真影に潜む幻影に、2 | ナノ
バッツはティナを寝かせるための毛布を用意し、その上に彼女の身体を横たえた。
ティナの顔色はあまりよくなっていない。
ジェクトはいきなり暴走したと言っていたが、おそらく感情が戻りつつあるのが原因ではないかとバッツは疑っていた。
だから近くにいることを拒否された。
それは、あやつりの輪が彼女を解放しまいと縛っているのだろう。
ティナの身体を手当しながら、バッツはそう思っていた。
ジェクトによって応急処置をしてあったので、大事には至ってない。
「……ティナ」
(おれは、どうしたらいいんだ…?)
今度こそ、ケフカから守れるのだろうか。
最近は見ていないが、ケフカが彼女の状態を知らないとは思えなかった。
「…ん、」
ティナは目を擦り、起き上がる。
バッツの姿を捉えたが、今度は拒絶しなかった。
バッツは内心ほっとしながら、ティナの身体の様子を尋ねる。
「気分はどうだ?」
「…平気。私、クリスタルワールドにいて…」
「ああ、そこで倒れてたんだ」
どうやら、記憶が曖昧らしい。
わざわざジェクトの名前を出さなくてもいいか、とバッツは思い、省いた。
ティナはバッツの顔を見た。
「あなたが助けてくれたの?」
「うーん…ちょっと違うかな?」
「でも、ここまで運んでくれたのはあなたでしょう?…私、あなたに酷いことを言ったのに」
ティナは頭を押さえながら、自分の思ったことを言葉に表した。
バッツは彼女の額にそっと手をあてる。まだ顔色がよくない。
しかし、その行為でティナは安心したようだった。頭痛が治まったわけではなさそうだったが、バッツの手に甘えるように目を閉じて擦り寄った。
「気にしてないさ……顔色が良くない。もう少し寝ていた方がいいかもな」
「…うん。…!怪我してる…」
ティナは瞳を開いて、慌てた様子でバッツの身体に触れた。
「大丈夫だって。ただの掠り傷だし」
「…私が心配しては、だめ?」
「え…?」
ティナは優しい光の魔法を唱えた。
ケアルをされて、ある程度の掠り傷はほぼ元の状態へと戻った。
ティナはそっとバッツの身体を撫でる。
バッツは擽ったかったが、彼女の好きにさせた。
「ありがとな…心配してくれたんだ」
「何故かは分からないの。でもあなたが大きな怪我をした時も、きっとこんな気持ちだった」
「そっか」
バッツはティナの身体を横たえて額に唇を落とした。
ティナは目をぱちくりとしてバッツの顔を見つめた。
「…今のは、なに」
「お休みのキスだよ。いい夢が見られるように」
「夢…そう」
ティナはバッツの頬に手を伸ばした。
なに?と視線で訴えると、ティナは上半身を少し起こした。
手を添えていない方の頬に唇の感触がする。
「…あなたにも、いい夢が見られますように」
「あ、ああ…」
ティナはゆっくりと目を閉じて、やがて眠ってしまった。
バッツは壁に凭れて、天井を仰ぐ。
目頭が熱い。気を抜けば、涙が流れそうだった。
「…ティナ…」
上半身を倒し、ティナの唇に自分のものを重ねた。
こんなキスでは自分の想いは伝えられないが、それでも出来る分ありったけの気持ちを込めた。
少女の頭につけられたあやつりの輪が音を立てる。
終わりの日は、着々と近付いていた。
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キスさせるか、最後まで迷いました。