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※リーマンライ刹です。刹那は24〜25ぐらい?ライルは30手前ぐらい。


刹那から見て、ライルという男はおかしな人間だと思っていた。
ライルは刹那の働く会社の直属の上司であり、OJTの際にも世話になった男だ。
仕事はとても出来る。言葉巧みなライルは今の企画提案型の営業がとても合っているらしく、30代手前なのに評価はかなり高く役職がつく予定らしい。
部下の扱いも丁寧だった。話をするのを得意としない刹那にも1からきちんと教え、失敗した際などは次へのアドバイスを付け加えて飲みに誘ったりしてくれた。刹那にとって、飲み屋はあまり得意ではなかったが、話をするだけで楽しい時間ではあった。
そんな所謂出来る男は、私生活の方はだらしない。
会社の女には手を出さないという誓いがあると言っていたため、会社以外の女とよく歩いているのを見た。
見る度に違う女だった。
とっかえひっかえなので同僚のラッセが嗜めたりするが、ライルは毎度毎度真剣らしく、振られる度に落ち込んでいた。
昼休みに暗い顔をしているのを見て声を掛けたのがまずかったらしく、それからはライルが振られる度に刹那の家に来る。
刹那は会社近くのマンションに一人暮らしをしているため、いつ来ても良いと言えば良いのだが…


「…うう…」
「……」
「せつなあ!俺また振られた!」


見れば分かる。というより見る前にインターホンを押した時点で分かっていた。この部屋に訪ねてくるのは隣に住んでいる沙慈という男かライルだけなのだから。
刹那は溜息を吐いてソファに横たわるライルに水を渡す。
ライルはいつも酔った状態で刹那の部屋に来る。先に誰かと飲みに行ってから来ているのだろう。
だからまずは少しでも頭を冷やしてもらうための、精一杯の優しさである。
会社の先輩だから無下には出来ない。
ライルがそれに気付いているかは分からないが。多分気付いていないと思う。


「とりあえず、それを飲め」
「酒飲みたい」
「駄目だ」


駄々を捏ねるライルに刹那はふうと息を吐く。
渋々水を飲むライルを見て、刹那は頃合いを見計らい話を切り出した。


「それで?今度は何だ、浮気か?」
「…俺と付き合う子は、大体兄さん狙いなの。だから今回もそれ」


初耳だ。
前は彼女の浮気だっただろう。ライルも意地になって浮気したらしいから、自業自得だが。
ライルに双子の兄がいるのは噂になっていたから知っていた。実際に本人に逢ったことはないから、比較など出来ない。
だが、ライルが自分を卑下しなくてもいいと思った。
ライルはだらしないところもあるが、いいところはたくさんある。
影で努力しているところとか、気遣いの面とか。


「先輩の魅力が分からなかっただけ、だろう」
「そうでもないんだよ…兄さんは甘やかしたりするの得意だし、好きな相手に尽くす。でも俺は上辺だけでいやだって。はあ…」


彼女の言葉を思い出してか、ライルはソファの上で項垂れた。
ここのところ毎回刹那の部屋に来るが、言葉少なく相手を慰めるもの苦手だ。
そんな相手では却って気分を害するのではないかと思っていた。
それでも、少なくとも仕事では尊敬している上司をぞんざいに扱うことは出来ない。
刹那なりに、毎回一生懸命だった。


「…女運がなかったということだ。次があるだろう」
「とっかえひっかえみたいに言うなよ」


事実そうである気がするが、ライルを落ち込ませてしまうと思ったので口を噤んだ。


「あー、毎回毎回上司の恋愛相談口で悪いな。嫌なら嫌って言ってくれて良いんだぜ?」


ライルはそう言って額に手をあてた。
刹那は無意識の内に首を横に振る。
別にいやではない。進んでやりたいとは思わないが、追い出したいとも思わない。


「嫌ならとっくに追い出している」
「そう言ってくれちゃうから、可愛い後輩に甘えるんだけどさ…」
「遠慮を知らないのが先輩だから」


くすっと笑うと、ライルは目を瞬いた。
どうかしたか、と尋ねる前に手を取られて身体を引き寄せられる。


「…おい、悪酔いをするな」
「うーん。ちょっと試させて」
「はっ?何…を、」


立っていた状態からライルの方に身体を引かれて、唇を舐められる。
何を血迷っているのかと思い肩を叩いたが、酔っぱらいの力は強くて抜け出せなかった。

(なぜ、)

そのままキスされた。
刹那は酒の味に顔を顰め、すぐにライルを突き放す。


「何をしている!俺はお前の女ではない…!」
「…そうだな」
「ふざけているのか…?」


そんなつもりなら真剣に追い出そうかと考えていると、ふとライルは思案顔をする。
少なくとも表情はふざけていなかった。
刹那は困惑した。ふざけていなかったのなら、何故恋人にする行為をしたのか分からない。

(…代わりか?)

そもそも性別が違うのだから、務まらないと思う。


「…いやじゃなかったな。むしろ……そっか」
「先輩、どういう…」
「刹那がお気に入りから好きに格上げしただけ。それと、プライベートだしライルって呼んでくれ」


ますます意味が分からない。
会社の女は相手にしないのではなかったのか。そもそも刹那は女ではないが。
刹那は細かいことを気にするタイプではなかった。しかし性別の問題は別としても、失恋した後にすぐ恋愛が出来るライルに対して、不信感を抱く。


「先輩。いくらなんでも不誠実だろう。酔って誰かと混同しているだけ…」
「混同してない。まあ不誠実っていうのも分かるから、これからじっくり落としていくさ」
「せんぱ…」
「ライル」


ライルはあくまでも名前呼びに拘る。


「……ライル」
「うん、しっくりくるな。本気だってことは、これから証明していくから」
「本気…!?」


刹那が吃驚すると、ライルは笑顔で頷いた。
全くわけが分からない。
そのまま酒の力で瞼の下がるライルを見ている余裕はなかった。

(…何故、いやではないんだ…?)

ライルにキスされても好きと言われても、動揺しているがいやではない。

頭痛がしてきたので、明日になったら何もかも夢だったということを願いたかった。



お気に入り→好き



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刹那の先輩呼び(なのにタメ語)に激しく違和感(笑)というか、刹那は絶対に営業に向いていない。
リーマンを活かせていなくてすみません。私のことは設定クラッシャーと呼んでくださ…ry


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