02:掛かる時間はそれぞれバラバラ | ナノ




02:掛かる時間はそれぞれバラバラ


(遅い)

刹那は苛々としていた。
昨夜部屋に分かれる前に朝8時に宿のロビーに集合をかけた筈だ。
久し振りに皆個室だったので、準備に時間がかかっているのだろう。
刹那は準備を前日の夜にするタイプだった。髪や顔を気にすることもないので朝の準備に時間はかからない。
自分中心に考えず、相手のことを考慮している。マリナのことしか考えていなかった村にいた時と比べて、成長したのかもしれない。
それでも、もう一時間は経っている。
刹那の顔が般若のようになっていくのを見て、勇者の剣の守護霊ニールは必死で宥めた。


『刹那。あいつらももう少ししたら来ると思うから…な?』
「もう一時間待った」
『そ、そうだな…あ、』
「よー刹那。朝早いなー」
「…火炎斬り!」


堪忍袋の緒が切れ、刹那は宿の中で勇者の剣を取り出し火炎斬りをした。
軽く挨拶していつものセクハラしようとしたライルは、すんでのところで避けた。
宿屋の人が慌てていたが、建物に火はついていないので安堵の溜息を吐く。逆らえる筈などない。


「な、何するんだ!」
「俺は8時に集合だと言った。今9時だ。遅くなった理由を簡潔に言え」


目の据わっている刹那に、ライルはそう言えばそんなことを言っていたなと思っていた。


「いやー、刹那に逢うのにきちんとしないとって思ったからかな?」
「昨夜寝惚けて部屋に忍び込んできた男が何を言う?」


正確には夜這いしに行ったのだが、返り討ちにした刹那にはどうでもいいことであった。
ライルはこれ以上怒らせてはいけないと笑って誤魔化す。


「ははは…悪かったよ。…けど、皆は?」
「まだ来ていない」


むすっと答えた刹那に、ライルはにやりと笑う。
刹那の側で見ていたニールは、弟がしょうもないことを考えているのが手に取るように分かり、刹那に危険サインを出した。
ニールのサインに気付き、刹那はライルに訝しげな表情を浮かべる。


「…何を企んでいる?」
「別に?アレルヤとティエリアが来るのを待とうぜ?」


さりげなく刹那の隣に座るライルに、ニールは逃げろと刹那に訴える。
しかし刹那は逃げるという行為が一番嫌いだった。
親切で刹那の処女(笑)を心配するニールを無視し、隣に座るライルを見上げる。
ライルは馴れ馴れしく刹那の肩を抱き、顔を近づけた。
何をされるのか瞬時に分かった刹那は暴れるが、両手は胸辺りで一纏めにライルに戒められていた。


「ライル…っ!」
「目、閉じて」


(誰が閉じるか!)

ゆっくりと唇を重ねられそうになる。
その瞬間近くでパシャパシャとシャッター音が聞こえた。
刹那とライルはシャッター音のする横に振り向くと、ティエリアがデジカメで2人の写真を撮っていた。


「何だ、キスしないのか」
「…ティエリア」
「見られるのはいいけど、さすがに写真撮られるのはなー」


遅れてきて謝罪のないティエリアと何故か照れた言い方のライルに、刹那はぶち切れた。
ライルの鳩尾を突き、2人に向かって再び火炎斬りをした。
悲鳴を上げたのは宿屋の主だ。2人は軽々と避ける。
しつこく言うが、すんでのところで火事にはならなかった。


「お前たち…!!」
「どうした刹那。今日は怒りっぽくないか?」
「アレの日前だからな」


セクハラ発言のライルを問答無用で殴る。
ニールはライルがノックダウンしたことに悲鳴を上げて慌てるが、刹那はあくまで正当防衛と言い張ろうと思っていた。


「ティエリア。俺は今日8時にロビーに集合だと言った筈だが」
「…そうだったか?済まない、覚えていなかった。今日は寝癖が酷くて大変だったんだ」


あっさりと謝ったので、刹那はそれ以上言う気にならなかった。
それに髪を留めるピンがないのかティエリアの頭にはクリップがたくさんついている。おそらく寝癖を直すためのものだろう。
刹那は何だか怒る気力が失せた。


「…今度から気をつけてくれ」
「了解した」
「…あとは、アレルヤだけか…」


あと一人なので呼びに行った方が早いのかもしれない。
しかし刹那はアレルヤを呼びに行きたくなかった。ライルと一緒の部屋になるのと同じぐらいいやだと思った。

(いっそのこと捨てていこうか…)

