偽りの中の真実1 | ナノ
あの一回から、コスモスの敵としてかなりの回数出るようになった。
既に何度も対峙し、彼らもおれたちを敵と認識したようだ。
ティナの方は相変わらずケフカに使われており、騎士のおれは更に下っ端だった。
正直な話別にどうでも良かった。そう考えていないと壊れてしまいそうだった。
ただ望むとすれば、ティナの、以前おれとジタンと話していた時の笑顔が欲しいと思った。
バッツは闇の世界を歩きながら、ティナの姿を探した。
出掛ける、と言って出て行ってしまった。たまたまいたクジャに聞くと、このあたりにいると言っていた。
いつでも勝手に行動してくれるので、騎士のおれは一苦労だった。
「…珍しい者がおるな」
黒い煙のような闇から現れたのは、妖艶な女を象った暗闇の雲であった。
バッツは背後に現れた女に振り返る。
「来たくて来たわけじゃないけどな」
「大方あの女だろう。脆い生き物ならば、セフィロスといた。お前はお役御免か?」
「はっ、笑えない冗談だな」
バッツは失笑したが、雲の言うセフィロスとティナが一緒にいるというのが気になった。
互いに接点はなく、カオスで集まった時も会話したことはない。
一人でなければいいか…とも思ったが、基本的にカオスの連中を信用などしていないので、やはり探すのを続行することにした。
「いい情報をありがとよ」
「別にいいぞ、そこからまっすぐ進めば奴らがいる」
「……」
暗闇の雲は笑って言うと、そのまま闇に消えた。
バッツは何しに来たんだ…?と思いながら、女の言う通りに歩みを進めた。
バッツが来る少し前、ティナはセフィロスに声を掛けられた。
セフィロスは気まぐれだった。彼女といつも一緒にいる筈の男がいないことに疑問を持っただけだった。
もはやカオスの中でティナがバッツが一緒にいるのは当たり前だった。
だからセフィロスだけでなく、カオスサイドにいるほとんどが二人をセットで考えていた。
「あいつはどうした?」
「瓦礫の塔。彼に用があるの?」
「いや、貴様らが離れるとは思わなかったのでな」
セフィロスの言葉に、ティナはふっと顔を曇らせた。
ケフカのおもちゃである彼女の自我を見た気がして、セフィロスはおや、と思った。
基本的に暇だ。皇帝たちに加担するつもりは毛頭ないし、ケフカのようにくだらないことをするつもりもなかった。
クラウドと戦えればそれでいい。
ただ、最近は満足に戦えていないので退屈だった。
だから人形のような少女に変化が現れたことが、セフィロスには面白く感じられた。
「どうした?私でよければ聞こう」
「……彼と一緒にいると、おかしくなる。頭が痛くなって、…苦しくなる」
「ほう…?」
あやつりの輪も随分と脆いものだ。
ティナはおそらくバッツといると自我を取り戻そうと脳が働くのだろう。
元に戻ってケフカの悔しがる姿を見るのもまた一興である。
少女一人いなかったところで、カオスが押されるわけでもない。
(この女一人ではなく、隣にいた男もだったな)
「それで、あの男から逃げたのか?」
「…そう、だと思う。自分でもよく分からない。気付いたらここにいた」
「なるほど」
茶番もいいところだ。
この少女のためにこちらにいるあの男も哀れだな、とセフィロスは感じた。
「それならば、私の人形になるか?」
「?…あなたが欲しいのは、あの人でしょう」
「クラウドのことか?別に欲しいわけではない。お前と同じで精神が脆いから、付け込んだだけだ」
「……」
あと付け足すならば、戦う中で自分を満たす存在だということだろうか。
それ以外には何もなかった。
ふと、靴音が響く。
セフィロスはふっと笑った。どうやら騎士の登場のようだ。
「そこまでにしてもらえるか?セフィロスさんよ」
「…やっと来たか」
セフィロスは気配で同じ空間にいることを知っていた。いつ来るかと待っていたものだ。
対して不安定な少女は、バッツがいることに気がつかなかったのか、酷く驚いていた。
「ナンパはクラウドだけにしとけよ」
「ふん。避けられている貴様に言われたくはないな」
「……」
バッツの瞳がすっと細められる。
セフィロスは気を良くしたのか、それ以上何も言わずにそのまま闇の世界から姿を消した。
バッツはセフィロスの消えた場所を一瞥し、ティナに近付く。
ティナは俯いていた。
「…どこに行くかぐらい、言ってってくれよ」
「……私は、一人でも平気」
「万が一ってこともあるだろ」
ティナはバッツの言葉にただ首を横に振った。
「あなたといると、おかしくなる。暫く、一人でいたい」
「え…?」
バッツは頭を鈍器で殴られたような、そんな感覚に陥った。
ティナはそんなバッツの顔を一度も見ることもなく、去ってしまった。
バッツは闇の世界の地面に座り込む。
彼女の言葉は、かなりの衝撃だった。
(…おかしくなる?)
ティナは今感情が制御されている。喜怒哀楽はほとんどないしおかしくなる、という筈もない。
もしかしたら、おれといることでその感情を取り戻しているのかもしれない。
ケフカが気取っていられるのも今だけなのかもしれない。あやつりの輪が外れてしまえば、助けられるかもしれない。
(…けど…全て可能性の話だ)
しかし、バッツは動揺を隠せなかった。
(それに…セフィロスの言ったことは、正しいな。結構凹むぜ)
彼女自身に、側にいることを拒絶されたのだ。
バッツは顔を伏せて溜息を吐いた。
嫌がる彼女に無理矢理側にいる理由はない。
ケフカのことやコスモスの…元仲間に遭遇した時のことを考えると、恐ろしく思えてくるのだが。
(とりあえず頭、冷やしてくるか)
バッツは闇の世界から違う場所に移ることにした。
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