?」
「人間嫌いだから、なる気はないだろうな」
「ふーん」


淡々と言葉を並べると、ライルは気のない返事を返す。
そう言えば俺もティエリアの話に釣られて人間が苦手になり、更に自分の都合しか考えずに呼び出されて挙句封印されて、人間は信用出来ないし嫌いだと思った時もあった。
今は少し違う。信用出来ると思った人間は信用してみることにする。
長く一緒にいたわけではないのに、刹那のライルに対しての評価はかなり良かった。
刹那が思い耽っていると、ライルも刹那の言葉に頭を使っていたのか、唸り声を上げた。


「…人間嫌いね。まあ分かる気もするけど」
「人間なのにか?」
「そ。全部が全部ではないけどさ、平気で人を傷つけるし、傷つけられるし」


ライルはソファに座り、刹那を隣に呼ぶ。
そのまま隣に座ろうかと思ったが、16歳の少年の姿でも魔力は使う。10センチでいた方が消費が少ない。
ということで、刹那は10センチになりライルの膝に乗った。


「どちらも経験があるのか?」
「そりゃもちろん。傷つけるって言っても、言葉でだけどな。心を傷つけるのってさ、簡単なんだよ。逆もしかり。簡単に傷ついて、けど治りは悪い。もしかしたら一生物になるかもしれない」
「……」


いつものライルらしからぬ言葉だと思った。
刹那は小さな手でライルの膝を軽く叩く。
刹那が肩に乗りたいと勘違いしたライルは、ひょいと持ち上げて自分の肩にやった。


「…俺が、魔術を使えると思うか?」
「…さあな」


おそらく、先程言ったことは魔力がないと思いこんでいた頃に関係があるらしい。
刹那は追及をしなかった。
だが、必ず使えるとも言わなかった。人間と同じように幻獣にも向き不向きがある。
魔術を使うライルを一度しか見ていないので分からないが、才能の問題もある。
才能…そう考えて、刹那は顔を顰めた。
表情の変化には気付かなかったが黙り込んだ刹那にライルは軽く声を掛ける。


「どうした?」
「いや…なんでもない」
「?まあ、いいか。…あ、ところでさ。訊いてみたかったことがある」
「何だ?」
「人間のヒエラルキーで考えて悪いけど、幻獣の中でお前はどれぐらいなんだ?」


ずっと気になってたんだよな…と言われ、刹那は目を瞬く。
今更だと思ったのではない。


「とっくに知っていると思っていた」
「知らねーよ。召喚士は専門外だし、勉強不足なんだよ」


ライルは自分で非を認めるのは癪なのか、後ろ頭を掻いて誤魔化すように呟いた。
知らないならわざわざ教えるつもりもなかった。何となくだが、言ってしまったが最後、この関係が壊れてしまいそうに思えたのだ。


「…人間も幻獣の考え方も、同じだ。力があるものが上位におり、支配する」


刹那は、忌々しいとばかりに吐き捨てる。
刹那の機嫌が悪くなったのを察知したライルは、訊くべきではなかったと後悔する。
ライルが謝罪をしようとしたところ、刹那は逆に問いかけた。


「主から見て、俺はどの位置だと思う?」
「…全く分からないな。俺より強いってことしか」
「今は魔力が安定していないから、荷物だが」
「そんなことはないだろ?俺は旅の相棒が出来て楽しいぞ」
「え?」


刹那の間の抜けた表情を見て、ライルは微笑んだ。


「力は強い方がいいとは思うが、そんなの二の次だと俺は思ってる」


刹那はライルの言葉に一瞬呆けた。
だがすぐに取り繕い、ふっと微笑みを浮かべる。

(…こんな人間も、いるのか…)

刹那は何ひとつ疑問に答えていないのにすっきりした顔立ちになったライルを見て、心の底からそう思った。
少しずつではあるが、人間のこと、ライルのことを知っていける今が一番充実している。


「ライルさーん、手伝ってくださーい!」
「お、呼ばれたな。行ってくるぜ」
「…俺も働こう」


刹那はライルの肩から下りて元の大きさに戻り、先に部屋を出て行った。
ライルは張り切っている刹那の様子を見て、どうか何事も起きませんように…と願うほかなかった。


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