誤解→和解2 | ナノ




それから刹那はほぼ毎日仕事が終わった後、ハレルヤの家へと通っていた。
期限の半分以上が過ぎたところで、ソーマは大分上達していた。
彼女は何事にも真剣なので、呑み込みが早い。
今日も一緒に(と言っても殆どソーマが)夕食を作っていると、刹那の携帯が鳴った。
ソーマに出てくる、と言い画面も見ずにそのまま通話ボタンを押す。


「はい」
『刹那?』


携帯電話を落としそうになった。
かけてきたのはライルだった。以前プライベートの番号を交換したのを忘れていた。
刹那は心拍数が上昇するのを深呼吸をすることで抑えた。


「…先輩、何の用だ?」
『用がないと電話したら駄目か?』
「…別に」


そんなことを言われてしまうと困る。
刹那は携帯を無意識にぎゅっと握りしめた。
困った様子が伝わったのか、電話越しにライルが苦笑するのが聞こえた。


『まあ、用はあるんだ。今暇か?飲みに行かないか?』
「今から?それは…無理…」
「刹那、この本には薄力粉が必要と書いてあるが…あ、まだ電話中だったか」


ソーマが料理本片手にこちらに来て話しかけてきた。
そのまま薄力粉を使えばいいと説明しようとしたところ、いつもより幾分低い声が耳に入ってきた。


『…女といるのか』
「は…?」
『タイミング悪かったな…今どこだ?お前の部屋か?』


憤りを含んだ声に、刹那はライルが多大な勘違いをしていることを悟る。


「ちが、…」
『刹那、言い訳ならいらない。俺たちは”付き合ってない”しな』


嘲笑うように言ったライルに、いよいよ刹那はどうしていいのか分からなくなる。
その隣でソーマが首を傾げた。


「ライル…!違う。お前は勘違いを…」
『明日覚えておけよ』


ライルはそれだけ言うと、切ってしまった。
刹那は途端に青褪める。普通あちらが一方的に想っている場合、諦めるものではないだろうか。
ライルを相手にしているので、既に何が常識なのかよく分からないが。
あの科白からすると、明日何をされるか分かったものではない。

(まずい…怒らせた)

放心状態になる刹那に、ソーマははっと気付く。


「…今の、恋人だったのか?もしかして、勘違いとは…私が、」
「…大丈夫だ。第一恋人ではない…」


まるで自分に言い聞かせるように、刹那は言葉を発した。
今いない、こんな時にスーパーに買い出しに行っているハレルヤを、刹那は呪いたくなった。








「…元気ねーな」
「…ハレルヤか…」


昼の休憩時に刹那を見つけたハレルヤは、ソーマ手製の弁当を持って食堂に来た。
なんだかんだ言って彼らの関係は良好である。料理が上達してきたソーマに一番喜んでいるのはハレルヤだろう。
しかし、刹那は素直に喜べなかった。
午前中に得意先に顔だしに行ったライルがいつ戻ってくるのか…その後どう動くのか想像もつかない。

(いっそ今日は帰ってこなくていい…)

刹那の得意先の周りが今日は午後一からなので、昼休憩さえ乗り切れば今日は安心して過ごせる…筈だ。おそらく。
刹那はあと30分をどう乗り切るかに必死だった。
ハレルヤに逢う前に昨日は帰ってしまったので、彼が知る筈もない。
と思ったが、どうやらソーマから話を聞いたらしく、神妙な顔になった。


「お前、電話中にソーマを彼女と勘違いされたらしいな」
「それは分からないが…覚えておけ、と言われた…」
「あー…俺から説明した方がよさそうだな」
「その時間があればな…」


刹那はAランチをあまり食べることも出来ず、机の上に突っ伏した。
ハレルヤは彼女手製の卵焼きを食べながら、苦笑を浮かべる。


「掘られる前に止めりゃいいだろ。それとももうやられたか?前に酷く青褪めてた時あったよな」
「やられてない。未遂だ」
「あっそ…お前何だかんだ言って、いやがってねーんだな」
「………」


刹那は黙ってしまう。
そう言われてみれば、キスされて危うく襲われかけたのにライルの顔を見たくないとは思わない。
ユニオンのグラハムは生理的に受け付けなかったのに、だ。


「…俺は、あいつが好きなのか…?」
「いやな奴なら顔も見たくねーって思うのが、普通だろうな。お前はどうかわかんねーけどよ」
「……」


刹那の困り果てた顔を見て、ハレルヤはしょうがないな、と溜息を吐いた。


「刹那ー!持ってく資料の確認してくれ!」
「分かりました」


結局刹那は先輩社員に呼ばれて先に出回りに行ってしまった。
刹那と入れ替わるように食堂に入ってきた男が、ハレルヤの方に来る。
つくづくタイミングの悪い奴らだとハレルヤは思っていた。


「刹那は?」
「今行きましたけど?」
「ふーん…」


男…ライルは非常に機嫌が悪そうだ。
ハレルヤは予想した通りだと、くっと笑った。


「昨日、俺の彼女といる刹那にタイミング悪く電話したそうで」
「…はあ?お前の彼女?」
「そ。別にあんたがどう動こうと構いませんけど、俺のせいにされたらたまらないんで。刹那に迫る時はよく考えてからにしてくれって話ですよ。あと刹那に今日は来なくていいって伝えといてくれますか?」
「……」


嫌味を含めてハレルヤは言い放った。
ライルはすっと目を細める。
まあこれぐらいでいいかと、言いたいことだけ言って食べ終わった弁当箱をまとめ、刹那が残したAランチを片付けに行った。


****
刹那の敬語より違和感ありまくるハレルヤさんの敬語。
世渡り上手ということで(違う)。
2週間来てもらうのに、エクシアの写真集だけではどうかと思ったハレルヤの行動です。他意は全くないです(笑)


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