5.どうやら大切なものを盗まれたようですその後 | ナノ



5.どうやら大切なものを盗まれたようですその後


刹那の様子がおかしい。
合流地点に約束の時間より遅れてきたのもそうだが、その後も一言も喋らずにホテルまで来た。
基本的に無口な刹那だが、俺の顔を見る事すら避けているようである。
俺が何かしたのか…と思ったが、別行動するまでは普通だった。ということは別行動中だろう。
何か遭った事は明白だった。外傷はないようだが、刹那をそこまで落ち込ませる事ならば、話して欲しい。
嘘を吐かれるのも嫌だが、黙っていられるのも我慢出来なかった。
これが守秘義務の存在した頃ならば話は別だが、仮にも仲間であり、好意を抱いている相手だ。
知っておきたいと思うのは当然の欲求だろうと、俺は行動に移した。


「刹那」


荷物の整理をしていた刹那を近くのベッドに倒して、顔を俯ける事が出来ないように両手で彼の顔を固定した。
瞳が揺れている。まだ何も言っていないが、隠している事の自覚はあるのかもしれない。
刹那のその顔を見て、自分の顔が歪んでいくのが分かった。思った以上に隠し事をされるのが嫌なようだ。


「…何か遭ったのか?」
「……」


何も言えずに目を逸らす刹那に、苛立ちが募る。
俺にも言えない事なのか、と誰に向けているのか分からない傲慢な嫉妬心を覚える。
言わせるために刹那の手首をまとめて、頭の上で握り締めた。
刹那の顔が痛みで少し歪む。

(それでも俺にされるがままなのに、質問に応えられないのか)


「…お前が黙ってるなら、言わせてみようか?」


ただ自白させるためだけに今まで我慢してきた事をするのも何だが、本気である事を分からせる必要があった。
両手首の拘束はそのままに、刹那の服の中に手を入れる。
驚いた刹那が、すぐに状況を掴んだのか暴れだした。
しかし、体重をかけているのは俺の方だ。いくらデュナメスに乗っていた頃よりも体力は衰えたとはいえ、刹那が抜け出せる事はなかった。
革手袋をしたまま刹那の腰を撫でて、下の方にずらしていく。

(嫌ならさっさと言えばいい)

尻を撫でて後ろの蕾に中指を持っていけば、さすがの刹那も焦ったように声を出した。


「っ、ロックオン!」
「このまま、慣らさずに挿れてもいいかもな」


思ってもいない事を言うのは疲れる。
くいくいと慣らしていない蕾を刺激するように指を動かした。
恐怖に引き攣った刹那の青白い顔を見て、さすがにやりすぎたかと思う。

(だから、早く言え。俺がお前に酷い真似をする前に)


「いっ…言うか、ら」
「そ?」


自分の中にある暗い感情を押し殺して、俺は刹那の服の中から手を出し拘束を解いた。
身体を少しずらして刹那を起き上がらせると、刹那は一息吐いてこちらを見る。
強い視線だった。いつもの、俺達を引っ張ってきたガンダムマイスターの瞳だった。
先程俺から目を逸らしていた時とは違う。覚悟を決めたという事か。
俺の方が少し緊張して、刹那の言葉を待つ。
一度目は口を開いて、戸惑ったように閉じてしまう。二度目に開き、やっと喋り始めた。


「…先程、お前の…いや、ライル・ディランディと接触した」
「…ライル?」


思っていたことと違い、声が裏返ってしまった。
ライルは俺の弟の名前だ。しかし、目の前の子どもを始め、その事実は誰にも教えてはいない。
ヴェーダから仕入れた情報だとも思えない。ティエリアなら話は別だが。
だとしたら、刹那がライルと逢って俺と間違えたのか。
よく分からない。詳しい事を知りたいと思った。


「ライルは…仕事でここに?」
「ああ、本人がそう言っていた。偶然ぶつかって、カフェに連れていかれて2,3話した」
「ふーん…」
「すまない」


刹那が何を謝っているのか分からなかった。
少なくとも、俺は刹那がライルと逢った事を怒ってはいない。ミラノにいるとは思わなかったが、ここに来た時点で逢う可能性は考えていた事だった。
隠していたのは許せなかったが、話すつもりでいたのは刹那の態度から何となく分かる。
話をどう切り出せばいいのか分からなかったのだろう。
不器用で優しい少年に酷い事をしてしまった。

反省をして、いつの間にか俯いてしまった刹那の頭を撫でると、彼は手を叩く事はなかったが身体を震わせる。
自業自得か、と笑いたくなった。
しかしそれは許されず、刹那は再び顔を上げてこちらを見た。


「…ライル・ディランディは、お前に、たまには顔を見せろと…」
「刹那は俺の事を言ったのか?」
「言ってはいない。だが、あまりにお前と外見は似ていたので戸惑った。それでお前の関係者とばれた」
「なるほどな」


自己嫌悪に陥っているのだろう。
刹那は悪くないよ、と言えばもう一度謝罪の言葉が返ってくる。
余程思い詰めていたのだろう。分かってやれなかった自分に反吐が出そうになった。

刹那の中で、おそらくまだ無人島での出来事が心の傷になっているように思えた。
俺だけでなくライルと逢って、再びKPSAの頃を思い出して、自分を責めていたのかもしれない。
俺はそんな刹那を見たくなくて、そんな傷を残してしまった自分に憤りを感じながらも、ごめんな、と呟き彼の身体を優しく抱き締めることしか出来なかった。
先程のこともあり、刹那は始め警戒心で身体を固くしたが、やがて力を抜いて俺の背中に腕を回す。
俺は刹那の頭をゆっくり撫でて、今まで誰にも言わなかったことを口にした。


「…ライルと俺、似てるだろ?双子の兄弟だからな」
「…双子…」
「親ですら見分けつかなくてさ。エイミー…妹ぐらいだったかな?見分けがついたのは」


自虐的なことを言って、自分自身が傷つく。
刹那も俺とライルを間違えたということは、万が一2人で並べばどちらがどちらか分からないだろう。
しかし、刹那は予想外のことを口にした。


「いや、お前とあの男は少しずつ違う。お前は不器用で基本的には分かりやすいが、あの男は何を考えているか分からないな」


そんなことを言われたのは初めてだった。
誰もが似ていると言い、昔一度入れ替わってみても誰も気付かなかった。
刹那もそうだろうと思い、勝手なことを言った。

どうしよう。違いを見つけてくれたことが嬉しい。
誰よりも俺が好きな人間に言ってもらえて、嬉しすぎて涙が出そうだ。

酷いことを言われているにも関わらず笑顔になった俺に、刹那は腕の中できょとんとしていた。


「…ロックオン?」
「はは……そっか。ありがとう、刹那」


礼を言われた理由が分からない刹那は、眉根を寄せる。
誤魔化すように頭の上で頬を擦り付けると、刹那は離せ、とばかりに暴れた。
何とか刹那を懐柔してからそう言えば、と思ったことを口にする。


「ところで、ライルに何かされなかったか?」


俺とライルの好みは昔からほとんど同じだった。彼女を取り合ったことも一度では済まない。
だから、ライルが無理矢理刹那をカフェに誘ったのもおそらく好みのタイプだったからだろう。
刹那は少し考えていた様子だったが、ありのままに述べたようだ。


「…挨拶で、口にキスされた」
「へえ」


予想通りの行動だったが、自分の機嫌が急降下していくのが分かる。
俺に、こんな執着心があるとは思わなかった。もちろん人並み以上の独占欲も。
刹那は俺がもらう。弟のライルだろうと誰だろうと渡すつもりはない。渡さない。
彼を、誰とも共有する気などないのだから。


「…お前は、誰にもやらないさ」


え、と身体を離して俺の顔を見ようとした刹那に、顎に手を掛けて食らいつくすようなキスを送った。


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