夏(ライ刹) | ナノ




何故日本に来たのだろう。
答えはミッションだから、の一言なのだがミッションが終了したらさっさとトレミーに帰還したかった。
だが軌道エレベーターのチケットは数日後であり、アメリカに行くにも早すぎると言うことで一日日本に残ることとなった。
夏に日本に行くことは、自殺行為だ。こんな暑さの中炎天下にいたら、熱中症になる。
ライルは蒸したような暑さに苛々しながら、刹那の後ろを歩いた。
さっさとホテルに戻りたかったのに、どうやら行くところがあるらしい。


「どこに行くんだよ」
「公園」
「外かよ…暑くてたまらないだろ?」


ライルが文句を言うが、刹那は気にせずに早歩きで行ってしまう。
ライルは軽く舌打ち、刹那を追った。


刹那が連れてきた公園は緑が多く、影で涼めるところだった。
直接日の当たらないベンチに座ったところ、刹那がここで待っていろと言ったので、ライルはその通りにしていた。
影にいて直射日光には当たらないし先程よりも2〜3度体感温度は下がった気がする。
だが、暑いものは暑い。
どちらかと言うと寒い方に強いライルは、日本の夏は苦手だ…と心の中で呟き目を閉じた。
首筋を流れる汗を着ていたTシャツで拭う。しかし汗は止めどなく流れる。
そのうちに刹那が帰ってきた。


「どこ行ってたんだ?」
「飲み物を買いに」


刹那はそう言うと、ミネラルウォーターをライルに手渡す。
ライルは刹那の気遣いに驚いたが、少し小さな声で感謝の言葉を述べて口をつけた。

(生き返る…)

四分の一程飲んだところで、刹那が水をこの一本しか買ってきていないことに気付いた。
ライルはそのまま刹那に水を渡す。


「ほら、お前も飲めよ」
「ああ」


素直に飲み始めた刹那を見遣り、ライルはふと思ったことを口にした。


「間接キス、か」


間接なのだから、思春期は別として男でも女でも特に意識したことはなかった。
だから本当になんとなく呟いた言葉だった。
刹那も特に気にした様子はない。
彼は慌てることもなく恥ずかしがることもなく、淡々と思ったことを口に出した。


「直接でなければ、大したことはないだろう」
「ま、そうだな」


刹那の言葉に合わせ、ライルは刹那の手から水を取った。
少量口に含み、刹那の方を向いて水の持っていない方の腕を彼の首に回してから手を顎に添える。
刹那が怪訝に思う暇もなく、口づけた。
刹那が口を少し開けば、生温い水が流れ込んでくる。


「……まずい」
「最初に言うことがそれかよ」


平静を装っているように見えたが刹那の頬が暑さではない紅に染まっているのを見て、ライルはほくそ笑む。
刹那は逆にしかめっ面をする。
二人は周りにいた人が嫌悪より前に当惑する様子を見て、来た早々だが立ち去ることに決めた。
ライルは刹那の手を引き、目的地となったホテルを目指し再び炎天下の中を歩き始めた。


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