欲情ポイント | ナノ


恋人の浴衣姿はこう、ムラッとくるものだと今まで信じ切っていた。
はだけてちらりと見えた胸の形とか、乳首とか…まあ、そういういつも隠しているところが焦らしながら見えるというのに理性が崩されていくのかと思っていた。
しかしそれは違った。
真面目な顔をして浴衣を着ようと必死になっている刹那を見て、ライルは少しも食指が動かなかった。


「…難しいな」
「着たことないからだろ」
「お前は着たことがあるのか?」


刹那が帯と格闘しているのを見ていたライルは、仕事の関係上経済特区日本にも来たことがあり、そこで泊まったことがあることを明かした。
今の刹那程酷くはないが、自分も見よう見まねで着たものだ、と懐かしく思ったりもした。
ライルの頷きに刹那は眉根を寄せる。
何かが不快に感じたのだろう、ライルが問おうとしたところ、ぼそりと無視できない発言をした。


「同僚か上司と来たんだろう。ムラムラされなかったか」
「…いや、男の身体見てムラムラする奴と来なかったから。それに後輩と行きました」
「下剋上か。……俺はムラムラしている」


これほどまでに、ムラムラなど下ネタのような言葉が似合わない男もいない。
ライルは全て聞き流そうと努力したが無理だった。ムラムラだけでなく、その他もである。
しかも自分がムラムラする前に相手がムラムラしたようだ。


「…まだ脱がすなよ」
「温泉に行くと言ったのだから当たり前だ。それより、少し手を貸せ」
「はいはい」


実はいつそう言うのか待っていたところだ。
兄のように世話焼きで見つけたらすぐにでも手を貸そうとは思わないが、言われればやろうとは思っていた。
案外早く自分で着ることは諦めたようなので、予想外ではあったが。
ライルは刹那に浴衣をきちんと持っているように言い、身体の前から帯を回した。
ただ温泉に入りに行くだけなので、階段を下りる際に困らない程度に緩く縛る。
一応形にはなったので、バスタオルと小さめのタオル、下着類等を持ち先に出ると伝える。
刹那は小さく頷き、後から部屋を出た。



温泉に来ることになった経緯は、休暇が重なったからであった。
特にすることはなかったので、気紛れに刹那に予定があるか訊いてみると相手もないと言った。
それならばどこかに出掛けるのも悪くない。
実際に休暇が重なったのは3日だったので、旅行をすることに決めた。
てっきり乗り気ではないかと思っていた刹那が少しだけ興味を示したので、話しあった結果日本にある温泉に行くことにした。
行き帰りの時間を1日考え、あとはゆっくりする。
スメラギに申告すると、ゆっくり休んできなさいと言われたのでその通りにした。
スメラギが自分の名で予約を取ってくれると言ったので厚意に甘えたところ、何故か貸し切り状態になったのが唯一気になる点ではあるが。


先に大浴場で身体や頭を洗ったあと、露天風呂へと来た。
いつもは簡単にシャワーで済ませるため風呂に入る習慣はあまりなかったが、温泉に入るのは気分が良かった。
刹那も同じなのか、のぼせそうになりながらも露天風呂へとついてきた。
途中にあったセルフサービスのミネラルウォーターを刹那に手渡し、奥へと進む。
脱衣所はやはり空であった。


「人がいないな」
「…ああ。あの人の厚意なのか?」
「俺たちの関係に気付いているのかもしれない」


自分たちの関係は、おそらく「恋人」なのだが不確かで曖昧なものだということもあり、秘密にしているわけでもなかったが誰にも話さなかった。
だから誰も知らないと思っていたが、彼女は聡いので分かったのかもしれない。
実際どうであろうと相手に対する態度が変わるわけでもないので放っておくことしか出来ない。


「…それならそれでいいだろ」
「ああ。構わない」


刹那の発言を受け、ライルは一瞬驚いたがやがて微笑んだ。
刹那は着ていた浴衣を脱衣所の籠に放り、手ぬぐいサイズのタオルを持って重い扉を開ける。
ライルも後を追った。
露天風呂は周りから無防備な姿を見られないための工夫がされており、景色を見ることは難しい。
刹那もライルも景色が見たいわけではなかったので、冷えた身体をすぐさま温めるために湯船に入った。
ライルは髪を上げていたが刹那はそのまま放置していたため、毛先が濡れて肩や背中に貼りつく。
刹那は一度だけ、後ろの髪を掻きあげた。
その時。


「…おい」
「ん?」
「暑苦しいから離れろ」


刹那の背中あたりにくっついているライルは、にやりと笑った。


「なんか、ムラムラした」
「男には、しないんじゃなかったのか」


意地の悪いことを言う刹那の首筋に軽く歯を立て、舌で撫でる。
ぴくりと反応した刹那の身体に、ふっと息を吹きかけた。


「……浴衣でなくても、構わないってことだ」


刹那には何を言っているのか分からない様子だったが、ライルは構わなかった。
その後、調子に乗って露天風呂内で事を始めようとしたライルに鉄拳が下ったのは、言うまでもない。


****
せっさんのムラムラはきっと崇高なんだろうなっていう、気持ち悪い自分の見解。(ムラムラに崇高も何もない)
ライルは浴衣のがポイント高いと思っていたけど、瞬間見えた(←ここ重要)うなじの方にやられたようです(笑)
吉雪様、「ライ刹で温泉ネタ」これでよろしかったでしょうか…いやでしたら書き直しますので!
リクエストありがとうございました!


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -