クリスマス企画バツティナ2009@ | ナノ


「明日の夜空いてるか?ご飯でも食べに行こうか」


大学の研究で忙しい時期だというのに昨夜、バッツは電話でそう言ってくれた。
ティナは携帯電話を耳にあてたまま驚き、声が出なかった。
機械越しから返事が来ないのを心配したバッツは、「おーい、大丈夫か?」と声を掛けてくれたが、上手く返事が出来ない。
嬉しすぎて声が出ない場合、どうやって伝えればいいのだろう。
ティナは深呼吸を一回したあと、柔らかな笑みを浮かべて返事をした。


「うん…ありがとう。嬉しい」





バッツは大学で生物学の研究を行っている。
両親に先立たれた彼は奨学制度を利用し、朝と夜のアルバイトで学費を稼ぎながら大学へと行っていた。
ティナも両親はいないが、養父が生活費と学費を出してくれている。
それでも大学まで出させてもらい申し訳ない気持ちが溢れているため、花屋と家庭教師のアルバイトと長期の休みには短気のアルバイトを定期的に入れてお金を送っていた。また子どもたちと触れ合う「おはなし会」にも参加している。
2人が出逢ったのは、大学内のサークルである。
同じ学年のフリオニールと知り合ったティナは、彼にアルバイトを紹介してもらい(花屋は彼の家である)サークルにも誘われた。
あまり行けないからと最初は断ったのだが、彼は入る入らないに関わらず女の子を連れてくるように言われたらしい。
見学だけなら、とサークル室に行ったところで、サークル長のライト、副サークル長のセシル、大学内ではあまり逢わないが自分と同じ花屋のアルバイトで配達をしているクラウド、そもそもフリオニールに命令したバッツと出逢った。
サークルを立ち上げる際に名前だけ入れた人もいたが、主なメンバーは彼らだけであった。
紆余曲折を経てティナはバッツと付き合うことになったのだが、彼女にとって彼と過ごす時間はとてもふわふわした、夢のような時であった。
バッツは男女どころか人間以外にももてるため、気が気でないのでは?とセシルに問われたことがあった。しかしティナは違った。
好きな人が好かれているのを見るのは嬉しい。
それを口にした時、何故かバッツは複雑そうな表情を浮かべていたが。





「ティナ、そろそろ店を閉めてくれないか?」


外に出ている花を中に入れ終えて点検をしているフリオニールがティナに声を掛けた。
ティナは返事をして扉を閉めようとした。
その時、少し遠くに見知った人がいた。
バッツだ。
声を掛けようと外に出ようとしたところ、隣に女の子がいたので思わず足が止まる。
とても綺麗な女の子だった。黒のワンピースを着て、髪を緩く巻いている。
その子は顔を赤くして会話をしていた。
大学内でも時々見る光景である。いつものこと。
なのに、今は胸が苦しい。
心臓のあたりがきゅっと締まり、血液の流れを止めてしまいそうな…そんな感じである。
ティナはバッツと女の子から視線を外して店を閉めた。
何だろう。自分はおかしいのかもしれない。
視線を外したのに胸の苦しさは変わらない。むしろ増しているようにも感じる。
初めての感覚に、どうしたらいいのか分からない状況だった。


「…ティナ?」
「…え、あ…どうしたの?」
「いや…もう時間だけどいいのか?」


フリオニールはアルバイトの終了の時間を言っているのだろう。
本当ならば、この後駅で待ち合わせをしているので早く行きたかった。
だが、先程の光景が蘇る。
まだ2人でいるのかもしれない。
そう思うと、心臓が悲鳴を上げて動けなくなった。


「あの…フリオニール…」
「よお、相変わらずすっげえ花の量だな」


ティナの言葉を遮るかのように、裏口からバッツの声が響いた。
ティナはバッツの声に肩を震わせた。
ティナの様子を間近で見たフリオニールは、おや、と首を傾げる。
が、色恋沙汰では鈍い彼は彼女の様子を不思議に思うぐらいだった。
「おっと…」と言う声とぶつかった音が聞こえ、フリオニールは裏口の方へと顔を向けて眉根を寄せた。


「傷つけたら弁償だからな」
「分かってるって。あ、ティナいるか?早く着いたから迎えに来たんだけど」
「ああ。ティナ、ここはもう俺がやっておくから…」


フリオニールはティナに振り返ると、エプロンを脱いだ彼女はとても儚く見えた。
フリオニールはここにきて彼女の様子がどこかおかしいことに気付いた。
いつもは馬鹿騒ぎをして人を困らせるのが好きなバッツも、人の心の動きには敏感なようで、視界に入れた瞬間ティナのいつもと違った様子に気付く。
バッツは一瞬フリオニールに疑いの目を向けたが、すぐに元に戻ってティナの肩を軽く叩いた。
ティナははっとしてバッツの方を見つめる。
困惑した様子の微笑みに、ティナは苦笑しか浮かべられなかった。


「…さっさと行けよ」
「お前は、仮にも先輩に向かって…」
「先輩なら先輩らしく、好きな子を安心させてやれ」


フリオニールのきつい一言にバッツは一瞬つまったが、よけいなおせわだと口の動きだけで伝えた。
その後ティナの肩を抱くようにして花屋の裏口から出ていく。



いつも仲が良くて喧嘩したことなどない様子の2人。それが今は音を立てて軋んだ気がする。
優しくてふわふわした雰囲気のままではいられないことがフリオニールには初めて分かった事実だった。




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