真影に潜む幻影に、1 | ナノ



「いってえ…」


フリオニールとは結局引き分けのまま終わった。
本気で来たので自分も本気にならざるを得なかった。そうでなければやられる。
掠り傷ばかりだが、あんなに武器を持ってるのは反則だよな…とバッツは思っていた。
フリオニールを吹っ飛ばして斬りかかった自分が言えることでもないが。
軽く自分で手当てをし、患部にポーションをかけておいた。
頭を冷やすために散歩がてら行ったのに、逆に頭に血が上った気がする。
バッツは瓦礫の塔に歩みを進めた。
すると入口に奇妙な組み合わせがいた。
一人はティーダの親父であるジェクト、その背にはティナが負ぶさっていた。
バッツはティナの姿を捉えると、走ってジェクトのところに行く。
それこそぶっ飛ばす勢いで。


「やっと来たか…待ちくたびれた…うおっ!いきなり殴りかかるたあ、何だよ!」
「あんた、何をしたんだ!?」
「俺のせいじゃねーよ!…あれ?俺のせいか?」


今の状況でつっこみなんて出来ない。
バッツは顔をしかめたまま、ティナの様子を見ることにした。
ティナの顔色は悪く、身体に斬り傷があるのを見つけた。


「この傷、あんたがやったんだろ」
「俺も精いっぱいでな…突然暴走したんだよ、この嬢ちゃん」


ジェクトはよいしょっと声に出して、バッツにティナの身体を引き渡した。
バッツは荷物を抱えるように、肩に彼女の身体をかけた。
そしてジェクトの方を見ると、彼の身体には火傷の痕や爪の痕があった。
間違いない、ティナがトランスして襲ったのだろう。
バッツはやはり彼女を一人にするべきではなかった、と思った。
ジェクトは用は済んだと踵を返し、こちらに顔だけ向けた。


「じゃあ、そゆことで。俺も…まあお前さんも疲れてるから、休戦ってことでな」
「ああ……ジェクト」
「なんだよ」


バッツは、ストックのあったポーションをジェクトに投げた。
片手で受け止めると、何の真似だと視線で訴えてきた。


「あんたの分だよ。ティナにポーション使って、自分は回復してないんだろ?」
「どういう風の吹きまわしだ?敵に情けか?」
「どう取っても構わないぜ?」


バッツは片眉を上げて言い放った。
ジェクトはバッツの表情をまじまじと見る。
そのうちに、声を出して笑った。


「ははっ、おめえは正気のまんま、俺たちと戦ってるんだな」
「………それが?」
「あいつらは嬢ちゃん同様、お前も操られてるって思ってる奴らが多くてな」


いきなりカオスの手先になれば、そう思うのも当然かもしれない。
しかし、カオス側にいることは自分で選んだ道だった。


「これはあくまで俺の予想だが…おめえは嬢ちゃんを人質に…」
「可能性の話をしたって仕方ないだろ?」
「…ま、そうだな」


バッツはジェクトの言葉を遮り、ジェクトは後ろ頭を掻いていた。
ポーションを持って帰ろうとしたジェクトは、ふと足を止めて独り言のように呟いた。


「これはおっさんの独り言だから、気にしないでくれ」
「…?」
「愛する女と世界、どちらか選ぶなら、俺は迷わず前者を取るね」
「……」
「じゃあな。おめえの名前を呼んでたし、大事にしてやれよ」


ジェクトは今度こそぺたぺたと歩いていってしまった。
名前を呼んでいた、というのはどういうことなのか分からない。
バッツはティナの体温を感じながら、ぼそりと呟く。


「仲間一人と他の仲間、それに世界を天秤にかけても…そう言えるのか…?」


答える者は、もちろんいなかった。




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10途中までしかプレイしていないので、ジェクトは世界を選びそうなんですが…怒らないでくださいね(笑)


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