震える掌を貴方と重ねて | ナノ


震える掌を貴方と重ねて


もうすぐ、ミッションの時間だ。
刹那はパイスーに着替えて一人ベンチに座った。
ここまで長かった。二年前にCBに入り、この、最初のミッションのためにCBのメンバー皆が力を尽くしてきた。
失敗など赦されない。失敗する気など皆無だったが、布に覆われた両手が震えるのが分かった。

(クルジスの闘いの時もこんな感じだったな…)

両親を自分の手で殺めてから、人を殺す時に必ず両親の姿がフラッシュバックした。身体も震えた。
しかし激戦の中身を置かれた状況では、いづれそんな震えは治まった。実際には感じる暇もなかった。
今になって、時間があるせいか再びその症状が現れた。

(…平気だ。エクシアもいる。俺はやれる)

刹那は両肘を膝の上に置き、額を両手に置いた。
自分に言い聞かせるうちに、震えも徐々に治まってくる。
その時、誰かがロッカールームに入ってきて、刹那の背中越しに座った。
刹那は顔を上げて振り返ろうとしたところ、右手を取られる。
その手を柔らかに握られて、刹那は戸惑いを覚える。
同じパイスーに身を包んだ感触がした。
刹那はゆっくりと振り返り、見知った顔を瞳に映した。


「…何をしている、ロックオン・ストラトス」
「うーん、おまじない?」


手を握られるだけでなく自分より大きな背中が凭れかかってきて、刹那は重いと訴えようとした。
しかし、続けられた言葉にその思いを呑み込む。


「…もうすぐだな」
「…ああ」


ロックオンが何を言いたいのか分かった。
握られた手が微かに震えている。自分のだけではない、相手の震えが布越しに伝わる。
もしかしたら、自分のようにミッション前に落ち着かない状態だったのかもしれない。
ロックオンはいつも飄々としていてそんな気配を微塵にも見せなかったので、刹那は驚いた。
刹那は少し考えて、先程まで振り払おうと思っていた手をぎゅっと握り返す。
ロックオンが背後で息を呑むのが分かった。


「こうすると、安心できるのか?」
「……今日は優しいんだな。照れるだろ」
「…誤魔化せないくせに、取り繕わなくていい」


刹那が溜息を吐いて少しきつく言えば、ロックオンは刹那の右手を握ったままこちらに身体の向きを変えた。
刹那はロックオンの顔を見て、思った通り情けない表情をしていると心の中で独りごちた。


「…はは、なっさけねえよな…年長者なのに、今まで人を殺めてきたのに…」
「…(守秘義務を軽々しく口にするな)」


本当は面と向かって言ってやりたかったのに、何故か出来なかった。
刹那は思ったことを吐露したロックオンに親近感を覚える。命を掛けたやり取りの中、馴れ合うのは危険だと分かっているのに、心は言うことを聞かない。
刹那はロックオンに対してか自分自身に対してか分からないまま、再び溜息を零した。


「…俺も、」
「刹那?」


刹那も身体の向きを変えて、横向きになった。
繋がれた手に自分の左手をのせる。


「あんたと同じだ」


刹那の手も震えていた。
ロックオンは今更ながらその事実に気付いて、それから自らの右手を刹那の左手に被せた。


「…本当だな」
「だが、失敗は赦されない。震えていても、怪我をしても、死んでも」
「そうだな…」


ミッションの重みに潰されそうになりながら、それでも闘うことを選んだのは自分たちだ。
始まる前から尻ごみしている場合ではない。

刹那は言葉に出さなかったが、ロックオンには伝わったようだった。


「ありがとう、刹那。みっともないところ見せて悪かったな」
「何を言っている。別に…っ!」


いつもの笑顔に戻ったロックオンは、繋いだ刹那の手に軽く唇を押しあてた。
身体の芯がぞくりと粟立つ。
刹那は真っ赤になって、ロックオンの手を振り切って立ち上がった。


「な、何を…!!」
「刹那に勇気をもらったからお返しのおまじないだって。頑張れるように、死なないように」


儚げな笑みを浮かべたロックオンは立ち上がり刹那の身体を引き寄せて、頬に手を置いて唇を掠めた。
刹那は一連の動作に抵抗することが出来なかった。
何をされているのかよく分からなかった、というのが正しい。


「…今のも、か…?」
「今のは…少し違うけど、」
『ミッション開始まで、あと0100です』


艦内放送に、2人は顔を上げる。
どちらからともなく2人は離れて、格納庫に向かう準備を整えた。
刹那が先に出て行こうとするのを、ロックオンが腕を掴んで引き留める。


「何だ?もう時間だ」
「さっきの話、今度させてくれよ?」
「は?」


困惑の表情を浮かべる刹那を置いて、ロックオンは先にロッカールームから出ていった。
ロックオンの手は震えていなかった。
刹那の身体も、震えていなかった。


****
初心に戻り、一期始まる前。時間表記の仕方が分からないまま適当にしてしまった(反省点)。
刹那が別人警報ですね。この頃は誰にも懐かないにゃんこでしたよね(大分記憶が曖昧)。でもロックオンの方は「始まったぜ」みたいなこと言ってた気がするので、多分怖がっていたと思うんですけど…?
お礼になっているか激しく微妙ですが、アンケート共々5000hitありがとうございました!(逃げ!)


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