一難→また一難3 | ナノ


浮気の物的証拠を得たことで帰ろうとしていた刹那だったが、思わぬ人物との出逢いにすっかり気力を失ってしまった。
しかも互いに自己紹介をしたあと一緒に夕飯を作り、二人分だったものを三人分にして食した。


「兄さん、化粧落として着替えてこいよ。さすがに初対面の奴にインパクトでかすぎだろ」
「(既に遅いが)」
「えー!せっかく綺麗にしたし…」
「…あっそ。ああ、そうだ。玄関に口紅落ちてたぞ」


ライルはジーンズの後ろポケットから先程の浮気の物的証拠…だと思っていた口紅を取り、ニールに渡す。
ニールはそれを受け取り、何故か喜んでいた。


「家に落としてたのねー!お気に入りだったからなくしたと思って焦ったわー」
「え……?」


浮気の証拠ではなく、どうやら兄の仕事の持ち物だったらしい。
刹那は兄に対して容赦なく文句を言うライルの顔を見て、それからいかに自分が取り乱していたか…を思い出し、頭を抱えた。

(勘違いで、あんなことを言ってしまった)

刹那は穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。
先程とは違う意味でさっさと帰りたくなったが、凄い力でライルに手を握られている。逃げられない。
いっそのこと意識を飛ばしたいと思った。いざしたら意識を取り戻した際どうなるか分からないが。
片手で食べるのは難しかったがなんとか終えて、帰ろうと立ち上がったところライルに睨まれた。
まるで自分が浮気をして咎められているような…そんな雰囲気である。


「兄さん、俺らはこの辺で。邪魔すんなよ」
「ら、ライル…俺は、」
「はいはい。せっちゃん、楽しんでってね!」
「慣れ慣れしく呼んでんじゃねーよ」


ライルは刹那を引っ張り自分の部屋へと連れて行こうとニールに背を向けた。
ニールは弟の後ろ姿を見ながら、ぼそりと呟く。


「…俺、女だけが恋愛対象じゃないから」
「……」


刹那にはよく聞こえなかったが、ライルは一瞬足を止め、振り返らずに再び歩き出した。






「さあ、刹那。イ●ポ野郎とか…さっきの言葉の意味を教えてもらおうか」
「……」


やはり根に持っていた。
刹那はベッドの端に座らされて、座れるだけましか…と自分で自分を慰める。
いきなり襲われないだけましだと思う自分が、酷くいやであった。


「…あの口紅が、お前の兄のものだと思わなかったんだ…」
「…で?」


おそらく全て分かっているのに意地悪く聞いてくる。
刹那はライルの顔を見れずに俯いたまま、小さな声でぼそぼそと言った。


「…浮気、かと思った」
「…あのな。ま、お前と付き合う前は手あたり次第に見えただろうし、しょうがないところもあるけど」
「……」
「もう数えきれない程お前の家に通ってんのに、浮気する余裕なんてあるか。それ以前に骨抜きにされてんのに」


ライルの言葉に、刹那は驚いて顔を上げる。
思ったよりも近くにあったライルの顔に、刹那は動きが止まった。
ライルは思った通りの刹那の反応に柔らかく微笑み、軽く唇を合わせる。
何度も啄ばむライルに刹那はさすがにやりすぎだと胸を押すが、全く動かずに逆にベッドに倒される。


「ん…ライ、」
「イン●野郎の発言は聞かなかったことにしてやるよ。二度目はないと思え」
「う、…ん…っ」


快感に耐えながら返事をすると、ライルの機嫌が少し良くなったようだ。


「……今日は何か、こうやっていたいな」


シャツが皺になる、と文句が出かかったが、呑み込む。
刹那自身も軽くキスをして抱き締め合いたいと思ったからだ。
上にのしかかっていたライルが刹那のすぐ横たわったところで、刹那からも鼻の頭、頬に唇を落とした。
刹那から仕掛けることはほとんどない。
そのせいか、ライルは暫く目を丸くしていた。


「…刹那」
「俺も、だ」
「…そっか」


ライルは笑いながら、刹那の身体を抱き締めた。
穏やかな気持ちでライルといることが出来たのは、初めてかもしれない。
二人は風呂も入らずにそのまま眠ってしまった。
翌日ライルが仕事に行くのと同じ時間に置き、支度をする。
家まで送ってくれると言ったライルに断りを入れ、バス停まで歩くことにした。シャワーする時間を入れていなかったため、ライルが遅刻しそうだったからだ。
何か言いたそうなライルだが、そのまま刹那にひとつキスをし会社に行く。
ライルと別れバス停まで行こうとしたところ、不意に後ろから腕を取られた。
何事かと思い振り返ると、そこにはライルの兄が化粧もせず素のままでいた。


「…?ライルの……ニール、さん?」
「そ。刹那は今日仕事休みなんだろ?少し俺に付き合わない?」


ライルと同じ意地の悪い笑みを浮かべたニールに、刹那は腕を振りほどくことが出来なかった。

****
ライルとハレルヤがかすむ、ニールの登場でした。
すいませんでした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -