2.宿がありません | ナノ



2.宿がありません


「今日も野宿だな」


幸い車もあるし、ここは内戦やテロなども他の地域と比べたら少ない。
だから今まで野宿してきた場所より安心…とまではいかないが、大丈夫だろうと俺は言った。
もちろん気を抜く事は許されない。そんな世界に俺達はまだいる。
今まで中東を見てきたが、何も変わっていない様子がありありと見えている。むしろ世界の状況は悪くなっていやしないか。
しかし、ここ中東だけではまだよく分からない。

ロックオンはレンタカーを物陰に停めて、盛大な溜め息を吐いた。
今日こそホテルのベッドで眠れると思っていた老体には厳しいものがあったらしく、唇を尖らせて文句を言う。


「ベッド…」
「お前は、軍基地に近いホテルに行けと?」
「うう…」


いつも聞き分けの良い大人が駄々を捏ねる姿を見て、どちらが子どもなのか…と溜め息を吐きたくなった。

確かにこのところ野宿生活が多い。
それは軍基地の調査を独自でしているためである。ロックオンもそれが分かっている筈だ。

それでも、嫌なら宇宙へ帰れとは言えなかった。
この男と旅をし始めてもう数か月が経つが、今では共にいるのが当たり前になっている。
一度、先の大戦でこの男を亡くしたと思ったからかもしれない。彼はリハビリで数年を棒に振ったが、それでも生きているだけで良かったと皆は口々に言った。
俺もそう思う。

(亡くしていなくて、本当に良かった)

旅を始めた当初はよく分らなかったが、ロックオンと共にいられるだけで、俺にとってこれ以上の喜びはないと今は思っている。
だから、帰れとは言えない。
出来ればこの子どもみたいな大人の願いを叶えてやりたいと思うが、リスクを考えた上で冒頭の結論に達した。

俯いてそんな考え事をしていた俺に、ロックオンは少し陰を落とした。若干の勘違いをして。


「でもさ、刹那疲れてるだろ?」
「俺は平気だ。あんたには明日も車の運転を頼むから、さっさと寝ろ」
「…それは悪いけど却下。見張りの事、俺は交替制だと言ったよな?」


先程までの駄々を捏ねていた声色より幾分か低い声に、俺は顔を上げてロックオンの顔を見た。
眉根を寄せている。どうやら彼の、そこらに埋められている地雷を踏んだらしい。
ベッドで眠りたい…それは疲れが溜まっている証拠だ。
だから、あまり疲れていない俺が見張りをやると言っているのに。
こういう時は臨機応変に、と昔お前が言っただろうと思ったが、言葉にはしない。
したらしたで、口の旨い男に言いくるめられてしまうのがおちだ。

暫くの間睨み合いをしていたが、先に口火を切ったのは彼の方だった。


「我儘を言ったのは悪い。けど、俺はお前に守ってほしいわけじゃないんだよ」
「……」
「対等な立場で一緒にいたい。戦う時も、辛い事があった時も、どんな時でもな」


一度仇討ちのために全てを手放そうとした俺が言える台詞でもないが、とロックオンは嘲笑を浮かべた。

(そんな風を思った事はない。お前に辛い顔をさせたいわけではない。俺だって共にいたい)

はっきりとこの男に言った事はなかったが、旅の最中もいつだってそう思っていた。
言葉にすべきか…迷っているのを見透かされたらしく、ロックオンは俺の髪を革手袋をした手でぐしゃぐしゃに掻き回す。


「…ロックオン」
「分かってる。目は口ほどにものを言うってお前のためにある言葉だしな」


ロックオンは笑って後部座席から二人分の毛布を取り出すと、先に俺に掛けた。
そのまま肩を抱いて、自分の肩に俺の頭を乗せる。
野宿を始めた当初からやっている事だった。スキンシップの多い男だと最初の内は呆れていたが、今では見張りの時間が来るまで静かに身を寄せ合っているのが、当たり前のようになっていた。
毛布だけではない、人の温もりに安心できるようになったのは、この男のおかげだろう。
俺は、この温もりを失いたくはない。


「…温かいな…」
「…刹那」


肩に乗せた頭の力を抜くと、顎を上に向けられ覆いかぶさるように上から唇が降りてきた。


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