焔に抱かれた氷水2 | ナノ




バッツを置いていったティナが月の渓谷に向かった時、コスモスの三人がいた。
一人は大剣を振り回すクラウド、足の速いティーダ、そしてセシルだった。
ティナは地上に降り立つと戸惑いもせずに、魔力を溜めた。


「…悲しみの水泡よ!」


三人に向かってティナはフラッドを放った。
クラウドがいち早く気配に気付き、大剣を振るう。
側にいた二人は武器を構えてティナの佇む方へと向きあった。


「ティナ…!」


セシルの悲痛な叫びが聞こえなかったかのように、ティナは反応しなかった。
無表情のまま少し高いところから三人を見下ろす少女は、何も感じていないようだった。
武器を向けるのを戸惑うティーダとセシルを置いて、クラウドは大剣を彼女に向けた。
セシルが戸惑いの声を上げる。


「クラウド!彼女は…!」
「戦って戻すしかない。もはや言葉が通じないのは何度もやって分かっているだろう」


そう、ティナがカオスに連れ去られた後、オニオンナイトが、ジタンが…ほとんどみんなが呼び掛けたがティナに届かなかった。
もう戦うしかないと誰もが感じていたが、仲間の彼女と戦うには未だに葛藤があった。
ティナは三人が言い争っているのを虚ろな瞳で見つめながら、重力の力を借りる。
クラウドはこのままではいけないと、ティナが詠唱に入る前に行動に移した。


「重力の…」
「焼き尽くせ!」


ティナの周りを、炎の粒が包み込む。
逃げ場のなくなったティナは、顔をかばうようにして腕を交差させた。
その時にティナの身体を庇うようにして突進してきた男がいた。
そのまま男とティナは地面に倒れこむ。
彼女が背中を打ちつけないように、男は身体を反転させて地面に着地した。
ティナを庇った男の姿を三人は見て、目を見開いた。
コスモス側にとって、その男は死んだと…消えたと思っていたからだった。


「バッツ……?」


ティーダが茫然と呟く。
バッツが一人エクスデスと戦うために次元城に消えたあと、バッツは死んだと告げられた。
みんな信じられる筈もなく次元城に行った時、大量の血の痕が残っていたのだ。
バッツの姿はなかったが、あの量では誰もが助からずに消えたと思っていた。
その彼が生きていて嬉しい。
しかし、カオス側にいるティナを助けたところで三人の疑惑が膨れ上がる。
バッツはティナの身体を起こして、三人に視線だけを向けると失笑を浮かべた。
すぐにティナに視線を戻し、微笑みかける。


「大丈夫か?」
「…平気。あなたは?」
「へーきへーき。ほんと…勝手に行くから、追いつくのに時間がかかっちまった」
「……」


ティナは無言で起き上がり、それに続いてバッツも今の庇いで引き攣った横っ腹に眉根を寄せながら立ち上がった。
マント等についた月の砂を払い、ティナの一歩前に出てクラウドたちに対峙する。


「よう、お前ら」
「生きてたんだね…バッツ」
「まあな」


バッツは今の状況でその言葉が出るセシルに苦笑を浮かべた。


「…どういうことだ?バッツ。何故彼女を庇う?」


セシルとは対照的にクラウドがドスを利かせ、バスターソードを握る力を込めた。
ティーダは信じられない、と瞳を揺らしながらティナとバッツの方を見る。
バッツは、心の底から対峙している三人を、そして自分自身を嘲りたくなった。


「どうもこうも、見たまんまだぜ?おれはカオス側…お前らの敵だ」
「嘘だよな…バッツ…、お前まで!」


ティーダはバッツがティナのように操られていると思っているのだろう。現に額にあやつりの輪をつけられている。
そんなティーダのことを、お気楽な奴だとバッツは思った。
信じたくないティーダの気持ちはよく分かった。実際に宣言した自分だって信じたくはない。
だが、この状況では事実だ。認めたくなくても認めるしかない。


「嘘じゃない。見りゃ分かるだろ?」
「うそ、嘘だ…」


ティーダは力なく呟いた。
罪悪感を感じる暇もなかった。
バッツの言葉を聞いた途端、クラウドがバスターソードで斬りかかってきた。
バッツはわざと同じ剣をものまねして、左手にはガンブレードを持ち受け止める。


「きさま…っ!!」
「案外単細胞だな、クラウド」
「なめてるのか!!」
「クラウド!」


激昂したクラウドの名を呼んで我に戻り、参戦をしたのはセシルだった。
ティナはセシルが近づけないように、ホーリーを放つ。


「あなたの相手は、私」
「ティナ…!」
「二人とも…何でッスか…」


ティーダは茫然と立ちつくし、戦えない状態だった。
実質二対二になり、一人戦意喪失しているためこちらにも有利になった。
クラウドが容赦なく叩きこんでくる大剣を受け止め、逆に酷く冷静な自分はその荒さから隙を見つけ出す。
にやりと笑い、バッツは一発叩きこみある程度距離を置いてクラウドとスコールのものまねの技を繰り広げた。


「隙だらけだな……決める!」
「なに…!?」


バッツの技に、クラウドはバランスを崩した。
膝をついたところで、バッツがバスターソードをクラウドの顔に向ける。


「その程度か?」
「ちっ…」
「口ほどにもないな」
「クラウド、ティーダ、セシル!!」


バッツがライトの使っている剣を振りかざしたその瞬間に、ジタンの声が響いた。
バッツは軽く舌打ち、遠くからやってくるコスモス勢に二人ではさすがに敵わないと判断して、セシルと距離を置きながら戦うティナのところへと飛び、腕を掴んだ。
ティナもジタンたちが三人に向かって走ってくるのを見て、セシルとの戦いを止める。


「一旦引いた方がいいな」
「ええ」
「バッツ…!?」
「よう、勢ぞろいで何よりだ」


あとから来た面々はバッツの姿を見て驚き、何が起こっているのかすぐには理解が出来なかった。

クラウドたちの殺気や態度から、悪夢が現実に起きたのだと理解出来たのは誰だったのだろう。


「……さようなら」


ティナがトルネドを放ち、バッツとティナは月の渓谷から姿を消した。
クラウドとセシルは武器をしまい、二人の消えた方向を見て眉根を寄せる。
ティーダは両膝をついて、今みんなが思っていることを叫んだ。


「何で…何でだよ!二人ともカオスになんか…!!!」


問いの投げかけに答えるものはいなかった。






瓦礫の塔に帰ってきた時に、バッツは酷く昂揚していた。
今まで戦ってきた中で、ここまで昂ることはなかった。
震える右手を再び押さえ、深呼吸をして落ち着かせていく。
希望の光を灯した心は、死んでいた。


「…あんまり、騎士として働けなかったな…」
「いいえ、私は助けられた」


抑揚のない声でティナに言われたが、何故だか救われた気がした。
そんな自分が酷く滑稽に思えた。
バッツはティナに背を向けて、声を出して笑った。
笑うことしか出来なかった。


「はっ…ははは…はははは…」
「……」


ティナはただバッツを見ているだけだったが、やがて目を閉じた。
バッツはそれでも笑い続けた。
死んだ心が潤うことはなく、涙は出なかった。




****
戦闘なんて書けないので(二回目)流し。



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