クリスマス企画ライ刹2009 | ナノ


刹那は目の前の光景に眉を顰めた。
束の間の休暇から帰ったトレミーでは、何故か酒盛りをしている。
何故そんなことをしているのか食堂の頭上を見ると、『クリスマスパーティー』となっていた。
イベントという名の、ただの飲み会だろう。少なくとも一人はそれに当てはまる。
ただ、年少組に入るミレイナやフェルトもパーティーに参加をしていて、いつもの張りつめた空気が霧散し年相応の反応を示している。
特にフェルトはいつも気を張っている様子だったので、良かったのかもしれないと刹那は一人思った。
ぐるりと部屋の中を一周見渡して、一人いないことに気付いた。
ミッションはない筈だ。格好つけてる節もあるのであまり集まりは好きではないのかもしれない。
逆に兄の方は何かにつけて自分やティエリアを集まりに参加させていた。
つくづく顔だけで似た点のない兄弟だと刹那は思った。


「あ、セイエイさーん!」


刹那に気付いたミレイナが、彼の名を呼ぶ。
彼女の声にフェルトたちも振り返った。


「お帰り、刹那」
「ああ」
「さあ、せつな!飲むわよお!」


既に酔っぱらっているスメラギが絡んでくる。
面倒なのでとりあえず1杯だけ煽り、フェルトやミレイナのいるところまで移動した。
ラッセが恨みがましくこちらを見ていたが、それも無視である。


「それにしても、ストラトスさん遅いです…」
「…ロックオンがどうかしたのか?」


ミレイナの何気ない一言に刹那は問い掛けた。
ミレイナの代わりにフェルトが刹那の疑問に答える。


「彼、スメラギさんにかなり呑まされて…気分が悪いからって出ていったの。ついていこうか聞いたんだけどいいって…」
「……」


おかしい。
ニールは酒を呑むと陽気になり、相手をするのが面倒だった。ティエリアと話し合い、アレルヤをニールの相手役に押し付けたことが何度あったか。
その後酷く落ち込み…あの時は分からなかったが家族のことを考えて落ち込んでいたのだろう。「いらないことばかり考えるから、酒は好きじゃない」と言っていた。
ライルは逆に口数は多くなるが、陽気になることは決してない。兄に抱いていた劣等感が強くなり、自己嫌悪というパターンが多かった。
ただ、彼がそこまで酔うことはほとんどなく、2人やラッセ、イアンを含めて呑む時は大抵自分や2人が潰れてしまう。
それこそ潰れることは有り得ない。
違和感を感じた刹那は、探しに行くことに決めた。


「探してくる」
「うん。お願いね」


予想していたとしか思えないフェルトの科白に刹那は少し驚いたが、小さく頷いて部屋から出ていった。
刹那が出ていった後、フェルトは無意識に溜息を吐く。
一部始終を見ていたミレイナは、眉を顰める。


「セイエイさんを行かせて良かったんです?」
「そうよね…これを私たちで片づけるのは…ね、」


酔っぱらった大人たちを運び、後片づけをする人数が減ったのは、痛手である。
すぐに戻ってきてくれればいいが、女の勘からなさそうだという結論が出た。






自室にいるかと思いノックをしたが、気配がない。
そのままブリッジに行くが、閑散としている。
ではどこに行ったのか…少し考えて、刹那は格納庫へと向かった。
刹那ほどではないが、主にハロに急かされてケルディムの点検等をしている姿をよく見ているからである。
しかし格納庫に出向いてもライルの姿は見当たらなかった。

(どこにいるのか…)

探されたことは多々あっても探す立場になったことはほとんどないため、刹那は途方に暮れた。
一通り格納庫を確認してから部屋を出て他の場所を探そうとした時、背後から肩を叩かれた。
思わずびくりと肩を震わせる。
先程煽った酒が徐々にまわっていること、更に思考に耽っていたため気配を察知出来なかった。静かな場所であるのに、扉の開閉や足音に気付くことが出来なかった。
驚いたのは刹那だけではなく、肩を叩いた張本人もであった。


