夢を知る、夢を見る | ナノ


※消失ネタ、捏造多数含む


ある青年は、夢があるから生きて戦うことが出来ると言った。
またある青年は、夢は夢であって見続けることは出来ない。夢は必ず終わると言った。
ある少女は自分の夢が分からないと言った。共有することで何かを得られたらいい、と彼女は寂しげに微笑んでいた。
最後に訊いた青年は夢をなくしたと言った。彼もまた少女と同じく夢を共有することで自分の進むべき道を模索しているようだ。


夢の話を訊いたライトは、自分がこの世界に召喚されてから夢を見ていないことに気付いた。
まず最初の青年が言ったように自分には夢はない。今の状況をただ打破すべく、動く人形なのかもしれない。
更に眠る時。
横になることがほとんどなかったため身体が休めていないのか分からないが、夢を見ていなかった。
眠ればその時々夢を見ている筈であり、記憶に残るような夢は少ないと言う話もあるが、本当かどうか分からない。
ライトは皆が眠る中、ふと両足を抱えるようにして縮こまって座っている少年に話し掛けた。


「…君は、夢を見るか?」
「え…?」


突然話し掛けられたことで上手く対応が出来なかった少年…オニオンナイトは、すぐに頭を切り替えてライトの言葉を頭の中で噛み砕いた。
夢を見る…?何を訊きたいのかいまいち理解出来なかったオニオンナイトは、ライトに問い掛けた。


「どういう意味かな?」
「君の思う通りで構わない」


問われる方にはとても難しいことを言って再び黙ってしまったライトに、オニオンナイトは困ったように頭を掻いた。
オニオンナイトはライトが質問してくることは珍しいので何とか答えてあげたいと思った。
しかし。


「うーん……その問いの答えなら、Yesになるけど」
「けど?」
「………ごめん…あんまり、言いたくない…よ…」


実際にあまりいい夢を見たことのないオニオンナイトは言葉を濁らせた。
ライトはあまり人の感情に聡いタイプではなかったが、これ以上訊いてはいけないことは分かった。
ライトは小さくくしゃみをしたオニオンナイトに自分の使っていた毛布を渡し、自分は焚火の近くへと座った。


「…ライトが寒くない?」
「私は袖があるから大丈夫だ」
「…あ、ありがと…」


オニオンナイトの礼の言葉にライトは表情を緩めた。
そして、先程からこそこそとこちらを覗いている一人に声を掛ける。


「眠れないならこちらに来たらどうだ?」
「…へへ、ばれたッスか?」


悪びれる様子のないティーダが後ろ頭を掻きながら、ライトとオニオンナイトの空きすぎている場所に座った。
毛布をちゃっかり持っていて、それを肩にかけながら焚火にあたる。
寒いッスねえーと親父のような言い方をして縮こまっている姿は小動物のようである。
ライトが適度に温まったら眠るようにと言うと、ティーダは首を横に振った。
眠りたくないのかと問おうとしたところ、ティーダはいつも見せない大人びた表情をする。


「盗み聞きするつもりはなかったんだ。でも気になること言ってるなーって…」
「…夢の話?」
「そッス。ライトは前にオレに訊いてきたよな?「夢とは何だ?」って。あれのひとつの答え、持ってるから…見せようかなって」


ティーダはそう言うと、自分の右腕を差し出した。
何か起こるのか見守っていたライトとオニオンナイトだが、何も起こらない。
2人は頭にクエスチョンマークを浮かべた。


「どういうこと…?」
「…オレ自身が夢ってこと。きちんと思い出せたわけじゃないけどさ、オレは…誰かが見ている、夢の一部」


ティーダの言葉に2人は息を呑んだ。
ティーダは苦笑を浮かべながら、自分の右腕をゆっくりとなぞった。
それからライトの肩に手を置いたり、オニオンナイトの腕に触れたりした。
感触は、何も変わらない。


「こうやって触れることは出来るんだ。でもオレは夢の存在。元の世界に帰れたら……どうなるかな」


ライトは以前ティーダに夢のことを問い掛けた時に返ってきた言葉を思い出した。

(夢はいつか終わる…)

ライトはどこか慌てた様子でティーダに話し掛けようとしたところ、オニオンナイトが目を潤わせてティーダの左腕、胸あたりを叩いた。


「ばか!何で…そんなこと言うのさ!何で平気な顔して言うんだよ!」
「ど、どうしたんだよ、玉葱!皆起きちゃうぞ?」
「どうしたもこうしたもないよ!!ティーダは本当に平気なの!?」


