ずっと側に | ナノ


※ニールがへたれで、ライルがいやな感じです。
あとがきが長いです。


何が、起こったのか。


「アニューは…!戻ろうとしていたのに…っ!!」


ライルの悲痛な声と拳で殴る音が聞こえる。刹那は声を発さなかった。
ティエリアは止めようとしていたが、手を伸ばしかけて止めた。
その場面を見たことはないが、ティエリアも俺が死んだと思った時に、刹那に詰め寄った経験があるらしい。
本人から訊いた話ではないので本当かどうかは定かではない。
だから止められないのだろう。そもそも俺が原因なのだから。
ティエリアが出来ないならば、ライルの暴行を兄である俺が止めなければならない。
それなのに、ティエリアが出した手すら俺には出せない。指一本も動かず、声も喉が震えて出ない。


「何とか言えよっ!!…ちくしょう……」


ライルは刹那の胸倉を掴み、両膝をついて泣き縋った。
刹那は殴られた頬の腫れを気にすることもなく、どこか遠くを見つめている。
ティエリアと俺がいる方向を見ているのに、こちらに気付く様子もない。
随分経った後刹那はゆっくりと下を向き、ライルの泣き崩れた姿を見て目を閉じた。







ことの発端…原因は弟の愛した女性はイノベイターであり、彼女はソレスタルビーイングを裏切った。
ライルと刹那の間に何かあったのは明白だった。おそらく、ライルが彼女を撃てないのを見越して刹那が自分が撃つと言ったのだろう。
持ち前の不器用な言い方で。
その場にいれば…と一瞬思ったが、何か出来る筈もない。
それに、過ぎたことをぐちぐちと言っていても何も変わりはしない。
ニールは哀しみとやり場のない憤りに包まれたトレミーの中を歩きながら、自分に何が出来るのか考えていた。
本当は何もしない方がいいのかもしれない。
俺はライルとは兄弟だが、刹那とは恋人同士である。
中途半端に関われば、どちらの信用もなくす。
卑怯で傲慢かもしれないが、俺はどちらもなくしたくなかった。

(とりあえず…ライルは暫く出てこないだろうから、刹那のところへ行くべきだな)

刹那は殴られた頬の手当ては自分がする、と譲らなかったティエリアに任せてきた。
本当は自分がしたかったが、ティエリアは頑なに首を横に振ったので今俺はここにいる。
そろそろ手当を終えた頃だろう。
ニールはメディカルルームに足を運ぶことにした。


「……兄さん」
「…ライル」


背後から声を掛けられて、驚いた。
ライルは自室に籠っているものだと思っていた。昔彼女に振られた時も、両親と妹が亡くなった時もそうだった。
弱いところを見られたくないという思いが強かったのだろう。実際に俺もそうだ。
だが、今ライルは俺の目の前にいる。
赤くなった瞳はこちらを見ずに、斜め下を見つめていた。


「刹那のところに行くんだろ?」
「え…あ、まあ…」
「歯切れ悪いな」


くすくすと笑うライルに、ニールは何だか厭な予感が身体中を支配する。
自分の予感通りだった。
ライルは笑いながら腰に備え付けてあった銃を取り出し、ニールの顔に向けた。


「ライル…」
「実の兄弟に銃を向けられる気分はどうだよ?」
「撃ちたいのか…?」
「…俺は、あいつを赦せないんだ。あいつにも同じ想いをさせれば、少しは満たされるのかな…と思ってね」


銃の持っていない手を自分の顔にあてて、ライルは笑っていた。
こんなライルを見たことがない。辛いことは全て自分が引き受けようと行動していたからだ。
今になって間違いに気付いた。俺はずっとライルを守っていたわけではない、ただ籠の仲の鳥にしていただけだ。
どん底に落とされた。銃を向けられることよりも、自分の不甲斐なさに衝撃を受けた。


「…俺は、お前に何をしてやれたのか…」
「何言ってんだよ?」
「………」
「…そういうところが嫌いだよ、兄さん」


ライルは銃を下ろし、そのまま無重力の海に放り投げた。


「…どちらも失いたくないなんて、酷い傲慢だ。あんたは刹那のことだけを考えていればいい。出来の悪い弟がやった不祥事の後始末でも、恋人の立場としても、どちらでも構わないから」
「ライル…」
「…呼びとめて悪かった。刹那に殴って悪かったと言っておいてくれ。けど、それ以外は謝るつもりはないとも」


ライルは最後強めに言うと、踵を返した。
ぼそりと呟いた言葉は、俺の心を酷く掻き乱した。


「…大切にされるのは悪くなかった…それでも、俺はあんたを天秤にかけられる。銃を向けられる。そこまでなんだよ」


ライルが振り返ることはなかった。






刹那のところに行けたのは、それから大分経ったあとだった。
刹那は自室に戻っており、食事を取らないと言う。
心配だったのがほとんどだが、本音はどうなのかきちんと聞いておきたいと思った。
刹那の部屋のドアの前に立ち、二回ノックをする。
返事はない。
ニールは使い慣れた暗証番号を素早く押して、ドアのロックを開けた。
部屋の電気はついておらず、明るいところにいたニールは暫くよく見えなかった。
電気をつけようと壁に手を伸ばすと、低い声が制止を示す。


「…つけるな」
「刹那」
「…何しに来た?」


刹那の無感情な声が部屋に響き渡る。
徐々に暗いところに慣れた目で、刹那の姿を追った。
気配通り、刹那はベッドに座って顔を俯かせている。
ニールは一瞬戸惑ったが、近付こうと足を進める。


「近付くな」
「…それは、無理だって」
「……命令が駄目なら、お願いだ。頼むから、近付かないでくれ…」


刹那の苦渋に満ちた声に、ニールは堪らなくなる。
もっと早くここに来れば良かった。いや、来なければならなかった。
刹那は迷った姿や弱った姿を相手に曝け出さない。だから自分の殻に人一倍籠りやすいと知っていた筈なのに。
ニールはすぐに抱き締めたかったが、自分の欲望を抑えて刹那のすぐ側で片膝をつき、刹那の膝に置かれた拳を掌で包み込む。
刹那の身体が見るだけで分かるぐらいに跳ね上がった。
刹那は力なく顔を横に振り、やはり拒絶の意を示す。


「駄目だ、やめろ……」
「お前の願いを聞いてやりたいけど、俺はお前が苦しんでいるのを見過ごしたくない…あの時は、お前の側にいられなかったけど、この想いは本当だ」
「……ニール」
「抱き締めていいか?」


ニールの問いに刹那は言葉で返事を返さずに、ニールの腕を引き一緒にベッドに倒れ込んで抱きついた。
俺は驚いて暫く刹那を凝視していたが、刹那の嗚咽が自分の耳にも届いた時に刹那の背中に腕を回して力を込めた。
刹那が息を呑む。そのまま顔を埋めて、感情を吐露してくれた。


「俺は、…正しか…った…のか?…あいつが哀しむことも…分かっていたのに、合理的な方法が…本当に…良かった…のか…それしか、俺にはなかったのに……」
「お前がやらなけりゃ、ライルは死んでいたよ……お前があいつの命を救ったんだ…」
「だが、ニール…俺は恋人をなくす痛みを知っている。そ、れなのに……」


刹那の額に落ちた前髪に唇を落とし、きつく目を閉じる。
刹那にその痛みを植え付けたのは紛れもなく俺だ。刹那は感情を押し殺してやり遂げたことだった。
とっくに知っていたが、今まさに突き付けられた真実に俺はなんて罪深いのだろうと思った。


「それは…全て俺のせいだ。お前は褒められたやり方ではなかったけど、それしかないことを知っていて誰も出来ないことを実行出来た。お前がそれを罪だと言うなら、俺もその罪を被るよ…」
「違う。お前が気に病むことはない…全部俺が持っていく…だから、…」


刹那は顔を上げた。
ニールは少し腕の力を解いて刹那の表情を覗く。
金色の、見たことのない瞳の色が俺を捕えた。


「側に…いてくれ…」
「ああ…」


黄金の瞳の色が幸運を表すのか不吉を表すのか分からない。
だが、今刹那に出来ることをしようとニールはもう一度抱きしめ返した。




****
ヤンデレ一歩手前のライルが出張り過ぎた…(しかもいやな奴だ…)。それよりも、ニールのへたれさを謝るべきかもしれないです。

ライルへの言い訳をしておくと、刹那には自分と同じ…あるいはそれ以上の苦しみを味あわせてやりたいと本心から思った行動でした。(ニールと刹那が恋人同士なのは周知の事実設定)
更に兄でも踏み込まれたくない領域(兄離れ)と刹那に対する微々たる罪悪感からあんな科白を言いました。
わざと突き放したということです。いい加減にしろよって感じで。俺を気にする分を刹那に全部持ってってやれって無意識に(ライルの中はアニューの死でいっぱいなので)。
謝るのが殴ったことだけ、というのはライルのプライドからです(最後の砦ともいう)。考え方としては分かるけど、俺はもし同じ立場にあっても刹那の合理的な方法を選ばないと。皮肉でもあります。
仲悪いな…ライルと刹那は基本通じあえてないと思うので。気分を害された方がいましたら、申し訳ないです。

刹那について。
ニール生存設定ですが、ニールが亡くなってると思った→しかし生きていた設定なので(本文に書けよ)、刹那は目の前で大切な人を亡くす辛さを知ってます。その時の絶望とか…諸々を。
知っているのに仲間にそんな想いをさせたくなかった…と心の葛藤があったということで。
「全部持っていく」は刹那は自分の罪を重ねていくことしか出来ないと思いこんでいる不器用な性格だと思ったので。頑固なので譲らない部分。ニールもそれが分かっている。
ニールはそんな刹那が哀しいけど、いつか自分にも預けてくれると待っているわけです。そんなこと書いてないけど!←
すぐに刹那がデレてすみません。もう強がらなくていいよ!って書いてる私が思ってしまったからです←
あとがき長くてすみません…!

「己の決断に戸惑って殻に閉じ籠もり三大欲求すらも拒絶しようとする刹那と、ライルの苦しみも理解するけど刹那も救いたいニール」…特に前者に応えられていない感がかなりあります…orz


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