信じられる、それまでただ傍に | ナノ


『付き合う?いいけど…俺はお前一人と付き合うことは出来ないから。それでも良かったらいいよ』


今まで…ずっと好きだった人に告白した返事がこれだった。
多分心のどこかで分かっていた気がする。ニール・ディランディは来る者拒まず去る者追わずの典型的なパターンの男だった。
付き合うことになっても何も変わらなかった。誰にでも優しく接する度合いが、恋人になったことで少し増しただけとも言える。
付き合っていても日中は知らない女と歩いているところを何度も目撃する。
以前ニールと付き合っていた奴はそれが原因で別れたらしい。今残っているのは遊びでもいい奴だけだ。
しかし刹那は浮気と呼べるのか分からない彼の行動で別れようとは考えていなかった。そういう意味でマゾだったのかもしれない。
刹那はいつも通りニールの住むマンションに行くと業務連絡のようなデコメなんて持ってのほか絵文字も顔文字もないメールを送り、10分少々でニールの部屋へと着いた。
メールの返事はなく、前に貰った合い鍵で開けて部屋へと入ると、知らない女と眠っているニールがいた。
刹那が思わず鍵を落としそうになったところを、冷やかな瞳で見下ろす。
それからわざとらしく口角を上げた。


「あ、刹那来てたのか。ちょっと待ってろよ」


浮気現場と思われる状態のところにいつものような声で何でもないように言われ、刹那は頭が真っ白になり部屋を出て行くしかなかった。
あらかじめ要約すれば浮気は当たり前と言われていたにも関わらず、結局は何も分かっていなかった。
悔しい、悔しい。
ニールに本気になった者は感じたことだろう。
例外ではなく俺も、思う。
その日は眠れなかった。
次の日も、その次の日も。





「よお」


学校から家へと帰る途中に現れたのは、先日浮気した男の兄弟だった。
ニールの弟のライルは、珍しく彼女と歩いている様子もなく一人だった。
ニールと付き合う際に会話をする仲にはなったが、特に仲良くなったわけでもない。
偶然出逢って話し掛けられるとは思ってなかった刹那は、一瞬目を丸くした。


「…何の用だ?」
「兄さんを振ったって言うから来てみたら…ひっでえ顔」
「…うるさい」


振ったではなく、自分だけ振り切っただけだ。
追い掛けてくることもないしメールも電話も来ないため、もう別れたとは思っているが。
逢いに行き再び別れを告げるのがベストだろう。しかし逢いに行き別れを告げることができる自信がなかった。
みっともなく縋り泣いてしまうかもしれない。
ならば逢いに行かない方がいい。
何も解決しないことは分かっていたが、刹那は珍しく弱気だった。
そんな刹那を見抜いたのか、片眉を上げたライルが苦笑う。


「なあ、兄さんどうしてると思う?」
「…知らんな。どうせ来る者拒まずじゃないか?」
「そうだったらわざわざ俺がお前のところに現れる筈もない。超落ち込んでんだぜ?鬱陶しくて仕方ねーの」


渇いた笑いを漏らすライルに、刹那は不信な目を向ける。
ライルはおかしくて仕方がないとばかりに笑っている。


「ざまあみろ、だろ?」
「…言っている意味が…よく、分からないが」
「…お前が兄さんをふっ切ってたら、俺は兄さんを鼻で笑ってやれたのに。とんだ茶番だと思ってイライラしてさ」


ライルは笑顔を引っ込めてそう言うと、刹那の右手を取った。


「呆けてないでさっさと来い。後悔してんだろ?」
「どこに…」
「兄さんとこに決まってる」


刹那はその言葉を聞いた瞬間にライルの手を振り切った。


「いやだ」
「はあ?お前人の話聞いてたか?」
「いやだ…いやに決まってる…!」


またニールと女の濡れ場を見るのだろうか。それとも直接振られるのか。
どちらにしろ、刹那にとって酷なものでしかない。
刹那は頑なに首を横に振った。どうすればいいのか分からないが、とにかくニールと逢うのだけはいやである。
刹那の心の言葉が聞こえたのか、ライルは頭上で溜息を吐いた。


「…いやならいい。なんにも解決しないがそうやってずっと抱え込んでれば?」
「……」
「……じゃあな」


ライルは踵を返した。
ライルに逆に問いたかった。どうすれば良かったのだろう…と。
そんなことを考えていたせいでライルの最後呟いた言葉を聞き逃してしまった。


「…重症だったな。やっぱり馬鹿の方を連れてくるべきだったか…」






ニールのところから逃げてライルの言葉からも逃げた次の日、家の前には最初に逃げた男がいた。
痩せた気がする。顔色も少し悪い。
些か心配になったが、それ以上に2人きりでいたくなどなかったため、後ろを向きニールのいる方とは逆の方向へと向かう。
その腕を捉えられた。言わずもがな、目の前にいたニールである。


「…離せ」
「いやだ」
「離せと言っているだろう!もう俺に用はない筈だ!」


刹那は乱暴に掴まれている腕を振り切った。
茫然とこちらを見ているニールに対して暗い笑みを浮かべる。


「…ああ、そうか。合い鍵なら家にあるから、待っていろ」
「刹那っ!」


自分の家に入るために鍵を取り出し、開けて自分だけ入ろうとしたところニールが無理矢理入ってきた。
もちろん閉め出すつもりだったが、身体の半分以上が入ってしまいどうしようも出来なかった。
文句を言い振りおろそうとした拳を取られる。
そのまま玄関へと倒され、覆い被さってきたニールは唇を重ねてきた。

(何故、今更そんなことをするんだ)

舌を入れてきたことで刹那は思いきり噛んでやった。
血の味が自分の口内にも広がる。


「っつ、」
「今更…なんだと言うんだ…」


思ったよりも情けない声が出た。
これでは別れたくないと情けなく縋りついているようなものだ。
その真意に気付かないでほしかった。


「…俺はあんな場面を見せられて、平静でいられるわけがない。お前は条件に一人と付き合えないからそれを容認しろと言ったが……それでもいいかと思ったが、俺には無理だった」
「…だから、別れてきた」
「……は?」
「もともと付き合ってないけど、全部切ってきた」


何を言っている?ニールの真意が見えない。
刹那は驚きのあまり何も言えなかった。ただ無防備な表情でニールを見ることしか出来なかった。
ニールは苦笑を浮かべ、ゆっくりと混乱している自分にも分かるように喋りかけた。


「お前が好きだ。今まで馬鹿なことをしてきて赦してほしいと言うのも滑稽だが……頼む、戻ってきてくれ」






あれから俺たちはまた付き合うことになったが、決してニールの言葉を信じたからではない。
一度裏切られた想いは、そう簡単に治る傷ではない。傷の表面はかさぶたになっていても、心の奥底は未だ治っていない。
ただ、見ていてもいいと思った。あれからニールは本当に他の女を切ったらしく、ずっと自分につきっきりだ。
そんな彼をいつしか本当に信じられる日が来るのを待つのも、悪くないと思った。


****
遅くなりました…兎様のリク「浮気性ニールと一途な刹那。付き合って色々あってニールが一途になる話。」でした。色々を端折りましたね(おい)
大円満な話でなくてすみません。ニールは深く反省するといい(おい)
こんな話でよろしいでしょうか…いやでしたら書き直しますので!
兎様、リクエストありがとうございました!


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