ティーダが珍しく焦った様子でオニオンナイトの拳を掌で受け止める。
しかしオニオンナイトは感情が爆発したのか、ばかばかと繰り返すのみだった。


「僕は凄く怖い!自分が紛いものって言われて、そんなのよく分からなくて…知りたくもなくて。でも身体が覚えてるのか夢に出るんだ。自分が造られた時のこと。妄想かもしれないけど妙にリアルで…それだけじゃない、カオスを倒したら…帰る場所があるのか…帰ることが出来るのか…どうなるんだろうっていつも考えて、消えるかもって…そしたら身体全体が震えるんだ。カオスを倒せるかも分からないのに…!」


途中から何を言っているのか自分でも分かっていないであろうオニオンナイトは、うまく呼吸が出来ずにひっひっと繰り返す。
ライトは立ち上がり、オニオンナイトの傍まで来て彼の背中を撫でた。
オニオンナイトは力なくティーダの肩を叩き、そして項垂れた。
ティーダはオニオンナイトの叫んでいる間放心状態であったが、徐々に顔をくしゃりと歪めていく。
泣き顔を見られたくないのかすぐに下を向き、涙に濡れた声を上げた。


「怖くないわけないだろ…!夢です、だから消えるんだって知って…笑っていられないけど、笑うことしか出来ないんだ!皆とずっといたいと思っても無理で、そんなこと自分が一番よく分かってるから…後悔、したくないから…笑って。泣くことなんて、最後でいいって…!」


ティーダまで上手く呼吸が出来なくなり、ライトは彼の背中も摩る。
地面を叩くティーダの手は徐々に勢いがなくなり、力を込めて拳を握ることしか出来なかった。
オニオンナイトとティーダは自分の言いたいことを吐露し、ぶつけたことで、やがて泣きながらも笑顔を見せた。
笑うしか出来ない…彼らの笑顔はそんな笑顔かもしれないとライトは思った。
ティーダはオニオンナイトの額に指をぴんと放つと、オニオンナイトは額を押さえて文句を言う。
オニオンナイトの文句が終わる頃、ティーダは目尻を下げ優しい笑みを浮かべる。


「お前、それで時々暗い顔してたり魘されてたんだな」
「え、知ってたの…?」
「まあな。……そっか…お前も……ごめんな」
「べ、別にティーダが謝ることなんて何もないだろ!僕がみっともなく……うあああ、さっきのこと忘れたい!忘れて!内緒!ティーダもだけど、ライトも!」


オニオンナイトが顔を真っ青にして言うものだから、ティーダもライトもその場で顔を見合わせ、笑った。
ライトは記憶がなく、彼らのような運命に立ち向かうのかも分からない状態だったが、ひとつだけ言えることがあった。


「私は、君たちが仲間で本当に良かったと思っている。どうあろうと大切な仲間だ」
「…ライト、」
「……眠くなっただろう?もう横になりなさい」


オニオンナイトとティーダはライトの顔を一瞬驚いた様子で見て、それから毛布にくるまりくっついて横になった。
動けなくなったライトは暫く固まっていたが、2人の頭を撫で、自らの決意を心の中で述べた。

(私は、君たちや共に戦ったことを忘れない……そして、夢を抱いていいだろうか…?彼らが、幸福であるように、と…)

夢を見なかった男が、初めて夢を見たいと思った瞬間であった。








あの時は夢を見ることはなかった。
元の世界に帰ってきてから数週間後、もうずっと同じ夢を見続けている。
自分を夢だと言った青年が空を飛び、雲に呑み込まれるようにして消えていく。彼は消える瞬間、とても満足そうな表情を浮かべていたように思えた。
また小さな騎士は、彼とよく似た少年と向かい合い、ぎこちなく手を触れる。彼もやはり満足そうに微笑み粒状となって消えていった。
どちらにも共通しているのは、本当に満足か、それとも諦めか。
前者であればいい、と願う。
ライトは旅の合間に少しずつ、彼らの記憶を記録として残すことにした。
それはいつか自分が亡くなった時、一緒に持っていこうと誓いながら。


****
変な話になった…夢の話。2(67)と10の指している"夢"は違います。2が指すのは≒目標で10は眠って見るもの…というよりは儚いものって感じかな?この話のライトさんはどの「夢を見る」も指しているので、分かりにくいかも…
10と3(これは妄想ですけど)の真実を知るとしたら、ライトさんしかあり得ないなって勝手に思ってます。
オニオンナイト=イミテーション説で、色々考えたんですが、
@ルーネスと統合、消滅
Aイミテーション自体消滅
B3の世界に帰らず、残ったイミテーションをまとめ、世界を少しずつ元に戻す
で、私はBを押してるんですが、今回は@を選択してみました。


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