3.夜を駆ける | ナノ



3.夜を駆ける


昼の間に眠り、夜になれば車を走らせる。
昼間の警備が厳しい国境沿いにいた俺達は、最近は昼夜逆転の生活をしていた。
人間、いつもと違う生活になると、失敗を犯してしまう事が多い。
俺達も例外ではなかった。もちろん大きな事ではなくて、些細な事ではあったが。

3日おきにティエリア達に定時連絡をするのが基本だったが、今回は忘れていた。更にあちらからかなりの連絡数があったにも関わらず無視してしまった。
そのせいだろう、慌てて今連絡したが端末のディスプレイから見えるティエリアの機嫌はすこぶる悪い。
どうやって機嫌を取ろうかと悩んでいた俺に、ティエリアは盛大な溜め息を吐いた。

ちょっと待て。それは刹那とティエリアの仲があまり良くなかった頃の、俺の癖だった筈だ。
ティエリアは俺を人間の手本として参考にしていると言っていたが、そんな所まで参考にしなくてもいい。胃痛でドクターに世話になるから。


「おいおい、そんな溜め息吐くなよ」
『誰のせいですか、誰の…』


どうやら俺の態度に怒るよりも呆れてしまったようだ。
さて、どうするか…と考え始めようとした時に、ティエリアはふと真面目な表情に戻った。


『ところで、刹那は?』
「今この辺の様子を見に行ってる」
『夜に活動しているのですか』
「まあな。中東の国境沿いだし」


俺は白人で目立つから車でお留守番な、と笑って応える。そうするとティエリアの表情が暗くなった。
この子はおそらく俺達2人を心配しているのだろう。定時連絡がないと不安で押し潰されそうだったに違いない。
悪い事をしたな、と俺は心の中で反省をした。


「悪かったな、連絡出来なくて」
『いえ。無事を確認できたので問題ありません』
「…ほんっとお前さん丸くなったな」


今までの棘があったティエリアとは別人のようだ。当り前のように仲間を心配して、当たり前のように優しい言葉を掛ける。(後者はロックオンだけだという事は悲しいかな、本人だけが知らなかった。)
何よりも良い子に成長してくれた事が嬉しくてそう言えば、ティエリアは照れてつんになるのではなく、はにかむような微笑を浮かべた。


『それは、あなたのおかげでしょう。ロックオン』
「そうか?」
「…ロックオンっ」


走って帰ってきた刹那がドアを開けて車に乗り込み、幾分か焦った声で俺の名を呼ぶ。
俺もだが端末越しのティエリアさえ、刹那の尋常ではない様子が分かったのか身を固くした。


「すまない、警備の人間に見つかった。車を走らせてくれ」
「了解。ってことで、ティエリアまたな」


エンジンをすぐさまかけて、アクセルを踏む。
端末は隣に座る刹那に投げ渡した。


『…落ち着いたら、連絡をしろ。刹那』
「了解」


その返事とともに銃声が鳴り響き、こちらに向けて撃たれる。
サイドミラーと窓が割れた音がした。
この車を借りるのは本当に高かったのに、返す時にどう説明すればいいんだ。あんまり金ないのに、とひとりごちながら車を走らせる。
刹那は冷静なもので、座席の下から隠してあった小型銃2丁と弾を取り出し、弾を入れた。
敵は肉眼で確認して数人で生身の人間。この辺りに詳しい刹那と足を持っているため、タイヤをパンクさせられない限りこちらのが断然有利だ。


「…刹那、ハンドル握ってろよ」
「は?」
「全部狙い撃ってやる」


射撃の腕は俺の方がまだ上だろう。
刹那の手から銃を奪い、割れた窓ガラスの隙間から敵さんを撃つ。
本当はライフルのが得意だが、我儘は言ってられない。
刹那は慌てたように助手席からハンドルを握りしめて、初めての車をぎこちなく動かしていた。


夜を駆ける俺達には、夜明けはまだ遠い。

****
この頃ジープとか知らなかったので、刹那も車は運転出来ないと思ってました。


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