1.洞窟探検 | ナノ



1.洞窟探検


旅を始めて約一週間。
洞窟なんて初めて見る、と旅を始めたきっかけの仲間が言った。

(そんなの、もちろん俺もだ)

隠しきれずわくわくした様子の刹那に、保護者兼仲間以上恋人未満のロックオンはすかさず少年のターバンを引っ張った。
首が絞まろうとも前に進もうとする根性だけは認めてやる。
だから、まるでエクシアと対面した時のような良い顔から、無表情の中に怒りを隠した顔を俺に見せるな、と言いたかった。


「…ロックオン…」
「だめだめ。俺がお前に甘いのは百も承知だが、これだけは譲れません」
「……」


刹那は拗ねてしまった。
いつもならここで折れてしまうが、今回はそうはいかない。
俺達を呑み込みそうな底が深く入口の大きい洞窟は、どう見たって危険である。
中に何があるか分かったものではない。スルーしてこの更地で野宿でもした方がまだましである。


「ロックオン…」


このままでは駄目だと分かったのだろう。甘えた声を出して、刹那はロックオンの外套を掴む。
ロックオンは舞い上がりたい気持ちもあったが、刹那のこの様子が明らかに演技だと見抜いていた。
伊達に一緒にいたわけではない。そんな事で俺は騙されないぞ、とロックオンは顔がにやけつつも必死で我慢をした。

その苦労を水の泡にしたのは、彼の相棒である。


「ハロ、ハロ、イッテミル」


鞄の中から飛び出し砂地をピョンピョンと跳ねて(どうなっているのかは不明だ)、ロックオンの相棒のハロは洞窟の中に入ってしまった。
ああ!と叫んだ時には既に遅く、ハロの機械音は入口では聞こえなくなっていた。
その様子を呆然として見ていた刹那より先に、隣にいた男は動いた。


「こら、ハロ!お前迷子になるぞ!」


ロックオンは慌てて追いかけていく。もちろん刹那を入口に残して。


「…ハロは行っていいのか」


取り残された刹那は釈然としない想いを胸に抱きながらも、追い掛けて洞窟内で迷子になるよりかは帰ってくるのを待つことにした。






どのくらい時間が経ったか。
端末の反応はない。何もないといいのだが。
刹那は手持ちぶさただったので、入口に座って砂地にエクシアを描いていた。
暫くすると、ロックオンのと思われる悲鳴が中から聞こえてくる。


「ロックオン!?」


危ない目に遭っているなら話は別だ、と刹那は立ち上がって明かりを取り出して洞窟に入る。
そのまま真っ直ぐ歩みを進めると、ハロを抱きかかえながら涙目で全力疾走している大人がこちらに向かってきた。


「せ、刹那!来るな!走れ!」
「あ、ああ…」


そう言われてすぐに踵を返し走れる人間がいるのだろうか。ほとんどいないだろう。刹那も例外ではなかった。
動けない刹那に舌打ちして、ロックオンはハロと一緒に刹那を小脇に抱えた。
軽々と抱えられて、刹那は怒る前に驚いた。
だが、ロックオンは何かから逃げる事に必死で、刹那の様子には気付かない。
刹那は一体何が…と思い、首を後ろに回して後ろの様子を窺った。
抱えられる際に明かりを落としてしまったのでよく見えないが、影らしきものが沢山蠢いている。
幻聴でなければかさかさ、ばたばた、キーキーと聞こえる。
何となく不気味である。
暴れてはいないが、身体を動かした刹那に、ロックオンは悲鳴のような声を上げた。


「ば、馬鹿!振り向くな!」
「ロックオン、あれは…」
「ハロが洞窟に棲む動物達を怒らせちまったんだよ!」
「ヤッチマッタ、ヤッチマッタ」
「お前ええ!!畜生、後で反省しろよ!」


会話をしながらも足の速さは変わらないロックオンに、刹那は人ごとのように(実際人ごとだが)さすが腐ってもマイスターだった男だと関心をした。

暫く一直線に走っていると、やっと太陽の、希望の光が満ちた。
先程2人と1個がいた入口からである。
太陽の光が眩しいのか、蠢いていたもの達は入口付近まで来ると、踵を返していった。
ロックオンはそのまま洞窟から出て、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す。
何処から走ってきたのか分からないが、20代後半に差し掛かった大人にはきつかったのだろうと刹那は思った。


「はあ…は…運が良かった…」
「…おろせ」
「ああ、そうだな…」


ロックオンは脇に抱えていた刹那とハロをおろし、自分は砂地に腰をおろした。
顔から流れる汗の量が半端ない。隣でハロは「ヒヤアセ、ヒヤアセ」と連呼していてロックオンにぐりぐりとされた。
「アー」と可愛らしい声を上げて、ハロは逃げるように飛び跳ねてロックオンの鞄に入りこむ。
そんな相棒同士の様子を見ていた刹那だったが、リュックに入れていたタオルとミネラルウォーターを取り出すと、ロックオンにそれらを投げた。
突然で驚いたロックオンだが、楽々受け止める。


「お、サンキュー」
「別に」
「相変わらずつれねーなー」



ロックオンはそう言いつつも、刹那が以前とは違う接し方でいるのに気付いていた。
大戦後瀕死の状態で助けられてから、刹那はとても心配症になった気がしていた。
それは他のマイスターも仲間も同じで、くすぐったいような情けないような複雑な気持ちだとロックオンは自嘲する。
今回の旅も、ドクターに止められたが無理矢理刹那についていくと言ったのだ。ティエリアやアレルヤにも散々説教されたが、一緒にいようと決めていた。
保護者はもういらないだろう、そんな立派な弟分に何故だろう。
それは、俺が、彼を好きだからとしか言いようがない。再会してすぐにまた何ヶ月、あるいは何年も離れていたくはなかった。
ロックオンがそんな事を考えながら静かに刹那の顔を見ていると、刹那はこちらに足を進めてきた。


「…ほら、もう動けるだろう。行くぞ」


刹那は、ロックオンに手を差し伸べる。
その手を迷いなく取って、ロックオンは立ち上がった。
今更ながら、旅についていくと言っても断られなかったのは、少しでも同じ気持ちだったのだろうかとロックオンは信じてみたくなった。


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