すれ違う人たち | ナノ


210要素が少しあります。

※フリオニール&ティーダver


「あれ…」


ティーダは少し遠くで薪を割っているクラウドと夜食の用意に取り掛かっているセシルを見て、呟いた。
その隣でテントを張っていたフリオニールが、ティーダの方へと振り向き首を傾げる。


「どうした?」
「…いや、うん…何でもない…」


珍しくはっきりしない言い方に、フリオニールは知らないうちに眉根を寄せる。
うっかりフリオニールの表情の変化を見てしまったティーダは少しうろたえる様子で、顎に手を当てながらぼそぼそと喋った。


「…セシルとクラウドが………」
「?あの二人がどうかしたのか?」
「……何か、ぎこちなくないッスか…?」


自信がないのかティーダは少し思案するような形でフリオニールに問い掛けた。
フリオニールは視線をティーダからセシルとクラウドの方へと向ける。
いつものように口数の少ないクラウドと気を使いながら話すセシルの姿が見える。
おかしいところは何もない…とフリオニールには感じた。


「…そうか?」
「フリオニールに言ったオレが馬鹿だったッス」
「……」


いつもにはない辛辣な言葉にフリオニールは一瞬言葉を無くした。
さすがに言いすぎたと思ったティーダが小さく謝る。


「…わりい。けど、フリオニールってそういうとこ鈍いし」
「……悪かったな」
「あ、違う…えっと、喧嘩したなら仲直りしてほしいし…皆仲良くいたいって思ってるから」
「そうだな」
「ってフリオニールに言ってもどうしようもないかあ。本人たちに…」


再びティーダが厭味を言ってきたので、フリオニールはティーダの言葉を最後まで聞かずに負けじと厭味を返した。


「ティーダが親父さんと仲良く出来たら、二人も仲良くなれるんじゃないか?」
「……」


ティーダの表情がみるみる内に曇る。

(やばい、言いすぎたかも…)

フリオニールは自分があまり深くつっこんではいけないキーワードを言ってしまったことを後悔し、謝ろうとした時…


「け、喧嘩するほど…仲が良いッス。う、うん…そう、だ…」
「……俺が悪かった。嫌そうな顔して言うなよ」


傍から見たら喧嘩するほど仲がいい、なのだが、ティーダは実際にそうは思っていないだろう。
フリオニールは後ろ頭を掻きながら、一番気を使わなければならない相手なのかもしれないと思い始めていた。
それと同時にティーダだからこそ何でも言ってしまう自分がいることに気がつく。
フリオニールの謝罪にティーダは首を横に振り、テントを張る手伝いをし始めた。


「オレ、フリオのこと誤解してたかも」
「ん?」
「案外、子どもっぽい」


ティーダのきょとんとしている顔を見れば悪気がないことは分かっている。
しかし、子どもっぽいと言われて喜ぶ男がいるだろうか。女も喜ばないだろう。
フリオニールはティーダの鼻を抓んだ。


「いだっ!!」
「さっきは俺が悪いが、今はティーダが悪い」
「何でだよ!オレ、本当のこと…あだだっ、関節技決めるなあ!」


テントを張ることそっちのけでティーダとフリオニールは傍から見ればじゃれあい、最後にはセシルに叱られた。
二人が互いを意識するのは、まだまだ遠いようである。






※セシル&クラウドver

セシルは今までにない程落ち込んでいた。
理由は単純である。兄のところへ行く決心をするために、年若いティーダに励まされフリオニールに叱咤された自分を歯がゆく思っているからである。
本当ならば彼らを元気づける役目である筈なのに、逆に自分が励まされてしまった。しかも嬉しかった。
だからセシルはティーダとフリオニールに謝罪をしなければならないと感じていた。
しかし、まだ実行出来ていない。

(ただ一言ごめん、ありがとうって言うだけなのに、僕は何日かかっているんだ…)

セシルは自己嫌悪に陥りながら夜食の準備をしていた。
そこに薪を割ってきたクラウドが帰ってくる。
顔の汗を腕で拭い、火を起こしながらセシルに話し掛けた。


「…悩み事か?」
「え…?」
「数日前からそんな顔をしている」


無表情のままさりげなく言うクラウドにセシルは驚きを隠せなかった。
クラウドはかなりの繊細な心の持ち主なのか、よく一人で悩み誰にも相談せずに追い込まれて自滅してしまうタイプだろう。
そんなクラウドにセシルも含めみんな少しは弱音を吐いてくれてもいいのに、と少なからず思っていた。
だから周りの人間の態度や感情が見えているとセシルは思わなかった。
失礼だと思いながらも戸惑いを隠せない。
驚く以外の反応のないセシルにクラウドは顔を顰める。


「調子が悪いのか?」
「いや…元気だよ?」
「そうか」


しーん。
この厭な空気をなんとかしてほしい。いっそ空気が読めなかったらいいのに…と願ってしまうぐらいに。
セシルは思わず少し遠くにいるティーダとフリオニールを見るが、乳繰りあっているようで非常に腹が立った。


「…セシル」
「あ、うん。どうしたの?」
「今日のお前のシチュー、楽しみにしている」


それだけ言うと、クラウドは水を汲みに行ってしまった。
セシルはぽかんとしていたが、やがて自分が褒められたこと、おそらく元気づけてくれたことが分かった。
セシルのレパートリーは少ないが、唯一失敗しないのがシチューである。
どうやらクラウドはシチューが好きらしい。今日はシチューの予定ではなかったのだが。
今まで見たことのないクラウドの一面…どころか三面ぐらい見た気がして、セシルはなんとなく嬉しく感じた。
同時にクラウドの素直さを見習えば、今日こそティーダとフリオニールにありがとうと言えるかもしれないと思った。


「…あんな風に、さりげなく感謝の気持ちを伝えたらいいのかな」


セシルはプロレスごっこを始めているティーダたちのところに行き、早速実行しようと決めた。


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