God be with you,and How do you do?5 | ナノ



(…熱い、…?でも、痛くない…)

ティナはゆっくりと目を開いた。
目の前にあるのは、茶色の短い髪と抉られた肩だった。隙間からはケフカの姿も見えない。
アルテマを放たれた後、ライトが機転をきかせてケフカと戦っていることを、ティナは知らなかった。
熱い、と思ったのは自分を抱き締ている男の体温だった。
ティナは血の止まらない肩を見て、やっと自分が庇われたことを知った。
怪我に触れないように、背中に腕を回す。
指先で背中に触れると、人間の体温よりも熱く、布と皮膚の感触がした。
バッツは呻き、ティナの身体に倒れた。

(え…?)

バッツの呻き声に、ティナはあやつりの輪をつけられていた時のことを思い出した。
あやつりの輪に縛られながら、本当の自分は何を思っていたのかも、全て、全て。




「バッツ・クラウザーだ。よろしくな!」

(彼の、名前…?)

「…くそっ、ティナ!」

(そうだ…私が、ケフカに……)

「…お前の、思う通りにすればいいのか?」

(私の…せい、で…あなたが…)

「おれも行く。ティナの騎士、だからさ」

(それなのに、あなたは……私を気にしてくれて、)

「はっ…ははは…はははは…」

(…苦しんで、いたのに…)

「気にしてないさ」
「大丈夫だって」
「ありがとな」


(ずっと…側に、いてくれたのに…!!)




身体が震える。声にならないものが口を開いて出る。
視線はまっすぐから、倒れたバッツの背中に行った。
マントや服はほとんど焼かれ、背中が焼け爛れている。
ティナは、自分を庇ってバッツがケフカの魔法を生身で受けたと、頭で分かるのに時間がかかった。


「…バッ、ツ…?」


ティナが言葉に出来たのは、倒れた男の名前だけだった。
男の反応はない。
バッツはティナの身体からずり落ち、横に倒れた。
ティナはパニックに陥った。


「バッツ、バッツ!」
「……」
「うそ…!返事をして、バッツ!」


ティナはすぐさまケアルをかけた。
何度も試みるが、やがてバッツの身体から光の粒が溢れ出る。コスモス側の、死を意味する光だった。
状況を見ているしか出来なかったスコールは、バッツの状態を見て彼の死期を悟った。
それでも信じたくなくて、叫んだ。


「バッツ!」
「いや、いやよ…お願い、お願い!!」


ティナは頬から流れる涙をそのままに、必死に回復魔法を唱えた。
しかし、バッツの身体は淡い光を放ちながら足から消えていく。
スコールも駆け寄り、持っていたポーションを垂らした。
それでも、バッツが消えていくのを止めることは出来なかった。


「消えないで!バッツ!」
「しっかりしろ!」


バッツは二人の呼びかけに、ゆっくりと目を開けた。
瞼は半分しか開かなかったが、薄れている視界の中必死な形相になっているスコールと涙でぐちゃぐちゃになったティナの顔を見て、安堵した。

(…守れた、のか…?)

バッツは自分が今度こそ助からないことを、本能で悟っていた。
涙の溢れた少女の瞳に光があり、バッツは心底喜んだ。


「…ティ、ナ……」
「喋っちゃだめ!」
「…い…い、んだ……も、…おれ…は、」
「絶対だめ!私が助ける、助けるから!!」


ティナが首を横に振り、バッツの顔に涙のしずくが飛んできた。
熱い涙だとバッツは思った。まだ、感覚はやられていない。

(まだ、生きている)

伝えたいことは山ほどあった。
それを簡潔に伝えるべく、バッツはまずスコールに視線を向けた。


「…わり、い…な……謝っ…て、済む、こと…じゃ…ない、が…」
「…いい。それは後で聞く。今は黙ってろ」


スコールの声も涙ぐんでいた。

(うわ…スコールまで………ありがとう)

今度は、必死にケアルを唱える少女にゆっくりと震える腕を伸ばした。
頬を撫でて、涙を拭う。
それでも溢れる涙に、バッツは笑みを溢した。


「…正気に、もど…って…良か…った…」
「覚えてる…全部覚えてる…!私のせいで、バッツまで…ごめんなさい、ごめんなさい!」


謝っても赦されないことはティナにも分かっていた。しかし、ティナは謝罪を繰り返すことしか出来なかった。
ティナの心は壊れそうだった。少なくとも薄れていく意識の中バッツはそう思った。
バッツはティナの頬を優しく撫でて、違うとゆっくり首を振る。
身体の半分がもう消えていた。


「…おれ…ティナの…ジタン…と、言い…争った、あの時の、笑った顔が…好、き…だ…」


(だから、泣かないで)

バッツは心の中で呟き、光の粒となって消えていった。
ティナは目を見開いてバッツの身体を引き留めようと腕を伸ばした。
しかし、彼女の手は空気を裂くことしか出来なかった。
ティナは言葉を紡ぐことが出来ずに、喘ぎ、絶叫する。


「あ、…ああ…あ、ああ…いやああああああ!!!!」


ティナの悲鳴がアルティミシア城全体に響きわたる。
スコールはその場で俯いた。
握り拳を、地面にたたきつけることしか出来なかった。
ケフカを撃退したライトが戻ってバッツの姿が見えないことに、悲しみの情を抱いた。

ティナは叫びながら、自分の身体を抱き締めることしか出来なかった。





『さようなら』






(…今度は、ティナがカオスの駒にならないように、守りたい)

(ただ、それだけを願わずにはいられない)









(バッツ、私…生まれ変わったら、あなたを守りたい)

(あなたと一緒に…コスモスで、ケフカに操られることなく戦いたい。強くなりたい)

シドによって、時を戻される少し前にティナは強く願った。
ティナの身体も、バッツのように消えていく、最期の時だった。




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