夜明けまで話をしようよ | ナノ




眠れない。
オニオンナイトは、冴えてしまった目を擦りながらゆっくりと起き上がった。
同じテントにいるセシルとライトは最近の疲れからか熟睡している。
この人たちを起こしてはいけない、とオニオンナイトはそっと布団を跳ね除けて武器を持ちテントの外に出た。



夜明けまで話をしようよ



テントから出ると、ぱちぱちと火を焚いている音がした。
少し離れたところで見張りをしているのが二人いる。スコールとジタンだった。
外套を羽織り、マグカップに温かい飲み物を注いでいる。
彼らに何か言ってから、外を出歩いた方がいいのかもしれない。
オニオンナイトが一歩踏み出すと、地面を踏んだ音でスコールが振り返った。


「…どうした?」


スコールがオニオンナイトに声を掛けると、マグカップで暖をとっているジタンがスコールの横からひょこっと顔を出した。


「あれ?玉葱じゃん…まだ交代の時間じゃないよな?」
「うん…少し散歩してくる」


オニオンナイトがジタンの自分への呼び方を訂正せず自分の剣を握り、踵を返そうとした時。
ジタンが先回りをして、オニオンナイトの肩を掴んで焚火の方まで無理矢理連れていった。(といっても数歩なんだけど)


「ちょ、何するんだ!」
「しー、な?皆が起きちゃうだろ?」
「……」


オニオンナイトは頬を膨らめて渋々ジタンの隣に腰掛けた。
スコールが自分に掛けてあった外套をオニオンナイトに掛ける。
いくらスコールがこの中のメンバー内では厚着の方とはいえ、夜はとても寒い。
オニオンナイトはせっかくだが、返そうとした。


「駄目だよ。スコールが風邪をひくよ」
「お前の方が風邪をひくだろう」
「でも…!」
「…あー、オレの分スコールにやるよ。テントから持ってくるからさ」


ジタンはスコールに外套を被せ、二人の意見を聞かずに行ってしまった。
必然的にオニオンナイトはスコールと二人になる。
オニオンナイトはなんとなくスコールに苦手意識を持っていた。彼はティーダと同い年であるのに、酷く大人に見えた。
それが自分の劣等感を刺激している。それだけは分かる。
気まずさからか、オニオンナイトは外套をたぐし寄せるようにして、ちらりとスコールの表情を窺った。
彼はこちらを見ずに、焚火の方を見つめている。


「…眠れなかったのか」
「え…?…まあ、うん」


他に理由が思い浮かばないので、オニオンナイトは素直に頷いた。
スコールは少しトーンを低くする。


「だが、出歩きたいと言うな。一人でこの暗闇の中を徘徊すれば、イミテーション…カオスの連中の餌食になる」


側に置いてあった薬缶からマグカップに温かい飲み物を注いだスコールは、オニオンナイトにそれを手渡した。


「ホットミルクだ」
「…これは、子ども扱い?」
「いや。俺もジタンもこれを飲んだ」


そう言えばそうだった。
『子ども扱い』に過敏になりすぎたオニオンナイトは、小さく謝罪の言葉を口にしてマグカップに口をつけた。
温かい。外套があってもやはり寒かったが、ホットミルクのおかげで心身共に温かくなるような気がした。


「おいしい…」
「ジタン特製らしい」
「ジタンは器用だよね」


オニオンナイトはそう言って、眠れなかった理由である寂しさが溢れだした。
大人でありたいのに、時折寂しさを感じてしまう自分に嫌悪する。
決して皆のせいではない。むしろひねくれている自分に対して、皆は突き放さずに接してくれている。
皆優しいのに。ティナも愛情を注いでくれるのに。
何が寂しいのか、オニオンナイトにはよく分からなかった。
ただ、溢れ出る寂しいという感情が、心から目に伝わり涙腺を刺激したようだった。
気付けばぼろぼろと涙を溢していた。

(何で泣いてるんだろう…)

自分以上に慌てたのが、いつもは冷静なスコールだった。


「どうした?俺が何かしたか?」
「ううん…ごめん、何かよく分からない…」


ぐずりながら言い、目を擦っているオニオンナイトには立ちあがってあたふたしているスコールの姿は見えていなかった。
あーとかうーとか唸っているスコールだったが、すぐにジタンが帰ってきて何事か?と首を傾げる。
オニオンナイトが涙を流しているのを見た後、ジタンはじろりとスコールを睨みつけた。


「スコール、お前が泣かせたのか?」
「やはり…俺の、せいか…」
「ち、違うよ!それは違う…」


オニオンナイトは慌てて両手を顔の前で振った。
その時に心配そうにこちらを除くジタンとスコールの表情を見て、何で寂しさを感じたのだろうと思った。
仲間であり、こんなに心配してくれる人がいるのに。
そう思っているのに涙が止まらない。
葛藤しているオニオンナイトの涙で濡れた顔を見て、ジタンはふっと笑みを溢した。
それは嘲るわけでもなく、馬鹿にするでもない。


「…お前、気張りすぎちゃってるかもな」
「な、に…?」


ジタンはオニオンナイトの頭を少し乱暴にがしがしと撫でる。


「力を抜くところは抜けってこと。無意識にティナの騎士やってて大変なのは分かるし、気を抜けない戦いだってのもそうだけどさ」
「……」
「無理するとその分他の部分で弱さが出るんだ。自分と向き合うのも大事だぜ?」


ジタンは自分とそんなに歳が変わらないのに、酷く大人っぽい科白を口にする。
でも、実際に彼の言う通りだと思った。
寂しいのは、自分を偽るように無理に無理を重ねたから出てきたものだと思った。
そこに、大人な自分を求めていた。
限界が来るのは当然である。
オニオンナイトは右腕で目を擦り、何とか笑顔を作ってお礼を言った。


「…二人とも、ありがとう」
「玉葱が自分からお礼を言うなんてな」
「…もう、ジタンには言わない」


頬に流れた涙を腕で拭い、オニオンナイトはぷいっと横を向いた。
スコールはほっと表情を崩し、ジタンはにやにやと笑っている。
そうだ、とジタンが手を打った。


「お前は普段生意気であんまり自分のこと話さないし、スコールは無口でやっぱり話さないし、これを期にお互いの話をしようぜ」
「お互いのこと?」
「そ。名前だけじゃなくてさ。例えば皆の第一印象とか、そんなところ」


ジタンの提案にスコールは眉根を寄せたが、オニオンナイトは少し話をしたいと思った。
もっと仲間のことを知りたい。そんな感情が今度は溢れだす。


「じゃあ、言いだしたジタンからお願いするよ」
「お、やる気だな?…そうだな………」


ジタンが話をし始めていくうちに、先程泣いたせいか眠くなって意識が薄れていった。
起きた時にはもう、寂しいとは思っていなかった。



※おまけ

ジタ「…寝ちゃってるな」
スコ「ああ」
ジタ「こんなところで寝たら風邪をひくよな?」
ライト「…私が引き取ろう」
ジタ「ライト」
スコ「いたのか」
ライト「ああ。起きていく音が聞こえてな。セシルも中で待ってる」
ジタ「眠りを妨げて悪かったな」
ライト「いや。構わない。彼も言動が大人びているが、年相応の部分があるということだ」


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