風に乗せて | ナノ




温い風が顔に当たる。
バッツは、目を閉じてその風を感じようとしていた。
しかし目を閉じたところで自分の居場所が変わったわけではない。
考えないようにしようとしても、風を感じて今の状況を忘れようという作戦は無謀であり無駄だった。


「無理だああああ!たけええええ!」


バッツ・クラウザー、20歳。高所恐怖症である。
バッツの今いる場所は、城の屋根の上だった。
ジタンと調子に乗ってバトルしていたら、いつの間にか屋根の上にいた。
ジタンに助けてもらおうと思っていたが、あいにく彼の兄が乱入してきて、頭にきたジタンが違う場所へとつれて行ってしまった。
せめて降ろしていってくれれば…とバッツは恨みがましく思っていた。

(どうする、おれ…また落ちたら……?また?)

この世界に来てから曖昧になっている記憶が、一瞬だけ蘇りそうだった。
しかし急激な頭痛に耐えられず、そこでストップしてしまう。

(何だ…?前にもこんなことがあったのか…?)

バッツが無意識のうちに足を上げると、バランスを崩した。
そのままふんばることなど出来ずに、身体を屋根に打ち付けて落下していく。

(やばい、とりあえず…受け身ぐらいは…!)

既に屋根に肩を打って痛かったが、このまま落ちればただでは済まないだろう。
身体を丸めて衝撃に耐えようとした時だった。


「バッツ!!」
「ティナ!?」
「…荒ぶる風たちよ!」


秩序の仲間の、唯一の少女であるティナの声が聞こえたかと思うと、周りの空気が変わった。
バッツの周りに風が集まり、そのまま勢いがついて竜巻になる。
バッツは何が起こるのか理解する前に、竜巻に巻き込まれた。


「うわあああああ!!!」


城の屋根より上に放られて、バッツは白目を向いた。
そのまま地上に叩きつけられるのかと思いきや、風の力で浮いていた。
目を開けると、ティナのほっとした顔が見える。

(助かった…)

バッツが安堵したのも束の間、自分の状態にだらだらと冷汗が流れる。
風の力を借りているおかげか、軽々とティナに抱えられているのだ。
しかも、これは俗に言うお姫様抱っこではないだろうか。それも普通は反対ではないだろうか。
バッツは頭を打って記憶を消したくなった。


「ティ、ティナ…ありがとな、もう大丈夫だから…」


なんだか自分が情けなくて、声が萎んでいく。
ティナはきょとんとしていたが、言葉の意味を理解してバッツの身体を離した。


「びっくりしたのよ…バッツを探しにきたら、落ちているところだったもの」
「あーうん。ジタンとバトルしてたらな……屋根の上にいて、足を踏み外したんだ」
「そうなの?そう言えば、ジタンは見当たらなかったけれど…」
「…まあな」


そりゃそうだ。ジタンはクジャとどこかに行ってしまったのだから。
バッツはティナに自分の弱点を言うべきか迷った。先程もみっともないところを見せてしまったのだ。
格好いいところを見せていたいと思うのは、自然な気持ちだろう。
唸りながら悩んでいると、ティナが下から見つめてくる。
心配そうな表情だったので、言うしかないなと覚悟を決めた。


「…おれさ、高所恐怖症なんだ」
「…高いところが、苦手?」
「そ。昔なんかあったから苦手になったと思うんだが…」
「……」


バッツが昔の記憶のことで言葉を濁すと、ティナはより深刻そうな顔をした。
感受性の強い彼女のことだ。曖昧な上自分の過去を話したことはなかったが、まるで自分のことのように感じているのかもしれない。
やはり話すべきではなかった、とバッツは考えていると、ティナの手が自分の手に触れる。
そのまま彼女の両手に包まれた。


「…ティナ?」
「嬉しい…のかな…?バッツが怖い思いしたのに、こんなことを思うのは、不謹慎だけれど」
「嬉しい?」


ティナはふっと頬を緩める。
どうやら深刻な表情は、嬉しい表情を見せてはならないという彼女の自制から成り立っていたらしい。


「そう…バッツは、あまり自分のことを話さないから」
「あんまり覚えてないしな」
「うん…だけど、時々…手を離したら、どこかに行ってしまいそうで」


そう言ってティナはバッツの手をぎゅっと握る。

(不安にさせたんだ…)

バッツは空いている腕でティナの身体を引き寄せた。


「バッツ…?」
「…ごめんな。不安にさせたんだろ?」


ティナの耳元に唇を寄せて、バッツは呟く。
ティナは耳にかかる吐息に肩を震わせたが、バッツは離そうとはしなかった。


「ち、違うの…私が勝手に…」
「そういうことにしとけよ…おれが嬉しいから」
「バッツも…嬉しいなら、それでいいかな?」
「ティナが、おれが気にしているようにおれのことを気にかけてくれてるからな」


バッツの言葉にティナはふんわりと微笑み、頷いた。




以下、背後の人たち

スコ「………(バッツが高いところが苦手だとジタンに言われて来てみたが、邪魔のようだ。帰ろう)」
ジタ「スコール!おまたせ…悪かったな…ってあれ、バッツとティナ…?」
スコ「どうやら俺たちは邪魔らしい。帰るぞ」
ジタ「あーそうだな。…でもあいつら、多分あれで終わりだ。2人とも疎いからさ」


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