クリスマス企画バツティナ2009A | ナノ
エプロンをきちんと片付けずに店を出てしまった。
バッツに連れられて駅の方へと歩き出したティナはその事実に気付いた時、戻ろうとした。
「バッツ、あの…片付けがまだ…」
「大丈夫だって。分かっててあいつが送り出してくれたし」
そうなのだろうか。
思ったよりも強い力で手を引っ張られ、ティナはついていくことしか出来なかった。
人を笑わせることが得意なバッツはそれ以上何も喋らない。
ティナも胸の痛みがまだ治まらず、どうすればいいのか分からなかった。
繋いだ手を辿るようにしてバッツの横顔を見れば、笑っておらず無表情に近い。
こんな表情は見たことがない。
ティナは初めて自分がバッツの何も知らないことに気がついた。
信号で足を止めるまで、2人は無言で歩いていた。
止まったと同時にバッツはティナに振り返った。
「あいつに何かされた?」
「え…?」
あいつが誰を指しているのか分からないティナは、首を傾げる。
バッツは怪訝そうな顔をしたが、ティナが本当に分からないと理解したのだろう、困った様子で頭を掻いた。
「うーん。じゃあ…何でそんな顔してるんだ?」
「……!」
バッツにも分かる程、おかしな顔をしているのだろうか。
心当たりがあるとすれば、この胸の痛み。皮膚に刺さる、棘のような鈍い痛み。
バッツの隣に並んだ女の子を見た時、思い出すだけで更に深く刺さるような気がした。
思わず俯いてしまうと、バッツは呆れたのか大きな溜息が聞こえた。
どうしよう。呆れさせたり、困らせたいわけではない。本当なら今から優しい幸せな時間を過ごすのに。
ティナは何か言わなければ、と繋いだ手をぎゅっと握りしめた。
「わ、私…おかしいの…!」
「は?」
「こんな気持ちになったことないから、分からなくて…」
ティナは自分の中にある、痛みを伴う苦しさを拙い言葉で一生懸命伝える。
花屋を閉める前にバッツを見たこと。その時に女の子といて苦しかったこと。
バッツは話を口を挟まずに注意深く聞いていた。
自分の気持ちも隠さずに全て伝えると、バッツは目を見開いたあと顔を押さえて横に向けてしまった。
指の隙間から見える頬や耳がほんのり赤い。
寒いのだろうか。
慌てて花屋から出てきたのでマフラーをし損ねていたが、ティナは繋いだ手を離してそれを鞄から取り出す。
背伸びをしてバッツの首に緩く巻く。
腕を巻き付けないように自分のではない首にマフラーを巻くのは、結構大変だった。
「まだ寒い?」
何を言っているのか分からない様子のバッツは目を瞠る。
ティナがきょとんとしたまま見ていると、頭の上に手が乗せられた。
そのままぽんぽんと軽く叩かれる。
「あったかいよ。ありがとな」
「ううん。…ごめんなさい、変なこと言ってしまって…」
ティナが謝ると、バッツは頭を撫でながら破顔した。
「変なことじゃないさ。でもひとつ訂正しておくな?あの女の子はおれに道を訊いてきただけだよ」
「そう、なの…?」
「そう。万が一彼女がおれに気があるとしても、ティナが哀しくなるような、そんなことにはならないから」
バッツはにっと笑い、続けた。
「ところで、その苦しいとか痛いと思う感情がなんだか分かるか?」
「……分からない」
「嫉妬って言うんだ。『好きな人が好かれているのを見るのは嬉しい』から進歩したってこと」
嫉妬…言葉を聞けばなんとなく分かる。ティナ自身が嫉妬をしたことなどほとんどないので分からなかったが。
それは果たして進歩なのだろうか。
ティナが考え込む姿をバッツは目を細めて見ていた。
顔を上げると、必然的に目が合う。
「おれはへらへら笑ってるように見えるかもしれないけど、結構嫉妬深いから。ティナがそう思ってくれてるって分かって嬉しい」
「バッツも…嫉妬?」
「もちろん。ティナのこと狙ってる奴多いから牽制したり…あとは、フリオニールとか…な」
少し遠くを見て呟くバッツを見て、何故フリオニールの名前が出てきたのか疑問に思った。
「フリオニールは…多分、恋人いるよ」
「多分?」
「うん…あまり、自信ないから」
時々彼の経営する花屋に顔を出す、あの子がきっと恋人なのだろうとティナは思った。
彼が、まるで花が咲くような、とてもいい笑顔をするから。
そうだったらいいな、と友人として思う。
ティナの言葉にバッツは少しだけ眉を寄せた。
気分が悪いのだろうか。尋ねようとしたところ、自分のマフラーが首に返ってきた。
バッツの体温を吸収したマフラーは、いつもより暖かい。
「ま、フリオニールの話はいいとして……他の奴に話し掛けるな、とかそんなこと言ってるわけじゃないからな」
「うん」
「よし。じゃあ行くか」
バッツがそう言った直後に冷たい風が通り、思わずティナが肩を竦めるとふわりと優しく抱き締められた。
すぐに身体は離れて指を絡められる。
優しい抱擁は一瞬だけであったが、身体中が熱くなった。
歩き始めて少し経ったところでバッツがティナの様子を窺うと、くすりと笑った。
「顔、真っ赤だ」
「う、うそ……ほん、と?」
「ほんと」
繋いでいない手を自分の頬にあてる。
とても熱く感じる。
暫く頬に手をあて慌てた様子のティナを見て、バッツは笑みを濃くした。
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少女漫画目指した。あっめええええええ!君たち、ここ往来です。
フリオニールの恋人は、皆さんのご想像で。