7.砂漠にて、枯渇する会話 | ナノ



7.砂漠にて、枯渇する会話


ユニオンの砂漠地帯を通過中、ロックオンがオアシスで水を確保しにいくから、と車を後にした。
することもなかったので、気まぐれに通信のスイッチを入れる。
今日の定時連絡は、ロックオンではなく刹那が報告をすることにした。


『よお、ガキ。今回はちゃんと定時だな』
「……ハレルヤ」
『ご名答。面倒だが報告よろしく』


そして今日の定時連絡に限って、高確率で出るティエリアではなく、戸惑った笑顔を見せるアレルヤでもなく、何故かそのアレルヤの半身であるハレルヤだった。
刹那はハレルヤ自身とあまり会話をした覚えはない。もちろんロックオンもティエリアもそうだろう。
戸惑うことはなかったが、少し面倒だと思った。
考えごとをしていると不機嫌そうな態度で「さっさと何処にいるか、お前らの状態を言え」と促されて、刹那はぼそぼそと呟いた。


「…今、ユニオンの…砂漠地帯にいる」
『もう都市部から移動したのかよ。相変わらず忙しいこって』


馬鹿にするような口調に少しだけ心配していた要素が含まれていた気がして、刹那はティエリアと同じ部類だなと思った。
ティエリアも素直ではないとロックオンが言っていた。俺もその通りだと思うが、少し意見が違う。あいつはロックオンだけには素直だ。
ハレルヤも半身のアレルヤには素直なのか…と考えて、今まで仲間の事情など考えた事などなかったのに、確実に変化している自分に驚いた。

(やはり、あいつのおかげか)

ふっと笑みを零した刹那を見逃すことなく、ハレルヤは口角を上げる。


『ほお、見ないうちに随分感情豊かになったんだな。あの優男のおかげか?』
「優男…?」
『おセンチ野郎が熱上げてるあいつだよ』


おセンチ野郎だけでは誰だか分からなかったが、今側にいる人間はロックオンしかいない。
誰のことを言っているのか分かって、刹那は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


「…そうかもしれない」
『……』


刹那が溜め息交じりにそう言えば、ハレルヤは眉を顰めて通信越しの刹那を見た。
何故そんな表情をされるのか分からず、刹那は首を傾げる。
ハレルヤはうざったそうに前髪を掻き上げて、口元を歪めた。
少なくとも、刹那にはそう見えた。


『アレルヤの野郎は、おセンチ野郎の依存と優男の執着心を気にしていたが…てめーも、重症だな』
「…?」
『行き過ぎた相互依存は身を滅ぼすぜ?お前は特に…甘やかしすぎなんじゃねーの?』


ハレルヤは自分の首の部分を指して、嘲笑を浮かべた。
刹那ははっと気付いて先程までしていたが車内では暑くて脱いだ、ターバンを首に巻く。
既に見られてしまったが、そうそう他人に晒していいものではない。
日本での出来事がきっかけで、共に眠るだけでなくロックオンが生きているという証が欲しくてセックスをするようになった。
さすがに疲労のピークを迎えていれば話は別だが、そうでない限りは今のように砂漠でもした。
それを見破られたのだろう、見える所につけられたキスマークによって。
更に、旅についていきたいと言ったロックオンを拒否せず、宇宙に帰ってこない自分に何か感じる事があるのだろう。
聡いハレルヤの事だ。自分自身考えていなかった事を確実に見抜いていた。


『ま、俺様にはかんけーないな』
「……俺は、今まであいつにしてもらった分、それ以上にして返したい」


ソレスタルビーイングのガンダムマイスターに抜擢されてから、今までの分すべて。
亡くした、と思ってから気付いた絶望と、空虚。あの男の存在の大きさ。
生きている今もその存在の大きさは小さくなどならない。むしろ大きくなっていくばかりだ。
だから、もう二度と亡くしたくない。
彼を守る力などないと思い知った今でも、出来る限りの事をしたいと思った。

ロックオンのために。自分のために。

少しずつつっかえながらもハレルヤに伝えれば、彼はぽかんとしていた。
しかし、彼はすぐに自分ペースを取り戻すと、腹を抱えて笑いだす。
何故笑われているのか分からない刹那は、眉根を寄せた。


「何かおかしな事を言ったか?」
『いや…健気過ぎて涙が出るわ。アレルヤも真っ青だな』
「……」
『だが、悪くないぜ?少なくとも綺麗ごとを並べた上辺だけの関係よりも、ちょっとつつけば破滅しそうな、互いに依存している危うい関係のがおもしれー』
「…それは」


どういう意味だ?と尋ねる前に、ハレルヤは一方的に通信を切ってしまう。
再び交信しようとしたが、いつの間に水を酌みに行って戻ってきたのかロックオンに端末を奪われてしまった。
口元は笑っているが、瞳が笑っていない。
こういう時のロックオンは、怒っているのだろう。
何故かは分からないが、もしかして今の会話を全て聞かれていたのだろうか。


「…ロックオン」
「随分仲が良いな、お前とアレルヤ」


相手はアレルヤではなくハレルヤだと言いたかったが、言えるような状況ではなく、周りの温度が2,3度下がった気がする。
どうやら何か勘違いをしているらしい。
無表情の中に嫉妬心が見え隠れしている。
そんな表情をさせてしまうのが自分である事に戸惑い、嫌で何か言わなければと頭をフル回転させた。
だが、刹那が何か言う前にロックオンはレンタカーのシートを倒して彼の服の中に手を入れた。


「お前に定時連絡させるの、出来る限りやめるわ」


俺の心がもたねえ、と呟いた男の首に刹那は腕を回した。






『…何で、あんな事言ったの?』
「さあな」
『ふーん…ハレルヤが通信に出たいって言うから、何をするのかちょっと不安だったよ』
「何もしてねーだろ?お前が言う通り優しく対応してやったじゃねーか」
『ロックオンが出たら、文句言う気満々だったくせに』
「そんな面倒な事はしねー」


ただその時は、いい大人が何を怖がってるんだと問い詰めただけだ。


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