「悪い…驚かせたか?」
「…別に驚いてない」
「それならいいんだけどさ、こんなとこで何してんだ?」


それはこちらが聞きたい。
刹那は出掛かった言葉を呑みこむことなどせずに、そのまま口に出した。


「お前は何故ここにいる?」
「質問に質問で返すなよな…俺は、まあ…あの人から逃げるためってやつ?」
「ザルのお前の言い訳にしては、安っぽいな」


ライルは刹那の言葉にも怒る様子はなく、へらへら笑っているだけだった。
もしかしたら本当に酔っているのかもしれない。
思った通りなのか判断がつかないが、ライルは聞いてもいないことを喋り始めた。


「ちょっと感傷的になってさ。わいわい騒ぐのが嫌いなわけじゃないんだけどよ」
「…家族か」
「いや?俺の場合家族とのパーティーにはほとんど参加しなかったから」


双子の間だけでなく家族の間にもすれ違いがあったのだろうか。
刹那は聞く資格を持っていないと感じたため、口を閉ざすしかなかった。
些細な刹那の反応に気付いたライルは、家族の話題を遠ざけるようにして違う話題へと移った。


「…けど、半分以上は後片づけにうんざりしてたからだな」
「それは…俺もだ」
「彼女たちだけじゃ辛いだろうから、もう少ししたら行くけどよ」


それはそうである。
スメラギだけならともかく潰れた大の男を運ぶのにフェルトやミレイナでは辛いだろう。
地上に降りているため、重力も宇宙空間以上にある。
刹那もあとで戻ることに決めた。


「…お前は、俺のことを探しに来たのか?」
「ん?…ああ、なかなか見つからなかったが」
「入れ違いになったのかもな」


意図的に避けられていたような気もしないことはないが、それは心の中に押し込めておく。
もしかしたら一人になりたかったのかもしれない。
だがライルはニールと違って思春期のような…根本は構って猫ちゃんタイプなので(因みにニールは逆である)、その可能性は低いだろう。
刹那に声を掛けた時点で大人数はいやだが一人もいやだと感じた筈だ。刹那はそう思い込むことにした。


「…先程感傷的になったと言ったが…慰めてやろうか」
「刹那が?へえ、珍しいこともあるんだな」


目を丸くするライルに軽く苛立ちを覚える。実際にスメラギやマリナやティエリアなど慰めたことだってある(と本人は思っている)。ライルだってそうである。
ただ、面と向かって慰めようと言ったことはなかった。
少し揶揄も含んでいる。そのことに気付いているのだろう。
ライルは刹那の言う『慰め』にのってきた。


「何してくれるんだ?頭撫でるとか?」
「されたいのか?」
「うーん…女の子ならともかくお前にやられるのも微妙だ。遠慮願う」
「ならば……歌…を歌ってやる」


傍にいる以外に何が出来るかと考えて、すぐに出てきたのが歌だった。
マリナが歌っていた、あの歌ならば歌える。
かなり自信があったのに、ライルは微妙な顔をして却下をしてきた。


「それもいい。お前、歌下手そうだし」


本人の前で大変失礼なことを言う。聞いたこともないくせに、だ。
だが、刹那自身自分が上手いのか下手なのかも分からない。
刹那はそれ以上何も言えず、黙りこんだ。
その様子を見たライルは、少しだけ影を残したまま微笑んだが刹那には見えなかった。


「いるだけで面白いから、そんな気遣わなくていいって」
「面白い?」


何だか癪に障る言葉である。
むっとした状態で顔を上げると、にやにや笑うライルと目が合った。
無理をしている様子が見えた。しかし指摘されたくなさそうな雰囲気だったので、やめておいた。


「そ。飽きないってことだ」


刹那が何かを言う前に、ライルは刹那の肩を掴んで自分の方へと引き寄せた。
思ったよりも引き寄せた力が弱く、ライルが本当に弱っていることを感じとった。
頭を撫でようかと思ったが、遠慮すると言っていたので結局背中に腕を回すだけにしておいた。.









「で、やっぱりこうなるんだな」


フェルトたちのいるところに戻ると、酔っ払いが潰れている中必死に掃除をしているフェルトとミレイナ、彼女の母であるリンダの姿が映った。
刹那とライルは顔を合わせ、ライルだけが苦笑を浮かべたあと、酔い潰れた男たちを運ぶことにした。

****
ニールは普段、寂しい寂しい言うけどいざとなると一人にしてほしい人。ライルは一人がいいとか言いつつ寂しいから誰か一緒にいてほしい猫タイプ。
全て私の妄想です。
あと、このページのどこかにR15があります。すぐ分かりますので、探してみてください。


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