テイク→ギブ | ナノ



明日はデート、らしい。
らしい、というのは俺が了承していないのに勝手にあいつが決めたからだ。
しかもホテルは取ってあるとか言っていた。言っておくが断じて期待はしていない。要領のいい男に呆れているだけだ。
何を言っても無駄なので、諦めモード全開でAランチを頬張る。
その前で俺の様子に気づいていながら自分だけ幸せそうに彼女の手作り弁当を食べている男を睨みつけながら。


「…ハレルヤ…その林檎をくれ」
「いやに決まってんだろ。弁当ぐらい恋人につくってもらえよ。あの人なら嬉々としてやりそうだけど?」


ハレルヤは自分の言ったことを想像したらしく、いやそうに眉を寄せた。
確かにライルならやるかもしれない。だが、そんなこと俺には耐えられそうもない。


「…お前だけ上手くいって、いいな…」
「上手くいってねーし。昔あいつとはめ外してやってたことが親父さんにばれてるからさ、挨拶しに行くにも大変でよ…」
「…ヤクザの特攻隊でもやってたのか」
「似たようなもんだ。長ラン着てな」


容易に想像が出来る。だから彼らの喧嘩は色々激しいのだ。
ハレルヤの彼女に初めて出逢った時のことを思い出し、刹那は身を震わせた。
そんな刹那の様子を全く気にせずにハレルヤは続ける。


「…でもまあ、認めてくれるまで通うしかねーしな」
「…初めて、お前の恋人が羨ましいと思った」
「ソーマ一筋だから、惚れられても困るぜ」
「誰が惚れるか」


何だかんだ言っても、ライルのことを嫌いではないのだ。好きかは怪しいが。
やってることはやっているので曖昧なままではいけないと思うのだが、よく分からない。
ライル以外とやりたいとは思わないので、多分好きなのだろうと刹那は結論づけていた。
話の流れから、ハレルヤにしか言えない諦めのついた愚痴を溢す。


「……明日、デートなんだが」
「休暇被ってたもんな……それにしてもデートなあ。どこ行くんだよ」
「分からない。ホテルは取ってあると言っていた」
「…明後日会社来れるか?」
「そういう気遣いはいらない…」


刹那はトレイをどかし、机の上に項垂れる。
ハレルヤはここ最近刹那の体調が良くないのを知っていたため、少し思案し席を立つ。
刹那は顔だけを上げた。


「もう行くのか」
「企画は今が忙しいからな」
「そうだったな…」
「……」


また顔をうつぶせてしまった刹那に、ハレルヤは一言だけ声を掛けておいた。


「調子悪いなら、明日はやめとけよ」
「…ああ…」


刹那の顔色は頗る悪い。
体調悪いことに気が付いているのか分からないな、とハレルヤは思いながら、席を外した。








自分の体調なら自分が一番分かる筈なのに、ハレルヤの言った通りというべきかデートの日に39度の熱でぶっ倒れた。
今は解熱剤が効いているからいいが、身体はだるくて起き上がれないわけで。
仕方なく携帯電話を取り、ライルの私用の番号に掛ける。
3回コールで、浮かれているライルの声が届いた。
その声だけで良心が痛むが、身体の言うことがきかない。


『刹那?どうした?』
「すまない…今日、行けそうに…な、」
『風邪か?…今から行くから、寝ていろよ』


行けない、と言ったのにライルは何故か深刻そうな声でそう言って電話を切ってしまった。
結局来るのか。
合い鍵を持っているので(もちろん強請られて断れなかった)寝ていればいいのかもしれないが、キッチンには昨日食べて片付けしていない皿が残っているし、スーツもそのまま放ってあった。
体調が良くなくてもそれぐらいしなければ…と刹那は起き上がり、ベッドを下りる。
突然起き上がったからなのか、熱のせいなのか意識が遠のきそのままブラックアウトしてしまった。



次に起きた時は倒れた筈なのにベッドに戻っており、氷枕が用意されていた。
身体中痛いし寒気がして堪らなかったが、上半身を起こせばキッチンで何やら調理をしているライルの後ろ姿が見えた。
そのまま起き上がれず再び枕と友達になる。頭は熱いので気持ちがいい。
寒気がまだするということは、熱が上がりきっていない。
とりあえず自分の身体に掛けてある毛布類をかき集めて、丸くなった。
それでも寒いものは寒い。


「…さむ、い…」
「…?起きたのか?」
「…あ、あ…」


刹那の独り言を聞いたライルが粥とスプーンを持って現れた。
スプーンなんて気の利いたもの持っていたんだな…と密かに感動している俺の横で、「今食べれる?」と聞いてきた。
返事をするにも喉がひりついて上手く出来ない。
とりあえず首を横に振り、コップに入った水を受け取った。
背中を支えてもらい、上半身を起こす。
半分ほど飲んだあと、ライルにコップを渡して横たわった。


「まだ熱上がると思うから、大人しくしてろよ。ここにいるから、食べれそうなら言ってな」
「……す、ま…ない…」


デートを台無しにしたこと。今気を遣ってもらっていること。
思ったよりも弱々しい情けない声が出たことに、本当に弱っているのかもしれないと感じた。
いつもより思考が女々しい気がする。
デートもライルが勝手に決めたことだ。行けなくなったとしても別にどうとも思わない…そんな筈だったのだが今は申し訳ないと強く思う。
自分が思うよりも楽しみにしていたのかもしれない。
寒いのと気が滅入っているのと……諸々の事情が重なり、刹那は目に溜まった涙を溢した。
ライルは一瞬驚いていたが、目元を和らげると刹那の額にはりついた前髪を払う。
冷たい手に、心地よさを感じていた。


「デートならいつだって出来るだろ?そんなことよりも、治すこと考えてろよ」
「…分か……た…」
「よろしい。…お休み」


ライルは額に、その後頬にキスをして刹那を再び寝かせた。
いままでにないライルの優しさ(会社とは別の恋愛的な意味で)に、付き合って良かったのかもしれない…とその時初めて思った。






しかし。


「なっ、ま…待てっ…」
「待たない。世の中ギブ&テイクだぜ?こっちで返してくれればいいからさ」
「出来るわけ…っ、あ、はっ…」


完治した二日後、ライルは当然のように俺の部屋に来て……上に乗れと言ってきた。
「上になれ」であればまだましだったかもしれない。
結局断ることなど出来ずに刹那はもらった分を身体で返すしかなかった。

次の日あまりの腰痛に昼休憩中死んでいた俺に、ハレルヤが湿布をくれたことだけが救いだったのかもしれない。
それでも同情のような視線が、妙に痛かった。


****
Rスイッチが入りかけたので、慌てて軌道修正…出来てないですが、しました。
リーマンのライルは最低なんじゃないかと思い始めたこの頃です。
まあ、リーマンの刹那が諦め受けのどM疑惑があるので丁度いいかと……


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