冷えた心、閉ざす想い | ナノ


※つっこみどころ満載ですが、心に秘めておいてください←


アイルランドへと降りることになった。
ことのきっかけは休暇の準備をしていたライルが、刹那に向かって「故郷に行ってくる」と言ったことだった。
何をしに行くのだろう。ふとそんな疑問が湧く。
墓参りに行くのかと問えば、否定の応えが返ってくる。
一人で行くのかと問えば、一緒に来るかと疑問に疑問で返された。
丁度休暇が重なっていたこともあり、俺はライルと共にアイルランドへと降りることに決めた。



冷えた心、閉ざす想い



一度来たことがあるが、アイルランドは緯度が高い割に冬の時期はあまり寒くない。
ライルに言わせると夏は涼しいらしく、住み心地のいいところだと思った。
アイルランドの首都ダブリンに降り立ったあと、ライルは適当に買い物をして何故か俺にニット帽とマフラーを買った。
長袖でいつもより厚着をしているのだが、コートを着て防寒しているライルに比べると薄着に見えたらしい。
温かいのは確かなので、刹那は素直に受け取り、やや深めにニット帽を被りマフラーを緩く巻いた。


「…ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ行くか」
「…どこにだ?」


トレミーにいた時と同じように何をしに行くのか問うと、ライルは首を傾げた。


「言ってなかったか?」
「ああ。はぐらかしただろう?」
「そうだっけ…ま、ついたら分かる」


結局ライルは二回目もはぐらかして、歩き出した。
言いたくないことなのか。だが、今の会話では別に大した用事ではないと言っているようだった。
わけが分からないまま、刹那はライルの後を早足で追う。
そのまま歩くこと10分、車を借りて約2時間後、ライルの目的地に着いた。

そこは同じような一軒家が並んでいる、なんの変哲もない場所だった。
誰かに逢いに行くのだろうか。友達?家族…はいない。昔の恋人?
どれもしっくりこない。ソレスタルビーイングに入ったからには、友達などと逢うことは赦されないからだ。
ライルにもそれが分かっている筈だ。
だが刹那は不安でならなかった。
何がどう不安なのか説明出来ない。ただ、このままライルが自分の元から去るような…そんな感覚だった。
思わずマフラーを握りしめると、ライルが刹那の方へと顔を向けた。


「どうした?寒いのか?」
「寒くない」
「ならいいけど。俺ん家暖房つくか分からないからな、覚悟しとけよ?」


笑いながら言うライルに刹那は唖然とした。

(今、なんと言った?)

刹那の驚愕に、ライルは一瞬顔を歪めたがすぐに微笑んだ。
刹那はその一瞬を見逃しはしなかった。





ライルの家…前に一人で住んでいたところは引き払ったらしく、今来ているのはライルが幼少の頃暮らしていた、家族の家だった。
今、家自体は誰も住んでいないあばら屋になっているらしい。
埃や汚れなど酷い状態かと思えば、数十年単位の埃や蜘蛛の巣はなかった。
定期的に掃除をしていたということだ。誰が…それは目の前で埃をはたいている男が、だ。
カタロンに入ったあとでも、定期的に足を踏み入れていたように思える。


「ろくに来なかったからすげー埃まみれ…刹那も手伝え」
「ああ…ごほっ」
「あ、わり。掃除機あるけど動くかな…」


かろうじて動いた充電式の掃除機にライルは喜び、それを俺に一通りかけさせる。
リビングだけだと言うのに、2時間もかかった。
慣れない掃除をしたあと色の変色したソファにぐったりと腰掛けた刹那は、ライルが戻ってくるまで待つ。
掃除を終えたあとすぐに、暖炉に火をつけた。因みに電気ストーブもあったが、電気が通っていないので却下だった。
部屋が暖かくなった頃、ライルは「ちょっと待ってろ」と言って二階へと上がっていったのだ。
ガタンガタンと上から物音がし、床が抜けそうだと他人事のように思った。
やがて静かになるが、ライルが下りてくる気配はない。

(何をしているんだ?)

掃除に来たわけではないだろう。だとしたら、何か取りに来たのか。
それから30分待ったが下りてこない。
迎えに行こうとソファを下り、二階に続く階段のあるドアを開こうとすると階段を下りる足音が聞こえてきた。
刹那はライルが入るタイミングでドアを開けた。


「うおっ」
「遅かったな」
「まあな…これ探しててよ」


ライルが持っていたのは、3冊のアルバムだった。
分厚いそれらをテーブルに置き、ソファに座ったライルが最初の一冊を捲る。
双子の赤ん坊の写真が目に飛び込んできた。


「…写真…?」
「そ。全部燃やそうと思ってな」


平然と呟くライルに、刹那は思わずアルバムを捲る彼の手を取った。
ライルは驚き、どうかしたかと優しく聞く。
刹那が無言でライルの顔を見返すと、彼は溜息を大きく吐き視線を下へと落とした。
隠し事をする気はないようだ。


「………お前がいれば、家族の思い出全て燃やせるかと思って…な」
「……」
「悪いな。お前はここに来たくなかっただろ?俺の無神経さにも程がある」


刹那は首を横に振った。
俺はディランディ家を滅ぼしたテロリストの一員だった。その事実は今でも心に重くのしかかっている。
だが俺の罪は数え切れないほどあり、感覚は麻痺し…おそらくおかしくなっていた。
だから自分の心の平穏よりも、ライルを慰める方を取った。


「…俺がついていくと行った」
「…そうだけど、」
「言い方を変える。俺がお前といたかった。ただそれだけだ」


刹那の言葉にライルは目を瞠り、きつく目を閉じて刹那の身体を抱き締めた。
程なくして聞こえてくる嗚咽に、もしかしたら二階にいた時にライルは泣いていたのかもしれないと思った。
刹那は宥めるようにライルの背中に腕を回し、ゆっくりと摩る。


「すま、ない…、本当に、すまない…」


ライルの身体の隙間から見えたアルバムの写真は、家族皆で笑っている、幸せな家族の一ページだった。



****
依存的…なんだろうか?
ライルは家族の思い出を燃やすのに戸惑い、刹那がいれば…と考えてつれてきた。→自分の帰る場所をなくすことが一人で出来ずに頼る
刹那はライルが自分から離れていくのを怖がり、アイルランドについていく。→恋愛の意味で依存的?
ディランディを語るのは難しいですね。
安っぽいですがいずれ刹那に、「俺の家族に負い目や罪の意識を持たなくていいから」とか言ってあげてほしいです。それを鵜呑みにする子じゃないとは思いますが、肩にのしかかった罪をライルも背負ってやってほしいな…と。全て妄想です。


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