そうしたら泣いて追いかけてくるだろう。だが、放置にも快感を覚えるらしく、結局悦ばせてしまう。
アレルヤを悦ばせるなんて冗談ではなかった。


「…ライル」
『お前が気絶させたから、起きねーよ!』
「気合いで起こせ。ティエリア、氷の呪文を」
「?…ヒャド」


とんだ鬼たちである。(BYニール)
ニールはライルの扱いの悪さにしくしく泣いていた。
しかし刹那は気にせずティエリアの呪文によって出来た氷を首に置いた。
ライルは冷たさに飛び起きる。


「うおっ!つめてっ、何するんだ!」
「ライル、仕事だ」
「何?刹那からチューしてくれるなら考えるけど」
「……ティエリア」
「僕はいやだ」


ティエリアは刹那の頼みたいことが分かったらしく、即断る。
刹那は、自分がアレルヤのところに行くのが本気でいやだった。以前…ティエリアとライルがまだ仲間ではなかった頃、あのどMに寝惚けて調教するよう脅された(頼まれた)のが、トラウマだったりする。
刹那はアレルヤを調教するのとライルにキスするのとを天秤にかけて、苦渋の判断を下した。


「分かった。無事任務が遂行された場合、キスぐらいしてやる」
「本当か!?」
「ああ」
「その時は僕も呼べ。撮影したい」
「誰が呼ぶか」


ティエリアの野次馬精神に刹那は顔を顰めたが、反対にライルは上機嫌になった。
スキップしそうな勢いで、アレルヤの部屋まで行く。
刹那とティエリアは閉まった後ドアの外で聞き耳を立てていた。
だが、すぐにライルはアレルヤの部屋から出てくる。


「どうした」
「わりい、失敗だ。さっさと逃げるぞ」
「え…?」


ティエリアたちが振り返った時、ぬらりと部屋から男が出てくる。
前髪でよく見えないがそこから覗く顔を見れば、寝起きで目が据わっている。
いやな予感がして、ライルを始め男から離れて行こうとしていた。


「…ライル、てめえ…気持ちよく眠ってる俺様をなあ!蹴飛ばすとは何事だこらあ!」
「ははは…気持ち良さそうだったんで、ちょっと意地悪しただけだろ」
「ぶっ殺す!」


ハレルヤが今にもライルをターゲットとし、襲いかかろうとした瞬間にティエリアがもう一つの人格だと気付いた。
因みに他2人はとっくに分かっていたのだが。
ティエリアは少し反応が遅かった。


「ハレルヤか?」
「…ティエリア?」


目の据わったハレルヤがティエリアの姿を確認すると、先程までの悪人面が普通に戻る。
その内、ハレルヤの顔が真っ青になる。


「どうした、ハレルヤ…真っ青だぞ」
「…だ、大丈夫だ。…お前には謝りたくてな。いつも…アレルヤが悪いな」


いつもモンスター相手に破壊を繰り返し、時にはダンジョンまでも破壊する破壊魔がしおらしくティエリアに謝罪をする姿を見て、刹那たちは夢を見ているのかと思った。
ライルはすぐに我に帰り、にやにやとティエリアとハレルヤを見る。
もちろん刹那の肩に腕を回してだ。すぐに叩き落とされたが。


「いや…君が悪いわけではないだろう。大丈夫だ」
「そうか…良かった」

「なーんかむず痒いな」
「尻を触るな」
「えーあいつらも良い雰囲気だから良いじゃん」
「関係ないだろう……まあ、このまま済むとは思えないが」


刹那の言った通り、やはりこのままでは済まなかった。


「ハレルヤはアレルヤと違っていい奴だな。アレルヤは昨日僕の部屋に来て「縄で縛って蝋燭を垂らしてください」と言ってきた。何であんな変態なのか…」
「…はあはあ…縄に蝋燭は、僕に必要なアイテムだからね…?」


ハレルヤからアレルヤに変わっているのに気付き、ティエリアは一気に後ろに下がる。
ティエリアの顔は引き攣っていた。


「あ、アレルヤ…」
「おはよう、ティエリア。昨日の緊縛プレイは凄かったね…!今日も…お願いしていいかなあ…ww」
「してないしいやだあぁぁ!」


ティエリアは涙目で覚えている中の最強呪文を放った。
その後全壊した宿屋を直し、暫く旅の足止めをくらったのは言うまでもない。






「緊縛プレイか…刹那、俺らもやろうぜ」
「お前が縛られるならな」
「どっちかって言うと縛りたいけど…あ、なあチューは?俺頑張っただろ?」
「任務を成功していない」
「えー!」



『刹那、チューを赦したらつけ上がるから駄目だぞ。ついでに弟を日のあたる道に何とか戻してやってくれ』
「無理だ」
『だよなあ…あいつ何でガチホモになったんだよー!』


ニールの叫びが辺りに響いた。
聞こえたのは、刹那とハロだけだった。


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