焔に抱かれた氷水1 | ナノ



カオス側についたおれは、怪我療養のため暫く瓦礫の塔にいた。
その間にちょこちょこティナが面倒を見てくれたおかげで、大分良くなった。
よく死ななかったと自分でも思う。
幸か不幸か、コスモスのみんなには逢っていない。逢ったとしても、おれは結果的にカオスの一員となってしまったので、戦わざるを得ないのだが。

(傷は癒えてきた…彼女が出るなら、おれも…)

バッツは力なく笑った。
もうすっかり裏切り者である。しかも自分はティナと違い、自らこの道を選んだ。
その事実が自分に重くのしかかってくる。
何も考えていたくなくて、とりあえずティナを探しに行こうと決めた。
バッツにとって今ティナの存在が唯一救われる。たとえ彼女が操られていようとも、半ば人質であろうとも。
瓦礫を避けながら歩いていると、ティナはすぐに見つかった。
入口近くの壁に凭れて、目を閉じている。
どうやら眠っているらしい。
バッツはそっと近付き、起こさないように隣に腰掛けた。


「…どうしたの」
「ああ、起きてたんだな」
「人の気配がしたから」


ティナはゆっくりと目を開いて、バッツに視線を向けた。
虚ろな瞳は変わらない。


「もうすぐ戦場に出るわ。あなたはここにいて」
「は…?」
「まだ完治していないから」


そう言って立ち上がった少女の腕を、バッツは戸惑いなく掴んだ。
彼女は不思議そうにバッツの方を振り返る。


「おれも、出る…ティナ一人に無茶をさせるわけにはいかない」
「私は平気。でもあなたは…」


ティナが平気なわけがない。あやつりの輪が外れた時、彼女がどうなるかおれには分からない。
それでも心は深く傷つくだろう。彼女はそういう子だと思う。
バッツはこちらを見下ろしているティナに首を振った。


「おれも行く。ティナの騎士、だからさ」
「…そう。では準備しておいて」
「よっしゃ」


バッツは軽く返事をして立ち上がった。
まだ彼らと対峙をしていないのに腕が震えた。
バッツは右腕を自分の左腕で押さえ、ティナに向けてにっと笑った。
ティナの視線は、それでもバッツの右腕にあった。






瓦礫の塔から出た時に、ティナが立ち止まった。
どうかしたか?と聞く前に急に飛び上がってどこかに行ってしまった。


「ちょ、おい!……」


引き留めようにも既に行ってしまった後なので、バッツは仕方なくティナを追うことにした。
気配に敏感なティナのことだ。何かを感じ取ったに違いない。
走ろうとした時に、背後に誰か現れる。
この気配はあまり知らなかった。


「…誰だよ?」
「ケフカから聞いていたが、本当にこちら側についていたとは」


振り向くと、皇帝と時の魔女が立っていた。
バッツは皇帝の言葉に腹の底から笑いたくなった。
カオスにいるが、決してお前たちの仲間ではないと、そう言いたかった。


「カオスにってことか?まあ結果はそうだな」
「貴様の力は面白い。ぜひ敵として、コスモスに加担する虫けらどもに見せてやりたいものだな」
「悪趣味だな、あんたら」
「私たちはお前が戦えるのか見極めにきたのです。ただ命令されたまま動く人形ではなく、自らこちらの道を選んだお前の、その姿を」
「………」


バッツは、何も言えずにカオスの2人を睨んだ。
皇帝の方は、口角を上げてケフカと同じように愉しくて仕方がないようだった。


「カオスのために戦うわけじゃないさ。ティナの騎士だから役目を果たす。ただそれだけだ」
「なるほど、あの小娘のためにですね」
「お前も私に仕えさせたかったが、まあいい」


皇帝はすっと腕を伸ばし、ティナの消えた方へと指をさした。


「コスモスの連中が三人来ている。それに引き換えカオスはあの娘一人」
「……」
「騎士ならば、あの娘が壊れる前に行くべきではないか?」


(誰のせいで足止めを食らったんだよ)

バッツは舌打ち、ティナの飛んで行った方へと走り去った。
皇帝とアルティミシアは声を出して笑う。


「壊れゆく世界の前座にはなりそうですね」
「そうだな。あの娘の力…私も欲しかったが」
「ふふふ。壊れやすい人形など、持っていたところで何も役に立ちませんよ」


アルティミシアは嘲笑を浮かべた。
皇帝は彼女に言い返さずに、ただ不気味な微笑を浮かべていた。




(…まだ、腕が震える…)

バッツは心の中で自分を叱咤した。
このままではティナを助けるどころか、自分のせいで殺してしまうかもしれない。
ケフカは狂人で何を考えているのか分からないので厄介だと思った。

(自分で決めたことだ…だからやり通す。それが、唯一彼女を救う…)

仲間の死ぬところを見たくないと思った。
自分の手で殺してしまうかもしれない矛盾に気付きながらも、バッツはカオス側にいることしか出来ないと感じていた。




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