担ぎあげる | ナノ



(…力が、怖い…)

ティナは一人仲間の元を離れて泉のあるところに足を運んだ。
水辺の近くの芝生に座り、両手でそれを掬う。
透き通る水の中に自分の姿を見つけて、ティナは何故か恐怖に襲われた。

(進まなきゃいけないのに、私…また、あの子やクラウドにしたように…みんなを…)

考えるだけで足が竦む。
ティナはさっさとここから立ち去ろうと立ち上がった。
そのまま踵を返そうとすると、誰かの息遣いが聞こえてくる。

(…誰?こちらに向かってくるの…?)

仲間だったらいい。しかし、カオスだったら…
気配を消さずに来ることはないと思ったが、ティナは念のために魔力を溜めて迎え撃つつもりで構えた。
森を抜けて泉まで来たのは、バッツだった。
走ってきて息が乱れている。
ここに用があったのかと聞こうと思った時に、強く腕を引かれた。


「いっ…バッツ?」
「…何で一人で行動した!?」


荒い息を吐きながら、バッツは怒鳴った。
まさかいきなり怒鳴られると思わなかったティナは、目を丸くした。


「えっ、あの……」
「危ないだろ!せめて誰かに声をかけてけよ!」


バッツにそう言われてティナは誰にも言わずに出歩いてしまったことを思い出した。
普段、みんなを盛り上げたりさりげなくフォローする側に回っているバッツが怒るところを見たことのないティナは、まず謝らねばいけないことにやっと気付いた。


「ご、ごめんなさい…」
「…おれに言うことじゃない。で、こんなところで何をやってたんだ?」
「……えっと、私…」


何をしに来たかと言えば、一人になりたかったんだと思う。
しかし、それをバッツに言ってしまっていいのかティナは困惑した。
俯いて口ごもってしまったティナに、バッツは今しがた怒鳴ったことが原因かと思い、どうしたらいいかと後ろ頭を掻く。
少し強く掴んでいたティナの腕を離し、バッツは俯いてしまったティナの顔を下から覗きこんだ。
視線が絡み合うと、バッツはもう怒ってないことを示し、安心させるように表情を和らげた。


「一人になりたかった、って顔してるな」
「…!何で…?」
「何となくだけど…そうだった?」


顔をあげたティナに、バッツは問いかける。
ティナは逡巡した後、こくりと頷いた。
一人で出歩くきっかけだったのでまた怒られるかなと思ったが、バッツは怒らなかった。
かわりに彼は諭すように話す。


「そっか…けど心配するから、おれでも誰でもいいから一言声かけてってくれよ」
「うん…でも、一人はだめでしょう?」
「うーん…あいつら心配症だしな。あ、おれも含めてか」
「……ごめんなさい」
「よし!じゃあ、おれにしとけよ」


バッツはにっと笑った。


「その時はついていくと思うけど、見て見ぬふりするからさ」
「バッツ?」

(あなたは…何を知っているの…?)

「けどさ…その後は、こうやって…」


バッツは最後まで言う前に、ティナの身体を軽々と抱きあげた。
抱きあげられた方のティナは、吃驚してバランスを崩しそうになりバッツの首にしがみつく。
バッツは声を出して笑った。


「な、何するの?」
「こうやってあやすよ」
「私…子どもじゃないのに?」
「そうだな。けど、ティナは女の子だろ?女の子に優しく、は世界共通なんだぜ?」
「そうなの?」
「そうなの」


ティナの問いにバッツが答える。
知らなかった…と呟く彼女に、バッツは歯を出して笑った。


「ティナ軽いなー、ちゃんと食べなきゃだめだぞー」
「食べてるわ、もう!」


バッツがきちんと抱えるために揺さぶると、ティナは無意識に抱きついた腕に少し力を込めた。
ティナはくすくすと笑ってバッツの額に自分のものをあてる。


「ありがとう。慰めてくれてるのね」
「俺がやりたいからやってるだけな?」
「あら、そうなの?」


バッツとティナは顔を見合わせてぷっと吹き出した。
ゆっくりと地面に身体を降ろされたティナは、泉の方を一度振り返る。


「…本当にありがとう、バッツ」
「みんなのところに帰れるか?」


笑顔を引っ込めて心配そうに呟くバッツに、ティナは彼の方に視線を合わせて微笑んだ。


「ええ。行きましょう」
「じゃあ手を繋いで帰るか」


思ったよりも大きなバッツの手に覆われ、ティナは驚いた。
バッツはどうした?と止まって声をかけてくれる。
ティナは首を振り、バッツの手をそっと握り返した。
その後心配したオニオンナイトに、バッツが問い詰められたのは言うまでもない。




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