照れ隠し | ナノ
「フリオニール」
「ティナ、どうかしたか?」
野宿に決まった後、料理担当となったフリオニールに同じく料理担当のティナが声をかけた。
いつも憂いを帯びた表情をしている彼女が、珍しく笑顔を見せてくれている。
そのことが、フリオニールにとって素直に嬉しいと感じた。
「えっと…今ジャガイモをむいているけど…今日は何を作るの?」
「カレーだよ」
「私好きよ、カレー」
ジャガイモを慣れない手つきでむきながら、ティナは微笑んだ。
なんだか心温まる気がする。
フリーニールもティナにつられて微笑んだ。
「ティナ、それがむけたら鍋の中の水につけておいて」
「うん」
ティナが鍋を見に行った後、フリオニールのところに薪収集をしてきたティーダがにやにやと笑いながら寄ってきた。
「へえ、ティナには普通に会話できたッスね」
「ティ、ティーダ!」
いつから見ていたのか。
ティーダがからかっていることはすぐに分かった。かなりの間一緒にいたのだ。
人を野ばらとか童貞とか…勝手なあだ名をつけては呼んでくるので、それに便乗するバッツやジタンと一緒で厄介である。
「別に…話をするだけだし!」
「ふーん?」
「…ティーダ、からかうのは…」
いい加減にしろ、とフリオニールが言おうとすると、ティーダが肩を掴んで顔を寄せてきた。
えっと思った時にはもう口を塞がれていた。
フリオニールはこんなところでティーダにキスをされると思っていなかったので、事態についていけずに口をぱくぱくとさせた。
「な、何を…!」
「少し…妬けたッス」
「…ティーダ」
「じゃあ行くッス!オレまだ仕事もあるし!」
ティーダはにっと笑って、薪を担いで薪を割っているクラウドたちのところへと行ってしまった。
フリオニールは手を伸ばしたがティーダに届かず、空気を裂くことしか出来ない。
どうにも出来ない手を引っ込めて、フリオニールは盛大な溜息を吐く。
その時にフリオニールの背後から、きししと笑う声が聞こえた。
もしかして先程のキスを見られたのだろうか。
ティナの時といい、タイミングが良すぎてフリオニールは困惑した。
「みーちゃった」
「…バッツ」
やはり見られていた。
途端羞恥に顔が赤くなるのが自分でも分かった。
全部見られていたのなら、誤魔化せる筈もない。
「お前ら出来てたのなー?知らなかったぜ」
「…うるさい」
「照れなくてもいいじゃん?」
バッツは肘でフリオニールを突く。
「ま、隠してるなら言わないからよ」
「…ありがとう」
「どういたしまして?」
バッツはそのまま人参に手をつけ始めたティナのところに行ってしまった。
ただからかいたいだけかと思えば、突然ティナを背後から抱き締めるので、思わず噴いてしまう。
止めようかと思ったが、ティナはいやがっておらずむしろ嬉しそうに笑っていたので、フリオニールはやめておいた。
もしかしたらバッツとティナは自分たちと同じ関係なのかもしれない。
(…あとで俺も追いかけよう)
きっと照れて早足で逃げ出してしまったティーダの元へ。